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殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

現場はいま…夏祭編・1

2021年08月01日 08時40分51秒 | シリーズ・現場はいま…
次回、このシリーズに取り組む時には

サブタイトルを“夏祭”にすると決めていた。

これは、田舎爺Sさんがコメントで提案してくださったもの。

楽しそうで、すごくいいと思った。


とはいえ、はたして夏になった頃

夏祭にふさわしい楽しそうな状況になっているかどうかは不明。

そうなっているといいな…という願望を胸に、状況を見守る私だった。


で、現場は今、どうなっているかというと

そこそこ楽しそうなラインまで来ているように思う。

昨年、取引先の大企業を定年退職し

この3月にパートで入社したスガっちは現在も働いている。

ペーパー免許だった重機の実技を習得して

夫のアシスタントを務める予定が、未だ習得ならず。

どうも、向いてないらしい。

何十年もやってきた夫のようになって欲しいとは思わないが

暑い夏までに少しは上達して、夫の負担がわずかでも軽くなれば…

そう考えた本社や私の目論見は、見事に外れた。


では彼が何をしているかというと、雑用。

雑用と一口に言うが、やる気で取り組めば

機器のメンテナンスから敷地の整備清掃に至るまで、いくらでもある。

けれどもスガっちは違う。

多忙な夫に代わって、たまに近場へ配達に出る以外は

“待機”という名の休憩時間だ。

その待機中には、フィリピン人妻の愚痴を言い続けるのが仕事。


夫も最初のうちは、時々用事を頼んでいた。

しかしスガっちの口癖に嫌気がさし、放っておくようになった。

用事を頼まれると、彼はすぐに言う。

「何で俺が?」

大企業に勤めていたプライドが、捨てきれないのだ。


5月に一度、“”という雑用を頼んだことがある。

ぬかるんだ現場に出入りする際、現地でダンプのタイヤにホースで水をかける仕事だ。

タイヤに泥を付けたまま走ると、道路がタイヤ痕で汚れるからである。

がいない場合は、運転手が一回一回ダンプから降りてこの作業を行うが

当然ながら時間のロスは増える。

その日は忙しかったため、夫はスガっちを現場に行かせた。


渋々向かったスガっちだが、一回で根を上げ、勝手に会社へ戻ってくると

「何で俺が?」

「こんなことをさせられるために入ったんじゃない」

などの勘違い発言を連発。

現場から公道に出るダンプを外に立って待つのも不本意だが

何より、今まで見下していた運転手のタイヤ…

つまり足を洗う行為に、彼のプライドは傷ついたらしい。


甘い夫も、その時は厳しく言った。

「あんたが積込みをしてくれるんなら、ワシが行っとる。

去年まではうちの取引先におったかもしれんが、今は立場が変わったんじゃ。

いつまでもチヤホヤできん」


もちろん、これで心を入れ替えるようなスガっちではない。

相変わらず、のんべんだらりと一日を過ごしながら

本社から人が来た時だけ、急に水撒きや草むしりを始める日々が続く。

働かない人とは、そういうものだ。

皆にできることを「できない」と、臆面なく言える。

それを恥と思わないからだ。

できないと言えばやるべきことが減って、もっと楽ができるのを

経験で熟知しているのである。


夫はこの一件で、スガっちにはサジを投げた。

それでも、藤村よりマシだと言う。

勘違いも怠け者も同じだが、スガっちには

夫に成り代わってやろうという野心が無い。

いっそ彼のように真性の昼あんどんの方が

嘘や芝居で陥れられる心配がいらないので気楽なんだそう。


アシストしないアシスタントを雇い続けるのはバカバカしいと思われるだろうが

パートといえど、一旦、入社を認めたからには

「働かないから辞めてちょうだい」というわけにはいかない。

その代わり、パートには配置転換、契約期間という名の抜け道がある。

スガっちは1年契約なので、このままの状態であれば

来年3月、契約を更新しなければいいことだ。


一方、4月から入社した50代の女性運転手、ヒロミは絶好調。

すぐにクラッチを焼く、クラッチ名人という触れ込みだったが

今のところ、まだ焼けていない。

これまで転々とした職場とは、仕事の内容が違うからだと思われる。

また、息子たちを始め社員と気が合ったようで

操作を基本から教えられたことも、大いに関係しているように思う。

息子たちは彼女のことを「ネエ」と呼び、男友達の扱いになっている。


ヒロミと私が旧知の仲だったこともあり、息子たちは最初から彼女に友好的だったが

仕事仲間として認めたのは、入社して日の浅い頃にあった出来事からだ。

取引先の事務所へ納品伝票のサインをもらいに行く時

ヒロミは顔の下半分をタオルで覆い、両端を後頭部で縛って

覆面のようにしてダンプから降りてきたという。

「どしたん?」

とたずねると

「マスクが壊れた」

大爆笑は言うまでもない。


取引先の事務所への出入りは当然、マスク着用が義務づけられている。

それなのに、予備のマスクを用意してない短絡…

誰かにマスクをもらおうと考えない不器用…

誰かに頼んで、自分の代わりにサインをもらって来させることを考えない独立心…

迷わずギャングのようにタオルで縛り、大真面目でいられる愚直…

これによって息子たちは、ヒロミが自分たちと同じ人種だと理解した。

そして彼女を仲間として受け入れたのだった。


息子たちの兄弟仲は、2年4ヶ月に渡って決裂していた。

ヒロミが入社した月の末に仲直りしたが

彼女が日々もたらしてくれる笑いも、息子たちの心をほぐしたと思っている。


ともあれ、一人が良かったら一人はダメだった…

しかも期待していた方がダメで、全然期待してなかった方がイケた…

これは人を雇う上で、よくあること。

確率が2分の1であれば、会社としては儲けものである。

《続く》
コメント (4)
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