殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

純粋女房

2009年08月17日 11時08分57秒 | 女房シリーズ
ふたつ年上の知り合い…ウラさん。

ふくよかで色白の、ごく普通の奥さんなんだけど、とても純粋な人だ。

毒のかたまりのような私には、いつも新鮮な驚きがあって楽しい。


数年前、まだ顔見知りというだけだった頃

共通の用が出来て、一緒に新幹線で出かけることになった。

窓口で回数券を求め、振り返ると

ウラさんは不安そうに言う。

「…私は…どこに連れて行かれるとですか?」

     「え…○○市じゃん?」


ウラさんの大きな目に、見る見る涙が溜まってくる。

「自動販売機でなくて、なんで窓口で買うとですか…

 それ、切符じゃなかとよ…」

     「いや…これは…」

「あの…私には主人も子供もいるし…知らない所へ行くわけには…」

ウラさんの白い頬を大粒の涙がつたう。

私にも一応主人と子供がいるので

ウラさんと知らない所へ行くわけにはいかんのだが…。


「帰らしてください…お願いします…」

     「ウ…ウラさん…ちょ…ちょっと待って…」

“安寿と厨子王”に出てくる“人買い”になった気分。

しかもウラさん、あんまり売り物になりそうでは…。


…二人分なら切符を往復で2枚買うより、回数券を4枚買えば安くなる…

回数券を見せて、噛んで含めるように説明すると

やっと納得してくれた。

新幹線に乗ったのは修学旅行以来だと言う。

事前の説明が必要であったと深く反省。


以来、人買いと安寿は親しくなり

時折会って、おしゃべりをするようになった。

優しくて穏やかなウラさんだが

たま~にぽつりとビックリするようなことを言うので面白い。


パート先でさんざん仕事を教えた新人が、3ヶ月で辞めたと言う。

ウラさんはその人の家を探し出し、文句を言いに行った…とさらりと言う。

     「なんで?!」

「腹が立ったとですよ」

     「どうして腹が?!」

「人の世話になっといて、途中で辞めたらいけんです」

     「…」

とまあ、こんな感じ…笑うしかねぇだろ。


ウラさんはご主人に愛され、守られて生きてきた。

ご主人を心から尊敬し、優秀で親思いの子供たちと

絵に描いたような「まっとうな結婚生活」を営んでいる。

つまり私と正反対。


時々、ズレみたいなものは確かに感じる。

家庭が安らかだと、外がより困難に感じるのかもしれない。

ズレ加減がちょっとなら、たぶんムッとするんだろうけど

大幅だと、いっそ刺激になって楽しい。


ある日の朝早く、突然ウラさんがやって来る。

「遊びに来たとです」

饅頭を2つ差し出す。


礼を言うと

「人様の家へお邪魔する時は手ぶらで行ってはならんと

 親からしつけられとります」

と胸を張って言う。

朝から人の家に行くな…とは、教わらなかったらしい。


昼になったが帰る気配もないので

     「昼ごはん、どうする?何か食べに行きましょうか」

と聞くと、ウラさんは大きなバッグから

おもむろに惣菜のパックをひとつ取り出した。

       「わ…わぁ…用意がいい…」


ウラさん、誇らしげにのたまう。

「よその家に行くときは自分の食いぶち用意して行けと

 親に厳しく言われて育ちましたけん」

ウラさんはラップをはがしながら言う。

食事どきになったら帰れ…とは教わらなかったらしい。


夕方になっても帰らないので、一緒に晩ご飯を食べた。

時計が夜7時を回ると

ウラさん、いきなり「じゃあ帰ります」と立ち上がる。

「今日は社宅の修理があって、朝から7時まで家におられんかったとです」

     「それを早く言ってよ。二人でどこかへ遊びに行けば良かったね」

「暑いから、よかとです」

ウラさんは、さっさと帰って行った。


そのうちウラさんは、ご主人の転勤でどこかへ行ってしまった。

時々刺激が欲しくなり、とても会いたくなる。   
コメント (12)
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