英国の原発政策

2011年04月25日 | 防災と琵琶湖




【概要】 



2006年末現在、英国で運転中の原子力発電所は19基、
総発電電力量に占める原子力発電の割合は18.4%。

File:Storm Clouds over Sellafield - geograph.org.uk - 330062.jpg

英国では1996年に原子力発電の民営化がほぼ完了し、
マグノックス炉(GCR)20基は英国原子燃料会社(
BNFL)が、残りの発電所は民間のブリティッシュ・
エナジー(BE)が所有している。BNFLは100%国営
企業であり、発電から燃料サイクル全般に至る広範
な業務を行っていたが、2006年10月、施設管理・除
染・デコミッショニング部門であるBNG(ブリティ
ッシュ・ニュークリア・グループ)の分割売却方針
を発表して、部分民営化の方針を明らかにした。



BNFLは2000年5月、経済的な理由から所有するマグ
ノックス炉20基全てを2010年までに閉鎖する計画を
発表している。英国貿易産業省(DTI)は、2003年2
月にエネルギー白書「英国エネルギーの将来-低炭
素(ローカーボン)経済の創造」を公表した。白書
では2050年までにCO2排出量の60%削減に取組むこと
が強調され、温室効果ガス排出量抑制やエネルギー
安全保障の観点から原子力発電は不可欠として、
2006年7月、新規原子力発電所の建設を含めたエネル
ギー政策へ大幅に路線を修正した(ATIMICA)。




・2009年度現在、19基・1195万kWを運転中。現在の
主力はガス炉AGR(14基)、GCR(4基)と軽水炉(1
基)。原子力発電のシェアは20.5%(2005年)。石
炭は34%、天然ガス39%。
・小型のGCRを中心に26基が停止済み。
・運転中のガス炉(AGR、GCR)は1970~80年代に運
開のため、20年以内に廃止。新設がなければ、20年
後には運転中の原子力発電所は1基(PWR)のみに。
・1997年に反原子力の立場を取る労働党が18年ぶり
に政権を奪還。ブレア首相は運転中の原子力発電所
の運転継続は認めたものの、新規建設は凍結。
・同政権は2期目には原子力を事実上、容認。しか
しこの間に、英国の原子力産業は急速に解体が進む。
・原子力発電炉も旧式のGCRを中心に、総基数の過半
数(26基)が閉鎖。
・北海油田の減産により、2006年に英国は石油の純
輸入国に。
・英国は京都議定書により2010年に1990年比-12.5%
のCO2削減義務を負うが、2006年時点では-5.3%にと
どまる。⇒ 原子力の衰退で、エネルギー・セキュリ
ティの確保と、CO2削減の困難さが政治問題にブレア
首相は、退任1年半前の2005年秋頃から、原子力発
電所の新設を含む原子力政策の見直しに言及
・「運転中の石炭火力および原子力発電所の退役に
よる穴を埋めるには、再生可能エネルギーでは十分
でない」。CO2放出量抑制の面からも、原子力発電支
持への転換を強く示唆(2005/11、英国産業連盟年次
大会での発言)。
・エネルギー政策を再検討するため、エネルギー相
をヘッドとする委員会を設置(同)。
・「原子力発電をエネルギー・ミックスに組み込ま
なければ、温室効果ガス削減目標を達成しつつエネ
ルギー需要をまかなうことは困難」(2006/3、下院
での発言ブレア首相の退任直後の2007年7月、ブラウ
ン新政権は、原子力発電所の新規建設を含む「新エ
ネルギー政策」を発表、原子力推進に大幅転換
・2025年までに2,500万kWの新規電源が必要
・既存原子力発電所の大規模なリプレースを推進
・原子力への政府補助金は否定、商業ベースでの建
設を求める
・不確定性を減らすため、許認可改革や廃棄物政策
を進める(インフラの整備)。
新エネルギー政策にもとづき、英ビジネス・企業規
制改革省(BERR、旧産業貿易省)は、2008年01月に
原子力政策白書を発表。
・二酸化炭素排出量の削減を通した気候変動への取
り組みと、エネルギー供給の信頼性確保を「2つの
長期的課題」として設定。

【新原子力政策白書の概要】

・2023年までに英国の原子力発電所は、1基を除き
閉鎖へ(運転期間を終了)。CO2放出量は2004年比5
~12%増に。
・今後20年間に1000万kW分の原子力発電所建設が必
要であり、促進に積極的な手段を講じる。
・最初の新規原子力発電所を2013~14年に建設開始
できるよう、規制枠組を整える
・廃炉・廃棄物費用積立等でエネルギー法を立法。
英気候変動省(DECC)は2009年1月、産業界に新規原
子力発電所の建設候補サイトを登録するよう呼びか
け。受付け期間は3月末までの2か月間。
・仏電力会社(EDF)の英法人が5サイト、原子力デ
コミッショニング機構(NDA)が4サイトなど登録
の意向。EDFは、英国の原子力発電所15基を所有す
る原子力発電会社「ブリティッシュ・エナジー」を
買収、(1月買収終了)。新規原子力発電所建設にも
意欲。ヒンクリーポイントとサイズウェルの両サイ
トに各2基ずつEPR(欧州加圧水型炉)を建設する計
画。
・ドイツ最大の電力E・ON社は1月、同国第2位のラ
イン・ヴェストファーレン電力(RWE)と、英国で新
規原子力発電所を建設するためのジョイント・ベン
チャーを設立。
・スペインの大手原子力発電会社イベルドローラ社
は1月、新規原子力発電所建設を目指し、英スコティ
ッシュ&サザン・エナジー(SSE)とジョイント・ベ
ンチャー。英政府は、新規原子力発電所向けの事前
設計認可の審査対象として、①カナダ原子力公社(
AECL)のACR1000(120万kW、その後取り下げ)、②
仏アレバのEPR(160万kW)、③米GE日立ニュークリ
アエナジー社(GEH)のESBWR(155万kW)、④米ウェ
スチングハウス社のAP1000(110万kW)―の4炉型を
選定、フェーズI終了(2008年3月)。英国政府の
政策転換を受けて、1987年のサイズウェルB原子力発
電所(125万kW・PWR)の発注以来、20年ぶり以上と
なる新規建設に向けて具体的な動き。
・しかし、英国の原子力産業は実質的に解体。国内
プレイヤーの影は薄く、原子力でも「ウィンブルド
ン化」の模様。



【エピソード】

 

脚注及びリンク】
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(1)「世界の原子力開発の状況-英国の原子力発電
  が復活の兆し-」
(2009年2月12日)
(2)「
イギリスの原子力政策および計画
(3)「Nuclear power in the United Kingdom
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