日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

短刀 金道 Kinmichi Tanto

2016-11-14 | 短刀
短刀 金道


短刀 金道

 初代伊賀守金道の、受領前の作。一尺六分五厘。ごくわずかに先反りが付いて、いかにも実用の姿格好。戦場では重宝されたかと思う。平肉も削いだ刃先鋭い構造であることから斬れ味も高い。地鉄はザングリと肌立つ板目に杢目交じりで、地沸が付き、杢状の肌目と映りによっておぼろ立つような景色が能動的。刃文は腰の開いた互の目が尖り調子となり、湾れが加わって構成は比較的複雑。刃境は匂口が引き締まって明るく、刃境にほつれが掛かり、刃中に色濃く広がり、沸筋砂流しとなる。帽子も刀身と平行に働く気配が濃厚で、地蔵風に乱れて返る中に火炎状に浮かび上がる。三品派の金道は、出身が戦国時代の美濃。京都に移住し、その頃隆盛していた相州伝を加味した作風を専らとした。帽子に、地蔵風に乱れ先がって返るところが美濃の作風を残しているところ。

脇差 信國 Nobukuni Wakizashi

2016-11-12 | 脇差
脇差 信國


脇差 信國 

 信國は山城刀工だが南北朝期に相州の影響を受けた刀工で、古伝のままの直刃出来と、湾れ互の目出来の、二手がある。室町初期応永頃の本作はその相州振りが強く意識された作。身幅広く重ね控えめは南北朝から室町初期の特徴的な造り込み。この工の得意とした彫刻も冴えている。地鉄は板目流れの良く詰んだ鍛えで、全面が細かな地沸で覆われてその一部に湯走りが掛かる。刃文は形の揃わない湾れの中ほどに互の目を加え、帽子は浅く乱れて深く返る構成。小沸主調の焼刃は、刃境にほつれがかかり、沸筋、喰い違い、二重刃が顕著に現れ、刃中にはその連続になる砂流しが加わるなど沸による変化に富んだ働きが窺える。

短刀 甘呂(俊長) Kanro Toshinaga

2016-11-11 | 短刀
短刀 甘呂(俊長)


短刀 甘呂

 生ぶ無銘の甘呂(俊長)と極められた、一尺をごくわずかに下回る短刀。造り込みは、南北朝頃に隆盛した小脇差。反りを控え、元先の身幅が広く重ねは比較的しっかりとしている切刃造の構造。地鉄は揺れるような板目肌に杢目が交じり、地沸が付いて地景も顕著に現れ肌模様は複雑で明瞭。刃文は浅い湾れで、形状が明確ではない。刃境がほつれ掛かり、大きく乱れる風や沸筋、砂流し、金線もそれほど多くはない。焼き幅の低さ、切刃造などから、激しい打ち合いを想定した作と思われる。甘呂俊長は近江の刀工で、同国の高木貞宗の門人。即ち相州貞宗の系流。激しい互の目よりも、本作のような控えめな湾れ刃を特徴としている。激しい乱刃だけが相州伝ではない。

刀 越州光行 Mitsuyuki Katana

2016-11-10 | 
刀 越州光行


刀 越州光行

 京の来派の流れを汲む刀工が越前に移住している。元来、それらの刀工は山城伝で作刀していたが、南北朝時代に隆盛した相州伝の影響を強く受けたものであろう、中にはこのように相州色を強くした作も遺している。磨り上げられて銘はないが、光行と極められている。磨り上げによって反りの少ない姿。身幅は南北朝時代の特徴で元先は広いのだが鋒は尋常。地鉄は良く詰んだ小板目肌と大板目の混成。小板目肌は本流来派の特質で、これに大肌が現れたもの。微細な地沸で覆われて明るい。刃文は湾れに互の目が交じり、互の目の所々が角のように尖っており、相州伝の要素を秘めている。だが、互の目の多くは不定形に乱れており、湾れに加わって深い互の目の構成も相州伝の特徴。刃境が沸でほつれ掛かり、地中には湯走りが広がり、刃中へも沸足、砂流し、沸筋が肌目に沿って流れるように入る。相州本流物でなくても、このように激しく、働きの濃密に現れた作があるのだ。

刀 古宇多 Ko-Uda Katana

2016-11-09 | 
刀 古宇多


刀 古宇多

 南北朝時代の太刀の大磨上。元先の身幅が広く、重ねは尋常でがっしりとした姿を遺している。地鉄は流れ調子の板目が詰んで目立ち、地沸が付いて所々に地景が窺える。刃文は焼の深い大小の互の目が連なり、帽子は掃き掛けを伴って焼き詰めとなる。刃中は沸が強く深く、足状に沸が刃先に広がり、これに砂流し沸筋金線が掛かって水が走りゆく谷川のように見える。宇多派は大和国宇陀郡から越中国に移住した國光に始まり、室町時代にかけて隆盛した刀工群。特に時代の上がるものを古宇多と呼び分けている。時代背景から大和伝よりむしろ相州伝を強く表した作を専らとしている。本作は鎌倉末期から南北朝頃と推考されるが、時代が降っても同様に地中に沸が広がる働きを示した作が間々見られ、本作同様に覇気に満ちた宇多の個性の一つとなっている。


短刀 藤原正弘 Masahiro Tanto

2016-11-08 | 短刀
短刀 藤原正弘


短刀 藤原正弘

 國廣の門人。國廣の甥にあたり、近しい関係から、その手足となったようだ。この短刀も、國廣に見紛う出来。同じ彫刻が師にもある。刃長は一尺七分だからこれも短刀とすべきか小脇差とすべきか迷うところ。反りが付いているので、南北朝時代を手本とした小脇差とした方が良いのだろうか。小板目状に緊密に鍛えられた地鉄は、國廣風にザングリと肌立っており、水影映りも顕著。刃文は互の目を主調に浅い湾れを組み合わせ、焼出しは直調。小沸を主体に匂を交えた焼刃は、明るく冴え、刃中に穏やかに砂流し沸筋が流れる。帽子は乱れ込んで先小丸に返る。

脇差 和泉守兼定 Kanesada Wakizashi

2016-11-07 | 脇差
脇差 和泉守兼定


脇差 和泉守兼定

 関兼定二代目、斬れ味鋭くノサダとよばれ崇められているあの兼定の相州伝である。志津の流れを汲むと伝え、浅い尖り互の目、直刃の他、この脇差のような湾れ調子に互の目交じりの刃文も焼いている。地鉄は板目肌が良く詰み、時に新刀地鉄のような微塵の小板目肌を見ることがある。この作では地沸が厚く付いて、ザングリとは異なるが肌立つ風が強く、これも斬れ味に関わりがありそうだ。刃境は沸で締まり、刃中は匂が満ちて凄みがある。帽子は掃き掛けを伴い、沸筋が流れ、ほつれ掛かるなど火炎風。そのまま長く焼き下がって棟焼となる。激しい打ち合いを想定した作である。

脇差 丹波守吉道 Yoshimichi Wakizashi

2016-11-05 | 脇差
脇差 丹波守吉道(大坂二代)


脇差 丹波守吉道

 この一門の作はたびたび紹介しているように、比較的作例が多い。理由はもちろん、当時人気を誇った流派であるからだ。刃文に独創的な構成を展開し、後の多くの刀工に刃文構成の美意識を植え付けた。初代吉道の活躍の後に大坂の助廣が濤瀾乱を生み出し、真改が霧の起ち込めるような刃文を生み出した。さて写真の吉道は、ちょっと時代が下って大坂に移住して栄えた大坂丹波と呼ばれる吉道の二代目。刃文は、相州伝を基礎にゆったりとした湾れの中に刀身に平行な沸や匂いの筋が流れるように構成されたもので、川の流れを思わせる出来。おおらかで、妙趣に溢れているのだが、刀剣数奇者の先達が言い出した「なんだ簾刃か」という見下した評価がある。「なんだ…」はないだろう、失礼な。個性的な焼刃構成、良く詰んだ地鉄鍛えという時代の特色を良く示し、高い技術が備わって斬れ味も鋭いにもかかわらず、馬鹿なことを言い出した先達の評価に惑わされている方々が意外にも多いことに気づく。この刃文は、決して、誰が言い出したかもわからない「簾」を意識して焼いたものでないことは、我が国の絵画の歴史を眺めれば容易に気づくはず。この刃文は、相州伝の焼刃構成を基礎に、川の流れを表現したものだろう。丹波守吉道が「この刃文は簾を表現したものである」と明示した文書があるならそれに従うが・・・。


刀 南紀重國 Shigekuni Katana

2016-11-04 | 
刀 南紀重國


刀 南紀重國

 紀州徳川家に仕えた國重は出が大和鍛冶。大和伝や、焼刃に相州伝を採り入れた作を遺している。本作が相州振りを漂わせる作。刃文構成が大きく乱れていないことからちょっと見には分かり難いが、相州伝である。地鉄は板目が強く示され、地沸が厚く付いて地景が肌目を強調しているところは大和伝でも相州伝でもあるが、この刀では柾気が強く表れており、大和古伝が基礎にあることは明瞭。この地鉄の流れは直湾れの刃中にまで及んでいる。ゆったりと浅く湾れた焼刃は、沸が強く深く明るく、その抑揚のある中を金線、沸筋が流れる。地刃共に鍛え目を強調するかのような出来であり、相州古作則重にも通じるところが窺える。江戸時代の五箇伝は、古作のような伝法一色に染まっているわけではない。様々な技術を採り入れているところから、例えば「國廣の特伝」のように表現する。これもそのような一つ。江戸時代の刀は伝法にこだわらずに見た方が良いのかもしれない。

刀 國包 Kunikane Katana

2016-11-02 | 
刀 國包


刀 奥州仙臺住國包

 國包は大和保昌の末流と伝え、柾目鍛えに浅い湾れ刃か直刃を焼くを得意とした。この刀も地鉄は柾目が良く詰んで小板目肌に見えるほど。だがここに、焼の深い湾れと地に突き入るような互の目を焼いている。丸く返る帽子はわずかに掃き掛けており、総体の雰囲気は大和伝ではなく相州伝。ゆったりとした湾れの所々に互の目を交えた刃文構成で、帽子は浅く乱れ込んで先が掃き掛け調子に丸く返る。刃中は小沸を主体に淡い匂が加わり、細かなほつれ、砂流し、金線が刃中を走る。互の目は尖り調子と丸みのある焼頭、玉状の刃も窺える。日本刀は刃文だけが見どころではないことを説明している。細密に詰んだ柾目鍛えと、沸深い焼刃が感応し合って刃中に流れるような景色を生み出している。その辺りが鑑賞の大きな要素だろう。物打辺りの歪んだ玉焼刃も面白い。

脇差 津田助直 Sukenao Wakizashi

2016-11-01 | 脇差
脇差 津田近江守助直


脇差 津田近江守助直

 相州伝を基礎に良く詰んだ美しい地鉄と、微細にして粒の揃った沸による濤瀾乱と呼ばれる刃文を展開し、真改と共に大坂の横綱に格付された津田助廣の技術をそのまま受け継ぎ、さらに互の目に自然味を加えて独創を展開したのがこの助直。この刀は、鎬地にまで達する大互の目と湾れを組み合わせた、自然味のある刃文構成。刃中は真改のように沸が深く明るく、粒子も揃っており、拡大観察では、この沸の満ちた中に砂流しが掛かり、濃淡グラデーションが付いているのが判る。江戸時代前期における相州伝の一つである。