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9・3 公開シンポジウム「巨大震災は海洋沿岸の生物
にどのような影響を与えたか?東日本大震災から学んだ
こと
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❏ 東京電力福島第一原子力発電所
事故により放出された人工放射性物質の
海洋生態系における挙動
帰山秀樹(国立研究開発法人 中央水産研究所)
1.はじめに
東日本大震災に伴い、東京電力福島第一原子力発電所(福
島第一原発)では全電源喪失、核燃料の冷却不能に陥り、
環境へ大量の放射性物質が放出されるに至った。福島第一
原発事故により環境へ放出された主要な放射性核種は放射
性ョウ素(I-131)と放射性セシウム(Cs-134/Cs-137)であり
物理半減期が8日と短い放射性ョウ素は事故から半年ほど
でモニタリング調査では検出されないレベルまでその濃度
が低下した。
一方、物理半減期が2年(Cs-134)、30年(Cs-137)と比較
的長い放射性セシウムについては事故後数年にわたりモニ
タリング調査においても検出されて続け、一部の食品では
出荷制限の基準となる基準値(Cs-134/Cs137)の合算値で
100 Bq/kg生 )を超えており、その中、長期的な環境動態が
研究対象とされている。福島第一原発事故から6年以上が
経過した現在の海産物においては、基準値を超過する水産
物は全く確認されておらず、2015年4月以降、モニク
リング調査結果は全て基準値未満で推移している(下図)。
この講演では福島第一原発事故により海洋環境へ放出され
た放射性セシウムの海水としての拡がり、海底堆積物とし
ての分布、プランクトン、浮魚類、ベントス(底生生物)、
底魚類などにより構成される海洋生態系における挙動につ
いて演者ら水産研究・教育機構が実施してきた放射能調査
で得られた知見を中心に「漂泳区生態系」と「底生生態系」に
分けて紹介された。
2.漂泳区生態系
福島第一原発事故により海洋へ放出された放射性セシウム
が海水としてどのように拡がったのか、また海水から生態
系へ移行する段階にいる生物であるプランクトンの放射性
セシウム濃度の時間変化を中心にプランクトンを食べる小
型浮魚類などの放射性セシウム濃度レベルの推移を解明。
3.底生生態系
福島県沖を中心とした陸棚域の海底堆積物における放射性
セシるベントスや底魚類の放射性セシウム濃度などについ
て分析。
上図.2011年4月から2017年5月までの福島県におけ
る水産物(海産種および淡水種)の放射性物質調査結果。
棒グラフは四半期ごとの検査検体数(左軸)、折れ線は100
Bq/kg 生を超過した検体数の割合(右軸)を表す。なお、
2015年4月以降の海変種は全て100 Bq/kg 生未満。水
産庁ホームページより
※2011年3月より水産物の緊急モニタリング調査を開始、
それ以降海洋生態系を構成する様々な生物群、環境試料に
おける放射性セシウム濃度の把握と、放射性セシウムの海
洋生態系内における挙動を解析してきた。本研究では、海
洋生態系における放射性セシウムの挙動を把握する際の最
も基礎となる情報である、溶存態放射性セシウムの北太平
洋における拡散状況を採水調査の結果に基づき報告する。
調査は漁業調査船による資源調査航海などの機会を活用し、
バケツによる表層海水の採取や採水器を用いた鉛直多層採
水により得た海水20㍑L試料を対象とした。その他、福島
県沿岸では漁船を用いた用船調査、福島県水産試験場の協
力による小名浜地先の汲み上げ海水などを採取している。
海水試料はリンモリブデン酸アンモニウム共沈法を適用し、
ゲルマニウム半導体検器によるガンマ線測定に基づき放射
性セシウム濃度を求める。
※北太平洋の広域拡散状況の把握という観点では144˚E、
155˚Eおよび175.5˚Eにおける南北側線を設け、2011年7月
10月、2012年7月、2013年7月に表面海水採水による観測を
実施しており、黒潮続流の北側における東方への拡散状況
を把握している。また2012年9月の鉛直断面観測により、黒
潮続流の南方においては亜熱帯モード水に補足された放射
性セシウムを確認した。事故当時に減衰補正した134Csの総
量は4.2±1.1 PBqと試算され、北太平洋全域における福島
第一原発事故由来の134Cs放出量の22〜28%が亜熱帯モード
水に存在すると推定された。亜熱帯モード水の輸送先であ
る日本南方の亜熱帯海域に着目し、放射性セシウムの経年
変化を137Csの水深0〜500mの水柱積算値で見ると2012年の
3600 Bq m-2から2015年の1500 Bq m-2まで減少しているこ
とが明らかとなった。冬季の鉛直混合により亜熱帯モード
水の一部は表層水塊へ表出し、移流・拡散により福島第一
原発事故由来の放射性セシウムは希釈されたと推察。
※一方、福島第一原子力発電所近傍海域として小名浜地先
における汲み上げ海水を週一回の頻度で採水し放射性セシ
ウム濃度の時系列変動を解析している。小名浜地先におけ
る溶存態放射性セシウム濃度は基本的に緩やかな減少傾向
を示すものの、夏季および冬季にスパイク状に濃度の上昇
が認められる。特に冬季、爆弾低気圧が福島県沖合を北上
した時期に顕著な放射性セシウム濃度の上昇が認められた。
2013年12月から2014年2月の期間には福島第一原子力発電
所と小名浜の中間に位置する四倉沖で物理観測を実施して
おり、その際の流速データは、四倉沖で強い南向きの流れ
が継続した時期と、小名浜地先で放射性セシウム濃度が上
昇した時期が一致することを示している。すなわち福島第
一原子力発電所近傍の海水が強い南下流により小名浜地先
近傍まで希釈をされずに移流したと推察される。このよう
に福島第一原子力発電所近傍海域における溶存態放射性セ
シウムの分布は時空間的に変動が大きく、今後も引き続き
モニタリング調査が必要とする。
Nov. 11, 2014
【感想】
わかりやすい解説であった。圧倒的な拡散効果で放射性汚染物
質濃度が低下することが理解できる。問題は生物の食餌連鎖濃
縮。息の長い調査となる。
【脚注及びリンク】
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- 帰山秀樹 中央水産研究所 研究員
- 滋賀県立大学で公開シンポジウム「巨大震災は海
洋沿岸の生物にどのような影響を与えたか?東日
本大震災から学んだこと」を開催、河北新報オン
ラインニュース - JpGU-AGU Joint Meeting 2017/北太平洋における
福島第一原子力発電所事故に由来する放射性セシ
ウムの6年間の拡散状況 - 小型浮魚と海水の放射性セシウム濃度の関係 中
央水産研究所主要研究成果集 2013.09.19 - 海産生物の放射能のこれまでとこれから 中央水
産研究所 海洋・生態系研究センター 渡邊朝生
2013.03.01 - 常磐-三陸沖合,仙台湾および親潮域の海水およ
び動物プランクトンにおける東京電力福島第一原
子力発電所事故に伴う134Csおよび137Cs濃度の時
系列変動 帰山 秀樹 J-STAGE公開日 2016/08/25
メカニズム解明 小泉尚嗣 2008.06.28 - 滋賀県出身の人物一覧 Wikipedia
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