殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

夏の終わり

2024年10月01日 16時10分16秒 | みりこんぐらし
『我が家の庭にて』


今年の夏は、本当に長かったですね。

皆様、お疲れ様でした。


暑さ寒さから解放されて、幾分過ごしやすくなると

気を張っていたのが緩んで、ガックリくる人がチラホラ出てくる。

その一人が、義姉カンジワ・ルイーゼの夫キクオ。


持病のパーキンソン病と闘いながら、何とか夏を乗り切ったものの

9月下旬に立ち上がれなくなり、トイレや入浴が難しくなった。

衰弱する一方なので、近所に住む遠縁の手配で救急搬送されたが

入院したらコロナ感染がわかり、現在も入院中である。


よってこのところ、ルイーゼはうちに来ない。

性懲りもなく来たら自粛を要請しようと思っていたが

訪問を控えるという最低限の常識は持ち合わせていたようだ。


「娘が一人になってしまったら、かわいそう」

義母ヨシコは気を揉むが

そうなったらヨシコがルイーゼの家で暮らせば

みんなにいいんじゃないの?

しかし一病息災、キクオは回復して戻ってくるだろう。



この夏の暑さで参ったのがもう一人、いや一匹。

愛犬パピである。

14才の彼は、人間の年だと72〜3才だそう。

近年は老化著しかったが、暑い夏がこたえたのか

9月に入ってめっきり弱っていた。


年取った犬は人間と同じように、首が下がって腰が落ちてくる。

吐いたり、粗相も増えてきた。

もう長くないのは、誰の目にも明らか。

人間の年寄りはうるさいが、犬は苦しくても黙っている。

それが不憫だった。


思えば、1才だった彼がうちに来てから13年。

ペットショップで売れ残り、3万円ぐらいに値下げされた彼を

息子たちが買って来たのだ。


ちょうど会社の倒産騒ぎが始まる直前で

以来、激動の日々を送ってきた我々一家。

疲れ果てて家に帰れば、いつも彼が迎えてくれた。

愛らしいその姿を見、フワフワの毛皮を撫でると元気が出た。

長男のバイクに乗せてもらうのが大好きで

乗り込む時の顔ときたら得意満面、幸せそのものだった。

パピは我々を癒す、宝物であった。


そして彼は昨日、9月30日の未明、虹の橋を渡った。

眠りにつくまではいつもと変わらず

来客があるとギャンギャン騒いで食欲旺盛、散歩にも行った。

しかし夜中の2時半に長男を起こし、庭へ出て大小を済ませると

玄関で短くケイレンして終わった。

あっけない最期だった。

愚痴も不平も言わず、飼い主を信じきり

純真な心で我々に接してくれたパピは

わきまえを知る謙虚な犬だったが、生命の終え方も同じだった。


夫も私も息子たちも、声を上げて泣いた。

パピをプラスチックのケースに入れ、豊かな毛をとかして

枕元にカサブランカの花を飾った。


8時半になるとペットの葬儀場へ電話して、火葬の電話予約。

私は実家の母サチコを病院へ連れて行くことになっていたので

火葬は午後3時にしてもらった。


時間予約に続いて、個別に焼くか

ツレが集まるまで冷凍保存して一緒に焼くかをたずねられる。

料金には5千円の差。

迷わず個別を選ぶと、次は遺骨。

火葬後は葬儀社にお任せか、遺骨を持ち帰るかで料金が違う。

お任せは、火葬の炉に入れたらサヨナラで

持ち帰りの場合、小さな骨壷とキンキラのケースを買って

骨拾いの儀式を行うので、料金は1万円ほどお高めだ。



これは苦しい選択だが、以前から遺骨は引き取らないと決めていた。

そりゃあ、持ち帰りたいよ。

家に安置して心のよりどころにし、毎日話しかけたいさ。

が、うちらが他界したらどうなる。

人間の墓へ一緒に入れるわけにもいかなくて、困っている人が多い。

だから断腸の思いで、遺骨の処理はお任せコースを選んだ。

これで料金は22,000円也。


やがて3時、パピを連れ、夫と長男と共に葬儀場に行くと

私と同年代ぐらいの、いかにもウグイスっぽい女性が一人で迎えてくれた。

小さなホールには小さな祭壇があり、小さな生花が飾られている。

先に料金を払い、仏像の足元にある台の上にパピを乗せると

お葬式の始まりだ。


式に先立ち、女性は数珠の有無をたずねることもなく

我々に3人分の数珠を貸してくれた。

お経のテープが流れる中、一人ずつ線香を上げる。

「合掌、礼拝、お直りください」

女性の司会も、人間の葬儀と同じ。


人間と違うのは、祭壇と同じ部屋に火葬の炉があること。

人間のより少し小さく、遺体を乗せる台の高さも、足元にあって低い。

自動のボタンなど、構造はほぼ同じだ。


人間と同じように、パピと最期のお別れを済ませると

ウィ〜ンと音を立てて分厚い銀色の扉が閉まり

点火したらお葬式は終わり。

「これから火葬をさせていただきまして

パピちゃんのお骨が冷めましたら

責任持って供養塔に納めさせていただきます」

女性は言った。


泣きながら葬儀場を後にした我々3人だが

ヨシコに頼まれた買い物のため、その足でスーパーへ。

こんな時でも日常がついて回る、何と厳しい姑仕えよ。


買い物を済ませて帰っていると、ヨシコから電話が。

「数珠を一つ、返してもらってないって

葬儀場の人から電話があったよ」

…夫だ。

借りた数珠をポケットに入れたままだったらしい。

昔から、油断できない男なのは知っているので

常に細心の注意を払って生きてきたけど

こんな時まで失敗をやらかす、それが夫である。


時間は4時半を回ったところ。

ぼちぼち薄暗くなり始めていた山の中を、我々は再び葬儀場へ向かう。

しかし葬儀場に着くと、すでに営業終了で無人。

入り口のドアには鍵がかけられ、係の女性の車も無い。


返し忘れた数珠をドアにぶら下げて帰ろうとしたら

ゴ〜という炉を燃やす音が響いているのに気づく。

建物の屋根にある煙突を見上げると、ユラユラとカゲロウが立っている。

「パピが焼かれようる!」

「バイバイ、パピ!」

「ありがとう、パピ!」

「大好きだよ、パピ!」

「また会おうね!」

我々は口々に叫ぶ。

な〜に、回りは山だ…叫び放題さ。

夫が数珠を忘れたお陰で、奇妙な体験ができた。


時々このブログにも登場したパピは、こうして旅立ちました。

ありがとうございました。
コメント (4)
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