老後、もしも暮らしに困ったら
近所の橋の下にダンボールハウスをこしらえ
希望者があれば迎えて共に暮らす…
以前はそんなことを考えていた。
大鍋にいっぱいおかずを炊いて、みんなで分け合ったらおいしかろう。
寝転がって空を見上げ、自由を噛みしめるのは楽しかろう。
しかし夫の実家で老人と生活するうち
それがいかに無謀な計画だったかを痛感。
今の日本の暑さ寒さはどうだ。
エアコン無しでは、すぐに死人が出る。
毒虫やウイルスなんかも、タチが悪くなっているような気がする。
虫や菌だけではない。
人間も古くなると、ややこしくなる。
トイレは近いし、こだわりが強くなるし、昔自慢もくどい。
しょっちゅう喧嘩になりそうだ。
もしも暮らしに困ったら…なんて
のん気なこと言ってる場合じゃないぞ。
まず困らないように頑張ってみるのが先じゃないのか。
私はそう思うようになった。
計画変更を考えていた矢先、同級生のマミちゃんが言い出した。
「老後は出家したいの。
みりこんちゃんも一緒に出家しよう!」
出家!
のんびり屋のマミちゃんから、最もかけ離れた行為に思える。
この2年の間に、相次いで両親を亡くしたのがこたえたらしい。
マミちゃんは優しい両親にサポートされながら
幸せな結婚生活を送っていた。
これまで人間関係の問題が起きなかったのは
男兄弟のいない三人姉妹だったからで
三人の娘を平等に扱える経済力が、両親にあったからだ。
だからマミちゃんは、ずっとのんびり屋さんでいられた。
ところが2年前、マミちゃんの姑さんは入退院を繰り返すようになり
手がかかり始めた。
初めての“大変”に、マミちゃんは思ったと告白する。
「死ねばいいのに…」
そしたら姑さんではなく、ピンピンしていた自分の母親が急死した。
「バチが当たったんだ…」
マミちゃんは思い悩み、その頃から出家を考えるようになったという。
「スレてないって、こんなに美しいものなのか!」
私は感動し、言葉を尽くして慰めたものだ。
やがて私達は、この世やあの世のいろんな話を
語り合うようになった。
ちなみにマミちゃん、出家先は早くから決めてある。
やはり同級生のユリちゃんが嫁いでいる、市外のお寺だ。
老後は3人で、ミホトケにお仕えしながら楽しく過ごすつもりらしい。
グータラの私にとっても、出家は遠くかけ離れた行為である。
まず、夫の親から解放されて自由になる日が
生きているうちに、しかも動ける間に来るかどうかギモン。
私の方が早いような気すらしている。
しかもお寺だよ。
正座と掃除と早起きが、付いて回るではないか。
だり~じゃん。
しかし、ユリちゃんの所へ行くのはヤブサカでない。
ユリ寺から道路を一本渡れば、私の大好きな港町が広がる。
美味いモンは、古くから賑わった港町にあるってもんだ。
靴、洋服、バッグなんかも、店はそれぞれ小さいが
洗練された品が置いてある。
山奥に突然できるショッピングセンターなんて、メじゃねえわ。
とまあ、出家どころか煩悩まる出しの理由により
ユリ寺へ行ってもいいと思っている。
先日、久しぶりにユリちゃんと会ったので
マミちゃんと2人、出家のもくろみを話す。
「大歓迎よ!老後と言わず、明日でもいい!」
ユリちゃんは快く承諾してくれた。
行事が多くていつも人手がいるし、部屋はたくさんあるから
人数が増えても構わないと言う。
とりあえず老後のセーフティネットは確保した気分。
ただし出家するにあたり、私には別の使命があるとユリちゃんは言う。
「打倒!モクネン」である。
ユリちゃんの夫、ナマグサ坊主のモクネンに
何らかの形でダメージを与えてもらいたいそうだ。
この使命と引き換えに、正座と掃除と早起きは免除してやると言う。
モクネンは見合いで結婚して以来、ずっと浮気三昧。
人に仏の道を説き、自分は魔道を歩んでいる。
結婚当初はなかなかの美坊主だったモクネンだが
酒と女の不摂生がたたり、今は見る影もない。
ユリちゃんは期待する。
「お寺に集まる人達に面白い法話をして、モクネンの鼻をへし折って!」
無資格でもいいのかと聞いたら
「大丈夫、大丈夫。
あの人の法話は、面白くないことにかけては天下一品なの。
お寺もこの頃は人気商売だからね」
身の程知らずな口だけ女の法話より、いっそモクネンの消し方を考える方が
私には合っているような気がする。
しかし、モクネン暗殺計画を練る私を
はたしてミホトケがモクニンしてくれるだろうか。
そこが心配である。
近所の橋の下にダンボールハウスをこしらえ
希望者があれば迎えて共に暮らす…
以前はそんなことを考えていた。
大鍋にいっぱいおかずを炊いて、みんなで分け合ったらおいしかろう。
寝転がって空を見上げ、自由を噛みしめるのは楽しかろう。
しかし夫の実家で老人と生活するうち
それがいかに無謀な計画だったかを痛感。
今の日本の暑さ寒さはどうだ。
エアコン無しでは、すぐに死人が出る。
毒虫やウイルスなんかも、タチが悪くなっているような気がする。
虫や菌だけではない。
人間も古くなると、ややこしくなる。
トイレは近いし、こだわりが強くなるし、昔自慢もくどい。
しょっちゅう喧嘩になりそうだ。
もしも暮らしに困ったら…なんて
のん気なこと言ってる場合じゃないぞ。
まず困らないように頑張ってみるのが先じゃないのか。
私はそう思うようになった。
計画変更を考えていた矢先、同級生のマミちゃんが言い出した。
「老後は出家したいの。
みりこんちゃんも一緒に出家しよう!」
出家!
のんびり屋のマミちゃんから、最もかけ離れた行為に思える。
この2年の間に、相次いで両親を亡くしたのがこたえたらしい。
マミちゃんは優しい両親にサポートされながら
幸せな結婚生活を送っていた。
これまで人間関係の問題が起きなかったのは
男兄弟のいない三人姉妹だったからで
三人の娘を平等に扱える経済力が、両親にあったからだ。
だからマミちゃんは、ずっとのんびり屋さんでいられた。
ところが2年前、マミちゃんの姑さんは入退院を繰り返すようになり
手がかかり始めた。
初めての“大変”に、マミちゃんは思ったと告白する。
「死ねばいいのに…」
そしたら姑さんではなく、ピンピンしていた自分の母親が急死した。
「バチが当たったんだ…」
マミちゃんは思い悩み、その頃から出家を考えるようになったという。
「スレてないって、こんなに美しいものなのか!」
私は感動し、言葉を尽くして慰めたものだ。
やがて私達は、この世やあの世のいろんな話を
語り合うようになった。
ちなみにマミちゃん、出家先は早くから決めてある。
やはり同級生のユリちゃんが嫁いでいる、市外のお寺だ。
老後は3人で、ミホトケにお仕えしながら楽しく過ごすつもりらしい。
グータラの私にとっても、出家は遠くかけ離れた行為である。
まず、夫の親から解放されて自由になる日が
生きているうちに、しかも動ける間に来るかどうかギモン。
私の方が早いような気すらしている。
しかもお寺だよ。
正座と掃除と早起きが、付いて回るではないか。
だり~じゃん。
しかし、ユリちゃんの所へ行くのはヤブサカでない。
ユリ寺から道路を一本渡れば、私の大好きな港町が広がる。
美味いモンは、古くから賑わった港町にあるってもんだ。
靴、洋服、バッグなんかも、店はそれぞれ小さいが
洗練された品が置いてある。
山奥に突然できるショッピングセンターなんて、メじゃねえわ。
とまあ、出家どころか煩悩まる出しの理由により
ユリ寺へ行ってもいいと思っている。
先日、久しぶりにユリちゃんと会ったので
マミちゃんと2人、出家のもくろみを話す。
「大歓迎よ!老後と言わず、明日でもいい!」
ユリちゃんは快く承諾してくれた。
行事が多くていつも人手がいるし、部屋はたくさんあるから
人数が増えても構わないと言う。
とりあえず老後のセーフティネットは確保した気分。
ただし出家するにあたり、私には別の使命があるとユリちゃんは言う。
「打倒!モクネン」である。
ユリちゃんの夫、ナマグサ坊主のモクネンに
何らかの形でダメージを与えてもらいたいそうだ。
この使命と引き換えに、正座と掃除と早起きは免除してやると言う。
モクネンは見合いで結婚して以来、ずっと浮気三昧。
人に仏の道を説き、自分は魔道を歩んでいる。
結婚当初はなかなかの美坊主だったモクネンだが
酒と女の不摂生がたたり、今は見る影もない。
ユリちゃんは期待する。
「お寺に集まる人達に面白い法話をして、モクネンの鼻をへし折って!」
無資格でもいいのかと聞いたら
「大丈夫、大丈夫。
あの人の法話は、面白くないことにかけては天下一品なの。
お寺もこの頃は人気商売だからね」
身の程知らずな口だけ女の法話より、いっそモクネンの消し方を考える方が
私には合っているような気がする。
しかし、モクネン暗殺計画を練る私を
はたしてミホトケがモクニンしてくれるだろうか。
そこが心配である。