「島唄」を国内外でヒットさせたロックバンド「THE BOOM」の元ボーカルで音楽家の宮沢和史が沖縄民謡の保存に向け、歌手約250人から269曲を録音した。10月までに250曲ほどに絞り込んでCD化し、“音の教科書”として沖縄県内図書館や海外県人会に寄贈する。「沖縄民謡は音楽の力を証明する宝だと考えている」と、後世に託す価値を語る。(学芸部・松田興平)
2012年から沖縄県内のスタジオなどで収録を開始。故登川誠仁や知名定男、古謝美佐子、新良幸人らの一流からセミプロに依頼して録音に立ち会った。経費を自身で賄って石垣島や宮古島、南大東島へも出向いた。
「沖縄の音楽が素晴らしいのは宮廷音楽の古典と市民目線の民謡が両輪で歌い継がれているところ。民謡の息遣いをきちんと音で残したかった。国をまたいで継承されてほしい」と動機を語る。
10月にある「第6回世界のウチナーンチュ大会」の際、海外県人会に配布する予定で、現在は各楽曲の使用許可の整理などを進めている。
三線で奏でられる琉球音階は県内外を問わず親しまれる。沖縄民謡の魅力を曲の幅広さと曲数の多さという。
「内地の民謡は労働歌がほとんど。沖縄は恋の歌から生活の歌までとても多彩。内地でもカラオケへ行ったとき、沖縄の曲の多さにびっくりする」と顔をほころばせる。
宮沢の歌へ向き合う姿勢は平和希求の思いと重なる。「沖縄は戦争で焦土となっても、人々はカンカラ三線を弾いて歌っていた。内地やアメリカの文化が舞い込んでも、民謡はなくならなかった」と歌の力に尊敬の念を込める。
「厳しい時代を乗り越えて残った民謡だからこそ、基地がなく、戦争がない平和な沖縄でいつまでも歌い継がれてほしい」と音源を記録することに意義を見いだす。
一方、民謡の個人的な定義を「その時代のJ-POP」と言う。「その時、多くの沖縄の人々の心を一番つかんだ歌が『民謡』だと思う。それは今で言うポップス。BEGINや夏川りみの歌は100年たったら民謡と言われているかもしれない」と柔軟に解釈する。
ほぼ全曲の録音に立ち会った宮沢。座敷の音楽として親しまれていた歌、広い会場などで披露されていた歌など、多様な出自の楽曲に立ち会った。曲によって歌い手の歌唱法や演奏技法も異なることが分かった。
「何より僕が勉強になった。この経験はかけがえのない財産」と充実感をにじませた。