《ミトコンドリアは細胞の中にあって、呼吸をつかさどっている。「細胞内呼吸」と呼ばれている。呼吸とは、息を吐き、吸うことだけでなく、酸素を使ってエネルギーを生み出すこと。ミトコンドリアは細胞内の呼吸の場であり、代謝の場である》
こうした知識は、今ではかなり一般化している。
現代人のストレス生活に鍵を握る呼吸に関連し、呼吸法などもヨガなどを中心に、実践されている。
その場合は、意識を吐く息にまとめ、吐ききったところでからだを緩めれば自然に息は入る、と教えてくれる。「吐いてー、吸ってー、吐いてー、吸ってー」、玄人になれば「踵で呼吸する」とこまで到達できる、というわけだ。
「踵?」
「深い呼吸、ということです」
生徒の問に答える。
「腹式呼吸は、腹に空気が入ってくる呼吸だと勘違いして、言葉通りに受け取る人だっているんですから。ちゃんと注意しないとね!」
思い起こすのは、野口三千三の呼吸についての講義。それと同時に行われるパフォーマンスだ。
吐く息だけでなく、息をすって「保息」の働きの重要性を、みせてくれる。
まず、野口が仰向けに横たわる。ご自身より20キロ近く体重が軽い女性を選んでおく。女性を両肩ギリギリのところに左右の足を開いて立たせる。そして腹の上に座らせる。
このとき野口は、息を吐ききっている。
次に、床に接している女性の足をあげさせる。いわゆる「体育座り」の足をあげることになる。重さは野口の腹にかかってくる。その状態で息が入ると、女性のからだは上に持ち上げられる。
今度は目一杯吸い込んで、吐くことも吸うこともしない「保息」状態であることをわからせる為に、野口は口を軽く開いても息が出ていかないことを、もう一人の人の手をかざして確かめてもらう。
具体的に横隔膜はどのようになっているのか。
横隔膜式呼吸(腹式呼吸)の場合、息が吸われると横隔膜は下げられる。これを仰向け姿勢で行うわけで、腹の上にのっている女性は、持ち上げられて状態で保たれている。示したかったことは、呼吸における横隔膜の力は、相当に強いことだ。からだの内部圧力を高めることができることを実証してみせたことになる。
このときに大事なことは、腹筋の力が抜けていること。
たとえば立つ姿勢の場合には、腹筋が働いて固められていると、横隔膜が下げにくくなる。内蔵が前や横に移動できないからだ。つまり横隔膜式呼吸では、腹筋が働くと動きの邪魔になる。
仰向け姿勢の場合でも向きが異なるだけで同様である。
他にも、横隔膜によってからだを守る例として、前突きがある。
まず、直立した姿勢で、腹筋が緩んでいることを実感させる。その後、横隔膜式呼吸(腹式呼吸)で横隔膜を下げ、そこで「保息」状態にしておく。腹を突かれても、ふにゅっと緩まないことが肝心だ。
相手に拳による前突きをさせる。かなり強い突きでも、横隔膜の位置が下げられている状態が保てれば、内蔵を守ることができる。そのことを示すパフォーマンスを行っていた。
伝えたいことは、呼吸における感覚を磨くとき、横隔膜を下げた状態の「保息能力」が高いことが、いかに重要であるかだ。
一般的に名人は「間の取り方」が違うというが、それこそが「呼吸」の上手さなのである。とりわけ吐くことも吸うこともしない「保息」と「止息」が「間」なのでる。
前回の「円柱形・円筒形」と「筋膜」の話に、「呼吸」が加わると、「静かなるほぐし」が本当の意味で生かされてくる。構造と機能が見事に調和した時、人のからだの内側には、気持ちよい海が広がる。
あえて言おう。
呼吸を極めることは、「ミトコンドリア・イブ」に出会う旅に出ることかもしれない。そのまま存在のルーツを探る旅。
そして、なぜ父親のミトコンドリアは受精卵で食べられ消滅してしまうのか、そんな生命の不思議に思いを馳せる時を過ごすことも、体操の醍醐味かもしれない。
こうした知識は、今ではかなり一般化している。
現代人のストレス生活に鍵を握る呼吸に関連し、呼吸法などもヨガなどを中心に、実践されている。
その場合は、意識を吐く息にまとめ、吐ききったところでからだを緩めれば自然に息は入る、と教えてくれる。「吐いてー、吸ってー、吐いてー、吸ってー」、玄人になれば「踵で呼吸する」とこまで到達できる、というわけだ。
「踵?」
「深い呼吸、ということです」
生徒の問に答える。
「腹式呼吸は、腹に空気が入ってくる呼吸だと勘違いして、言葉通りに受け取る人だっているんですから。ちゃんと注意しないとね!」
思い起こすのは、野口三千三の呼吸についての講義。それと同時に行われるパフォーマンスだ。
吐く息だけでなく、息をすって「保息」の働きの重要性を、みせてくれる。
まず、野口が仰向けに横たわる。ご自身より20キロ近く体重が軽い女性を選んでおく。女性を両肩ギリギリのところに左右の足を開いて立たせる。そして腹の上に座らせる。
このとき野口は、息を吐ききっている。
次に、床に接している女性の足をあげさせる。いわゆる「体育座り」の足をあげることになる。重さは野口の腹にかかってくる。その状態で息が入ると、女性のからだは上に持ち上げられる。
今度は目一杯吸い込んで、吐くことも吸うこともしない「保息」状態であることをわからせる為に、野口は口を軽く開いても息が出ていかないことを、もう一人の人の手をかざして確かめてもらう。
具体的に横隔膜はどのようになっているのか。
横隔膜式呼吸(腹式呼吸)の場合、息が吸われると横隔膜は下げられる。これを仰向け姿勢で行うわけで、腹の上にのっている女性は、持ち上げられて状態で保たれている。示したかったことは、呼吸における横隔膜の力は、相当に強いことだ。からだの内部圧力を高めることができることを実証してみせたことになる。
このときに大事なことは、腹筋の力が抜けていること。
たとえば立つ姿勢の場合には、腹筋が働いて固められていると、横隔膜が下げにくくなる。内蔵が前や横に移動できないからだ。つまり横隔膜式呼吸では、腹筋が働くと動きの邪魔になる。
仰向け姿勢の場合でも向きが異なるだけで同様である。
他にも、横隔膜によってからだを守る例として、前突きがある。
まず、直立した姿勢で、腹筋が緩んでいることを実感させる。その後、横隔膜式呼吸(腹式呼吸)で横隔膜を下げ、そこで「保息」状態にしておく。腹を突かれても、ふにゅっと緩まないことが肝心だ。
相手に拳による前突きをさせる。かなり強い突きでも、横隔膜の位置が下げられている状態が保てれば、内蔵を守ることができる。そのことを示すパフォーマンスを行っていた。
伝えたいことは、呼吸における感覚を磨くとき、横隔膜を下げた状態の「保息能力」が高いことが、いかに重要であるかだ。
一般的に名人は「間の取り方」が違うというが、それこそが「呼吸」の上手さなのである。とりわけ吐くことも吸うこともしない「保息」と「止息」が「間」なのでる。
前回の「円柱形・円筒形」と「筋膜」の話に、「呼吸」が加わると、「静かなるほぐし」が本当の意味で生かされてくる。構造と機能が見事に調和した時、人のからだの内側には、気持ちよい海が広がる。
あえて言おう。
呼吸を極めることは、「ミトコンドリア・イブ」に出会う旅に出ることかもしれない。そのまま存在のルーツを探る旅。
そして、なぜ父親のミトコンドリアは受精卵で食べられ消滅してしまうのか、そんな生命の不思議に思いを馳せる時を過ごすことも、体操の醍醐味かもしれない。