今回は、国内で2番目に栽培されているマンゴーの品種「キーツ」の話題です。
「キーツ」は、国内で最も栽培されている「アーウィン」よりも収穫時期が1ヶ月程度遅く、果実が大きく、果皮が緑色のままで収穫されます。
味と香りは「アーウィン」より濃い感じ(酸味がやや高い)で、15年程前は「匂いが強くて苦手」という人も多かった様です。
しかし、最近では外国産の香りが強いマンゴーが加工原料として多く使われる様になり、マンゴーの香りが認知されつつあります。
「キーツ」の香りは、濃いと云っても数多くあるマンゴーの品種の中ではマイルドですので、人気が上昇してきたのもわかります。
それでも「キーツ」は生産量が少なく、未だ「知る人ぞ知る」「幻のマンゴー」と云った説明をされることが少なくありません。
また、果皮が薄緑色で収穫されるために、生産者が収穫適期が難しいとも云われています。
収穫が早すぎると、収穫後の追熟が上手く進まない、糖度が十分にのらない等の問題が発生します。
逆に収穫が遅すぎると、果肉が溶けた様な生理障害(果肉崩壊症)が発生する等の問題があります。
キーツの収穫適期は、果皮色の微妙な変化や果形の変化、果梗部(ヘタ)付近のシワの発生程度等が収穫の目安とされることが多い様ですが、それだけでは十分でないことが知られています。
最近では、宮古島での調査研究から「果実長径が5cm程度(仕上げ摘果時期の果実サイズ)から110~130日後が収穫の目安」という概念が生まれています(比嘉ら.2007)。
これを従来の収穫時期の目安に加えることで、より収穫適期がわかりやすくなると思います。
詳しくは、沖縄県の北部農業改良普及課の普及だより(ちむ美らさ);第41号;p.3(PDFファイル:1136KB)の記事「マンゴー「キーツ」の取り頃・食べ頃の判定」にまとめられています。
さて、前置きが長くなりましたが、ここからが今回の本題です。
「キーツは緑色だから売りにくい」という意見が以前からあります。
私としては「それがキーツの個性なんだから受け入れてあげてよ」「味が良いとか、優れた個性を評価してあげてよ」と思うのですが、「果皮色が暖色ならなぁ」という気持ちもわかります。
日本国内や台湾では「紅キーツ(赤キーツ)」と呼ばれるマンゴーが出回ることがありますが、これは「キーツ」とは別の品種です。
「紅キーツ」については、後日改めて記事を書く予定ですので、今回は「紅キーツと呼ばれるキーツとは別品種のマンゴーがある」ことを覚えてください。
写真2:キーツとは別品種の「紅キーツ(玉文5号)」
今回は本物の「キーツ」を用いた果皮色変化の実験の話をします。
台湾で1994年に発行された「芒果栽培技術」という書籍には、袋掛けで遮光袋を用いることで「キーツ」の果皮を黄色っぽくできることが記されています。
しかし、国内でそれを実践したという話を聞いたことがありません。
そこで、今年の夏に試す機会に恵まれましたので、その結果を以下に記します。
まず、調査に用いたのは、80L鉢に植えられた「キーツ」2樹。
調査果実数は6果でした(初着果のため果実数が少ない)。
そのうち2果にビワで用いる単層で内側が黒色の袋(以下、ビワ袋)を被せました(写真3)。
写真3:ビワ袋(縦×横=24cm×19cm)
残りの4果にはキーツ用(通常のマンゴー袋より大きい、縦×横=29.5cm×18.8cm)として売られている白色の袋(以下、白袋)を被せました。
袋を被せたのは、5月13日。
ビワ袋を被せた黒実の長径は8.2cmと7.0cmでした(写真4)。
写真4:袋掛け時の果実(5/13)
白袋を被せた果実の長径は測定しませんでした。
調査途中で、収穫を待たずにビワ袋を被せた1果(5/13に果実長径が8.2cmだったもの)が落果してしまいました。
そんなハプニングがありつつも、収穫を迎えた8月24日。
4月下旬に果実長径が5cm前後になっていたので、それから120~130日後の収穫です。
収穫後の果実は、すでに白袋とビワ袋で果皮色が異なっていました(写真5)。
写真5:収穫直前の果実(8/24)(左:白袋を掛けた果実、右:ビワ袋を掛けた果実)
これを8~10日追熟すると、ビワ袋をかけた果実の黄色味は増し、白袋との果皮色の差はさらに大きくなった気がします(写真6)。
写真6:食べ頃の果実(左:白袋を掛けた果実、右:ビワ袋を掛けた果実)
そして、気になる味を確認。
白袋を掛けた果実3果の Brix は16.3~18.1%に対し、ビワ袋を掛けた果実1果の Brix は15.6%でした(表1)。
表1:袋の種類と果実糖度
食味調査の結果も Brix 値が低い果実は、甘味が少なく、酸味が強いため低い評価となりました。
今回は果実数が少ないので味の評価はまとめませんが、前述した「芒果栽培技術」には以下の様に書かれています。
キーツは果実の酸がやや高い品種で、黒色や銀色の袋を使用すると、果実に日照が当たらないので、果実の酸はさらに高くなり、この欠点は消費者には悪評である。 (伊藝安正 訳) |
遮光袋を掛けると味が悪くなることは、ある程度予想されていました。
今回も、その轍を踏んだ結果となった気がします。
しかし、「光の条件を変えることで果皮色を変えることが可能」ということが実践で確認できたので、次回は地植えの成木を用いて、資材や袋掛けのタイミングを模索し、白袋と同等な食味で果皮色を変えるのに挑戦したいです。
目標は、Brix 18%以上の「ゴールデンキーツ」です。
○参考文献
・「熱帯果樹マンゴー(キーツ種)の熟度判定技術の開発 第2報収穫後の食べ頃表示技術の開発(PDFファイル:292KB)」.2007.比嘉淳・砂川喜信・貴島ちあき・屋良利次・伊山和彦・伊志嶺弘勝・與座一文.沖縄農業研究会;平成19年度(第46回)大会 講演要旨.
・「マンゴー「キーツ」の取り頃・食べ頃の判定」.2009.高橋・井上.普及だより(ちむ美らさ);41号;p.3(PDFファイル:1136KB)沖縄県 北部農林水産振興センター農業改良普及課.
・「芒果栽培技術」.1994.劉銘峰.(1994.伊藝安正 訳).台南区農業改良場新化分場.