-------------------------------------------------------
9・3 公開シンポジウム「巨大震災は海洋沿岸の生物
にどのような影響を与えたか?東日本大震災から学んだ
こと
-----------------------------------------------------
❏ 磯の生き物だちと東日本大震災
野田隆史・岩崎藍子(北海道大学地球環境科学研究院)
1.はじめに
磯浜の干潮時こ干出する部分である岩礁潮間帯には、様々
な海藻や底生動物(たとえば貝類やフジツボ)が生息して
いる。そのうち、最も分布量の多いのは固着生物であり、
海藻や固着動物(たとえばフジツボやイガイ類)が含まれ
ます。いずれも岩の表面に固着して水流が運んでくる養分
や餌を利用して生活。
彼らはいったん岩の表面に付着した後は移動することはで
きませんが、いずれも生活史の初期には胞子や浮遊幼生と
して短い分散期間を過ごし、親個体から離れた場所に定着
します。固着生物のほかに、底生無脊椎動物(たとえば巻
貝や笠貝)の植食者や肉食者が見られます。かれらは岩の
表面を這いながら海藻や固着動物を餌として生活していま
す。かれらの多くも、生活史の初期に浮遊幼生期間を過ご
したのちに底生生活を送る。
2.岩礁潮間帯の環境と生物
3.人間社会への災害としての東日本大震災
2011年3月11日に三陸沖を震源として発生した東北
地方太平洋沖地震は、地震の規模を示すマグニチュードは
Mw9.0 で、日本の観測史上最大の地震です。この地震は、
東日本大震災と呼ばれる戦後最悪の自然災害を人間社会に
もたらしました。本地震により生じた強い揺れ(地震動)
は東日本全域で6分間以上も継続し、宮城県北部で最大震
度7、岩手県から千葉県にかけては震度6 弱以上となりま
した。この強い地震動は、各地で建物の損壊、傾斜地の崩
落、停電、埋立地での液状化現象を引き起こしました。ま
た、東北地方の太平洋岸では地震に伴う地殻変動により数
十センチの地盤沈下が生じたため、その後長きにわたり高
潮時の浸水被害が続くこととなる。さらに、地震の数十分
後には大津波が太平洋沿岸を襲来する。このときの津波の
高さは岩手県南部から福島県北部では8m 以上に達し、浸
水範囲は最大で海岸から6km の内陸部にまで達し、福島第
一原発事故を初めとする深刻な事故や悲惨な人的被害をも
たらす。
4.岩礁潮間帯の生物にとっての「東日本大震災」
2011年3月に生じた東北地方大平洋沖地震は、東北沿
岸に強い地震動と津波と地盤沈下を引き起こし、東北の人
々の暮らしに甚大な被害を及ぼしたが、岩礁潮間帯の生物
たちはどのような影響を受け、その後どのように変化・回
復してきたのだろうか。
津波と地盤沈下が岩礁潮間帯の固着生物の数と分布に及ぼ
した影響について紹介する。津波や異常気象などによる急
激な環境の悪化を撹乱という。撹乱は生物を減少させるが、
その際の生物の減少率は、一般に撹乱の物理的強度に依存
する。したがって東北地方太平洋沖地震によって引き起こ
された津波では、物理的強度が極めて大きかったため岩礁
潮間帯の生物の減少率も大きかったものと予想される。
そこで他の様々な撹乱と生物種を対象に「物理的強度」-
「生物の減少率」の関係を求め、これと今回の津波の物理
的強度と岩礁潮間帯の固着生物の減少率を比較してみた。
その結果、意外なことに津波よる固着生物の減少率はその
物理的強度のわりにはかなり小さかったことが明らかにな
った。
垂直方向ではわずかな距離で浸水時間が大きく変化する岩
礁潮間帯では、それぞれの固着生物はみずからの乾燥耐性
にあわせて数十センチ程度の垂直範囲に生息している。こ
のような固着生物の分布を帯状分布という。この帯状分布
は東北地方太平洋沖地震にともなう津波と地盤沈下の影響
を強く受けたはずである。そこで代表的な固着生物5種を
えらび、地震による帯状分布の変化を調査した。
その結果、地震直後ではすべての種において分布量の減少
は認められず、帯状分布の下方への移行だけが生じていた。
この結果は津波がこれらの固着生物に明らかなダメージを
及ぼさなかったことを示している。地震後1年から数年後
に一部の種では分布量の減少が生じた。これは地盤沈下に
よって本来の生息場所より深所に移動させられたことが原
因だと考えられる。
驚くべきことに一部の種は地震によってダメージをこうむ
るどころか地震後に大きく増加していた。
これは地盤沈下により深所に移った個体が死なない段階で、
本来の生息範囲に幼生や胞子が定着し成長することで、帯
状分布の幅が一時的に広がったことが一因だと考えられる。
いねば地盤沈下した場所から以前の生息潮位への「引っ越
し」において、一時的に古い家(沈下した場所)と新しい
家(本来の生息範囲)の両方を利用する個体がいる状況が
生じたからであると考えられる。なお、2017年時点(地震
6年後)では、岩礁潮間帯生物群集は未回復で、完全な回
復にはかなりの時間を要することが推察された。
5.おわりに
以上から、岩礁潮間帯の固着生物への東北地方太平洋沖地
震の影響は、人間における「震災」とは大きく様相が異な
ることが明らかとなった。すなわち、これらの生物への地
震の影響は津波ではなく地盤沈下によっておもに引き起こ
され、その影響は地震直後ではなく数年後にあらわれた。
そして一部の種はダメージをこうむるどころか地震によっ
て大きく増加していたのである。このことは重要なメッセ
ージを含んでいます。地震に限らず、自然災害あるいは人
為災害が生態系に及ぼす影響については、往々にして擬人
化して予想しがちですが、そのような「素人判断」は実際
の影響とはかけ離れたものとなる危険性が高いでしょう。
災害の影響は受け手によって全く異なるかもしれないこと
に留意すべきであろう。
【脚注及びリンク】
------------------------------------------------
- 群集生態学 北海道大学野田隆史研究室
- 滋賀県立大学で公開シンポジウム「巨大震災は海
洋沿岸の生物にどのような影響を与えたか?東日
本大震災から学んだこと」を開催、河北新報オン
ラインニュース - 野田隆史 磯の生き物だちと東日本大震災 2015.
08.17 - Ecological impacts of tsunamis on coastal ecosystems:
lessons from the Great East Japan Earthquake, 2016, - 磯の生き物たちと東日本大震災 野田 隆史 - Slide
Show JP - 滋賀県出身の人物一覧 Wikipedia
-------------------------;----------------------
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます