TONALITY OF LIFE

作曲家デビュー間近のR. I. が出会った
お気に入りの時間、空間、モノ・・・
その余韻を楽しむためのブログ

盛岡の底力 ~ 原敬の妻を演じる大槻由生子の一人芝居

2024-10-26 22:55:19 | 舞台

いなだ珈琲舎でモーニングをゆったり愉しんだあとは、
古い町並みが残っているという鉈屋(なたや)町界隈へと向かった。
大きな樹木に囲まれた寺院も多いこの地域、とりわけ大慈寺は裏手から塀伝いに回った分、その広さを実感した。
正面の石柱に黄檗宗と彫られているのを見て、山門が異国情緒を醸し出しているのに合点がいく。
ここは第19代内閣総理大臣・原敬(1856〜1921)の菩提寺としても知られているようだが、そのことにとりわけ興味はなかった。
ただ二人組の女性が原敬のお墓参りをしているのに丁度出くわし、妻が言葉を交わしていたのと、
そのうちの一人は髪を結っての板についた和装であったことから、人影まばらな境内で印象に残った。

午後に市内のアーケード街を歩いていたとき、あるチラシに偶然目が留まる。
「チャリティ公演 大槻由生子 一人芝居 原敬の妻」
原敬の妻、原浅さんの人柄に魅せられ30年ほど演じてきた一人芝居の見納め公演、と告知されていた。
そしてこの芝居は、盛岡芸妓の富勇に今後バトンタッチされる計画なのだという。
富勇の写真は今朝大慈寺で見かけた和装の女性と一致した。
墓前では引継ぎを報告し、区切りとなる舞台の成功を祈願したのであろう。
公演は明日、帰りの新幹線にも間に合う上演時間、これぞというタイミングにピンと来るものがあり、
さらに夕刻にはリハーサルを終えたと思しき二人と宿泊先付近でまた遭遇したものだから
旅先ならではの縁を確信した。

チケットを首尾よく入手しての当日。
大槻の30年に渡るライフワークとしての洗練、完成度は見応え十分で、
これだけのものを見せてもらえたことに盛岡の底力を感じずにはいられなかった。
原浅も大槻由生子も富勇も岩手県の出身でつながり、第一に芸事が息づいている土地柄であるということ。
昨日は南部紫根染の草紫堂で、染めやしぼりの着物文化を目の当たりにしたところだったが、
その価値が認められ、ニーズが存在しているというのは、豊かさの表れにほかならない。
有形無形の文化に加え、街中には政治家、文化人など偉人の足跡も豊富にある。
大槻は幼い頃より日本舞踊や芸事に親しみ、「もりおか弁朗読講座」講師、女優としても
キャリアを積み重ねてきたというプロフィール。
富勇は本業の三味線や唄のほか、ナレーションや原敬の遺言書などの読み上げを舞台上で担った。
盛岡弁がふんだんに披露される場面では一観光客としてその響きを楽しんだり、
戊辰戦争に敗れた際、賊軍として辛酸を嘗めた歴史が語られたあたりでは、
日本の近代史の側面からも好奇心を大いに刺激されたのである。

会場となったテレビ岩手は、市内を流れる中津川沿い、中ノ橋のすぐそばにある。
この地には約50年前まで秀清閣という料亭があったそうで、原敬も大変贔屓にしていたのだとか。
プログラムのそんな解説にも盛岡での一期一会が刻まれた。

昨日立ち寄った大慈寺では、お墓に手を合わせなかったことが悔やまれた。
原敬と浅の墓は並んでおり、呼びかけるのに困らないようにと同じ深さで眠っているという。
富勇が新たな息を吹き込む芝居の開催に合わせて、再訪する機会を作りたいものだ。

2024.10.19
チャリティ公演 大槻由生子 一人芝居 原敬の妻@テレビ岩手 ロビー
ナレーター:富 勇、脚本:上田 次郎、演出:本館 公治


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映像的クラシック Vol. 2 ~「24の前奏曲 作品28 第3番 ト長調」by ショパン

2024-05-19 13:33:40 | 音楽

湖面を飛行する昆虫を、遊覧船のデッキから見つけた。
5月のきらめく陽光のなか、羽を超高速で震わせながら、滑るように進んでいる。
ブーンという羽音がかすかに一瞬だけ聞こえた気がした。
どうか水中や大空からの魔物に捕まりませんように。
そんな心配もよそにやがて対岸に到達すると、茂みのなかへと消えていった。

湖面飛小虫
五月光愈煌
雖羽高速滑
可到岸姿消

この曲も左手の鍛錬に尽きる。
羽のばたつきを微塵も感じさせることなく、ただ滑らかに、ひたすら優雅に。
冒頭の左手のパッセージは6小節繰り返され、そのあとの7小節目は
ユーミンの♪「やさしさに包まれたなら」や♪「ダンデライオン」とも共通するコード進行だ。
風を味方に加速してみたり、高度を調節してみたり、小さな生命が自由自在に輝く。
22と23小節目の左手のF#は羽のノイズ。
ポゴレリチの録音が一番それっぽい。
最後の4小節は両手のユニゾンとなり、その安定感は着陸を想起させる。

昨年初めて取り組んだエチュードがあまりに難しく、一曲が短い前奏曲を何曲かさらうことにした。
3番以外には、1番、13番、20番あたりが好みである。
ゴールデンウィークに足を運んだ横山幸雄さんのリサイタルに触発されて。

2024.5.3
横山幸雄「横山幸雄 ピアノ・リサイタル 入魂のショパン Vol.15」@東京オペラシティ コンサートホール


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リースに葉ものを加える

2023-12-17 18:06:56 | インテリア

12月を前に針葉樹を束ねては巻き付けていくあの感覚が恋しくなった。
慌ただしさが加速するこの時期、モミの香りに包まれて無心になれる時間は何にも代えがたい。
とは言っても、一年に一回なので上達しているはずはなく、
どうやるんだったっけ、とまずは記憶を辿る。
昨年教わったローラン・ボーニッシュ先生の、
すべての素材をまずは人差し指の親指側の付け根くらいの長さで切り揃えること、
ヴォリュームを出したいときにはヒムロ(スギ)、などの声がよみがえってきた。

今年のチャレンジは葉ものを加えたこと。
薄いグリーンはユーカリグロブルス。丸い葉のユーカリよりも馴染みやすいと感じる。
下の写真はグレビレア。表裏の色のコントラストが絶妙で、
先っぽの尖がり具合とシンクロさせるために赤系は唐辛子を択んだ。
植物の組み合わせを考えるのは最高に贅沢でクリエイティブな時間。

平面にして飾ったトップの写真は実は失敗作で、
個々の素材を切るとき、枝と葉のバランスが一番整ってみえる箇所でハサミを入れたい誘惑に駆られた。
その結果、束ねていくといびつな円形になってしまった。
やはりパーツを一定の長さに揃えておくのは重要なのである。
中央にキャンドルを置いて、テーブルアレンジとしてリカバリー。


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屋久島の魅力的な植物たち

2023-10-22 22:11:55 | 旅行

考えてみると南への旅行は久々である。
どちらかと言えば北に憧れがあるものの、植物の多様性においては南国に敵わないことを実感した。
独創的な形状の花や葉っぱに、色の鮮やかさ。
タヒチがポール・ゴーギャンの、奄美が田中一村の絵筆に刺激を与えたのは想像に難くない。
旅程の最終日に宿泊したsankara hotel & spa屋久島は、植物好きにもお薦めの宿である。
本館と、敷地内に点在するヴィラは、カートで送り迎えしてくれるが、
少々の雨ならば傘を手に歩いて行き来するのが楽しい。
手入れの行き届いた熱帯の植物たちはときに芳香も放って、極上のリラックスを与えてくれるのである。

チェックインのラウンジから見えた背の高いヤシの木。プールサイドにもよく映える。

プルメリア。鼻を近づけると濃密な香り。

エントランス横のサクララン。ホテルの植栽チームが丹精込めて伝わせているとのこと。

美しいパープルの花の和名はシコンノボタン(紫紺野牡丹)。
雄しべの造形が熱帯的と思いきや、ブラジル原産で、まるでクモが歩いているように見えることから
ブラジリアン・スパイダー・フラワーの別名を持つ。

極楽鳥花ことストレリチア。
花屋で売られているのを見たことはあっても、実際の植生を目にしたのは初めて。

たわわに実った先にはバナナの花? 巨大な葉っぱにも驚かされる。
数日後、ホテルのインスタに収穫がアップされていた。追熟させていくのだという。

レストランでは新鮮な地場の食材が見事にアレンジされていて、ヴィラの快適さも申し分なく、
まさに楽園と呼ぶに相応しいホテル。
屋久島の気まぐれなお天気に植物たちは表情を変える。
揺れたり、影を作ったり、雫をまとったり...
チェックアウトの日の晴れ間、無数の蝶とトンボが飛び交っていたのも天国的な趣があった。

サンカラ屋久島 sankara hotel &spa Yakushima


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Bunkamuraの長期休館に寄せて

2023-05-14 01:01:06 | 映画

エントランスのフロアから窓のあるエレベーターに乗って
6階のル・シネマへと駆け込むのが好きだった。
ドゥ マゴ パリのグリーンとパラソルを眼下に、オーチャードホールのフロアを抜け、
松濤の街並みが視界に入る頃すりガラスに遮られるのは残念に思いつつ、
屋根のない吹き抜けに面しているので、空の色に包まれて到着する。

Bunkamuraは渋谷の雑踏の先にあるオアシスのような空間である。
大学生になって上京したのとほぼ同時期にオープンした。
シアターコクーンで体験したスティーブ・ライヒのコンサート、
インドに傾倒するなかで観た映画「インド夜想曲」は初期の印象深いプログラムで、
それ以降N響のオーチャード定期やル・シネマを好んでチェックしているが、
建築としての魅力に開眼したのは比較的最近のこと。
ドゥ マゴ パリのテラスで開演前に一服していたとき、
空に直結した吹き抜けから届く雨が、墨色の床タイルを漆黒に潤していくのに見入った。
都会のオアシスたらしめているのは、間違いなくこの外気とのつながりなのである。
フロアマップによると、吹き抜け部分の底は「スパイン広場」という名称になっていて、
スパイン(Spine)とは英語で“背骨”を意味することから
この建造物の重要な仕掛けであることは間違いない。
背骨は恐らくドゥ マゴ側を貫く柱のことと思われたが、
逆説的に空洞そのものと解釈してもエスプリが薫ろう。

建築デザインは、フランス人建築家のジャン=ミシェル・ヴィルモット。
完成時に以下のメッセージを残している。
「我々が大切にしたのは時間に耐えるものであるということ。
フランスも日本も伝統的に、時を経て古びない文化やスピリットを持っている。
絵画、音楽、そして建築を含めて、その魅力を感じていただきたい」。
東京の街は相変わらずのスクラップ・アンド・ビルドなので、
東急百貨店本店の営業終了と、その後の開発計画のニュースを聞いたときには、
もしや取り壊されるのではないかと不安が過ぎった。
幸いなことにBunkamuraは「長期休館」であるというから、
この美しい建物が大規模改修を経てどのように姿を現すのか、2027年に期待したい。

休館に入る直前の週末、オーチャードホールの公演に足を運んだ。
終演後のドゥ マゴ パリは一時間待ちの状態。
店内の席はかなり前に予約で埋まって、名物のタルトタタンは午前中に売り切れたという。
ガッカリしたのが半分、名残りを惜しむファンが多いことを内心うれしくも思った。

備忘録として以下はル・シネマで鑑賞した映画:
1991 インド夜想曲
1993 めぐり逢う朝
1993 愛を弾く女 ※ダニエル・オートゥイユ出演作
1994 さらば、わが愛 覇王別姫
2007 厨房で逢いましょう
2012 ミラノ、愛に生きる
2012 クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち
2013 ローマでアモーレ
2013 危険なプロット
2014 ブルージャスミン
2014 白鳥の湖
2014 グレート・ビューティー/追憶のローマ
2014 リスボンに誘われて ※ポルトガルの独裁政権時代の一端を知る
2015 トレヴィの泉で二度目の恋を
2015 マジック・イン・ムーンライト
2015 イタリアは呼んでいる
2015 ベティ・ブルー/愛と激情の日々
2015 ヴェルサイユの宮廷庭師
2016 グランドフィナーレ
2016 パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト
2016 アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)
2016 人間の値打ち ※期待を大きく上回った作品
2016 ブルゴーニュで会いましょう
2017 ミラノ・スカラ座 魅惑の神殿
2017 セールスマン
2018 君の名前で僕を呼んで
2019 幸福なラザロ
2019 イル・ヴォーロ with プラシド・ドミンゴ 魅惑のライブ~3大テノールに捧ぐ
2020 冬時間のパリ
2020 17歳のウィーン フロイト教授 人生のレッスン
2020 ポルトガル、夏の終わり
2020 シチリアーノ 裏切りの美学 ※イタリア語をたっぷりと浴びた
2020 パヴァロッティ 太陽のテノール
2021 ヤンヤン 夏の想い出
2021 ヘカテ
2021 ファーザー
2021 クレールの膝
2021 皮膚を売った男 ※期待を大きく上回った作品
2022 アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド ※期待を大きく上回った作品
2022 白いトリュフの宿る森
2022 英雄の証明
2022 マイ・ニューヨーク・ダイアリー
2022 さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について
2022 さらば、わが愛 覇王別姫 ※再上映
2022 トリコロール/赤の愛
2022 わたしは最悪。
2022 魂のまなざし ※画家ヘレン・シャルフベックを知る
2022 太陽が知っている ※ロミー・シュナイダー出演作
2022 彼女のいない部屋 ※前評判どおりの斬新な映画表現
2022 気狂いピエロ
2023 モリコーネ 映画が恋した音楽家
2023 すべてうまくいきますように
2023 逆転のトライアングル

アンジェリカの微笑み」や「セザンヌと過ごした時間」のように
予告編で目にしたものを借りて、家で観ることもあった。
N響を聴くならオーチャード公演を贔屓にしていたし、随分と足繁く通ったものだ。

https://www.bunkamura.co.jp/fete2014/design/
https://www.bunkamura.co.jp/archive/?hall=cinema


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YUMING MUSEUM@東京シティビュー

2023-02-26 14:45:50 | 音楽

六本木ヒルズ・森タワーの52階。
広告で目にしていた空間が最初のエリアだった。
高い天井から舞うようにディスプレイされた譜面や歌詞は、
アルバム『パール・ピアス』のジャケットを彷彿とさせる。
グランドピアノの周辺に降り積もった様子は、
50周年という♪「経る時」をイメージしての砂時計の底といったところか。
1枚1枚を覗き込むと、そこには初めて目にするユーミンの字体。
少しだけ丸みを帯びている。
清書されたものよりも、二重線が引かれてまさに創作の最終段階と思しきものが多く、
いきなりテンションが上昇した。

そのあとの肉筆が展示されたコーナーでは、たくさんの発見に時間を忘れそうになった。
例えば荒井由実時代の♪「晩夏」はメモのような状態で、
タイトルはないまま冒頭に「1975.9.10 in Yokote」と記されている。
全体のまだ3割程度でありながら、「ひとり」というキーワードとともに作品の方向性は定まっているようだ。
♪「Corvett 1954」はユーミンの生まれた年と勝手に結びつけていたものの、
当初は1953であったことに驚き、
♪「緑の町に舞い降りて」はタイトルのあとに括弧で(MORIOKAモリオカ紀行)と添えられているのを見つけ、
これが英語タイトルの「Ode of Morioka」に昇華されていたのだと解釈した。

かつてインタビューでユーミンが作詞における生みの苦しみを、
鶴が自分の羽毛を抜いて糸の間に織り込んでいく「鶴の恩返し」の一場面に喩えていたことを思い出す。
念写のような気持ちで言葉を紡ぎ出すとも語っていた。
世の中に発表されているのとは異なるフレーズを目にする度に、
パズルの最後のピースはここだったのかという興奮に包まれる。
極めつけは、アルバム『DAWN PURPLE』のなかの♪「遠雷」。
2行目の「冷めたカップ ペイズリーの煙草のけむり」は特に惹かれる一節なのだが、
ここはなんと「冷めたカップ 薄い煙 めくらないページ」となっているではないか。
「めくらないページ」は削ぎ落とされ、煙の動きにフォーカスした結果の「ペイズリー」。
部屋のなかの静物と対比され、より映像的になっていると感じるのである。
貴重な幼少期の写真からシャングリラに出演したロシア人のメッセージまで
実に盛りだくさんの内容であったが、
創作の過程を垣間見られたことがやはり一番贅沢であった。

ユーミンの声で展示をナビゲートしてくれたのもいい。
日没の時間帯だったので、昔エフエム東京でやっていた「サウンドアドベンチャー」を思い出した。
売店のエリアに来場者交流の場としてストリートピアノを置いてみてはと思った。
ピアノの得意なファンがユーミンの名曲を代わる代わる奏でたに違いない。

記念のグッズ購入は、ジャケ写をあしらったミニノートと行く前から決めていた。
1つずつシルバーの袋に入っていて、中身は前もって分からないという。
初めて買ったLPレコード『VOYAGER』になる確率は40分の1ということになる。
結果はなんと『ユーミン万歳』! 袋から独特の赤が覗いた瞬間、すぐに分かった。
大当たりのような気もするし、オリジナルアルバムのほうが何らかの思い入れと重なったかもしれないし、
最新のベストアルバムを引き当てた偶然をどのように味わったらよいのか
頭のなかをまだぐるぐるとしている。

YUMING MUSEUM(ユーミン・ミュージアム)
2023.2.23@東京シティビュー
かみさんからの誕生日プレゼント


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国宝展@東京国立博物館

2022-12-31 01:08:41 | 展覧会

12月をざわつかせたものの一つに国宝展があった。
コロナ禍以降、チケットは事前購入がスタンダートとなり、
人気の展覧会に○時間待ちの行列ができることはなくなった。
その代わり必ず前もって入手しておかなければならず、これはこれで過酷である。
発売初日で完売していたので、キャンセル発生のタイミングを狙うべく、
eチケットを頻繁にチェックすること2週間。
遂に会期延長後の最終日を手に入れたのだった。
何事もソールドアウトと聞けば余計に行きたくなるもの。
東博所蔵の国宝が一堂に介するとなれば尚更なのである。

実際のところ、国宝が放つオーラは格別であった。
特に冒頭の『洛中洛外図屏風』は、混み合った会場の人垣とも相まって、
いきなり京の都の喧騒が聞こえたかのような錯覚に。
祭礼の音、芸能に興ずる人々の歓声、6曲1双の隅々まで金泥精描が貫かれていて圧倒された。
そのあとも考古の出土品から大陸伝来の逸品に至るまで、時空のスケールもハンパなく、
同時にそれらが代々大切に受け継がれてきたことに目をみはる。

実は2週間前、同じくキャンセルのタイミングで獲得したチケットを娘に譲っていた。
貴重な1枚を多感な高校生活の最後に贈ることにためらいはなかった。
しかしながら、自分も出かけたあとに会話してみると、
埴輪が何体もあったとか、中身が今一つ噛み合わない。
嫌な予感が走った。
東博の広い敷地にはいくつか建物があって、国宝展会場の平成館は一つ奥まった場所にある。
それを見つけらずに本館の展示や、入場無料の「50年後の国宝展」を観覧した可能性が高い。
平成館ではeチケットを読み込むと紙のチケットをくれたので
それをもらっていないということは?
国宝展なんか興味ないと反抗されていた経緯もあり
所詮は猫に小判、豚に真珠だったということか...
嗚呼、理想どおりにはいかない子育てよ。

https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=2529


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12月のイベント ~ リピートと新規と

2022-12-19 00:03:39 | インテリア

11月の早いうちから白熱球のイルミネーションを探し始めたものの、
ネットを検索しても秋葉原の専門店に立ち寄ってもなかなか見つからない。
オレゴンでDebbyさんから譲り受けたものは半分点かなくなって、
これは親玉を交換する必要あり、ただその電球自体が入手困難であるということも判った。
何度も言うようだがLEDのイルミネーションには魅かれない。

そうこうしているうちに12月を迎え、
これも早々と予約していたリース教室の日がやって来た。
昨年はスワッグをほぼ自己流で束ねたが、
今年は田園調布の教室に足を運んでみることにしたのである。
その日は朝から曇りで、午後には小雨の入り混じる実に12月らしいお天気だった。
フランス人の先生のグループレッスンをかみさんと受けると、2つ衝撃的なことがあった。
太めの枝を一箇所あしらっていたところ、美的ではないと指摘された。
シナモンの飾りつけのイメージだったのだが...
また終了後「同じ素材を巻いても一人ひとり違った作品ができるのが面白いところですね」と持ちかけると、
先生は溜息とともに眉をひそめ「それが問題なのです」と。
どうやら個性を発揮するよりも、お手本に近ければ近いほどよい作品という定義のようだ。

先週は会社のピアノ・サークルで悲愴ソナタを演奏した。
実に中学生のとき以来のベートーヴェン。
仲間の一人に触発されて選曲を思い立ったのが今年の夏頃。
第3楽章はひるまずにという目標のもと、アレグロのスピードで何とか弾き切った。

大好きな12月をとことん味わいたくて、
イルミネーションも針葉樹の香りもピアノの会もここ数年の恒例になっている。
ただ不思議なもので、リピートしたいと思った楽しいイベントや出来事は、
初回の印象を上回ることにはならいことが多い。
その意味において、今週末聴きに行く第九は初めての試みなので期待が高まる。
ソリストや合唱が総出することでも豪華な第九は12月の風物詩。
来年以降の恒例に加わったとしても、今年には敵わないのだとしたら尚更大切な時間にしたい。
バリトンの青戸 知さんが楽しみだ。
ベートーヴェンに縁のあった2022年、そのイヤーエンドに向けてさらに加速する。


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別世界的名店 Vol. 11 ~ 銀座・ルカ スカンジナビア

2022-06-16 23:23:38 | インテリア
北欧のヴィンテージ家具を扱う専門店はいくつか存在するものの、
ルカ スカンジナビアほどにアートや工芸も充実しているところを他に知らない。
フィン・ユールの椅子の優美な曲線にも、クリスチャンボーシャンデリアの温もりにも惹かれるが、
お店のホームページにアクセスする度にまず目が行くのは絵画である。
オーナーさんの審美眼にかなったデンマークの画家が何名かいて、
同国の20世紀絵画史の一部はこの店が日本に紹介していると言っても過言ではない。
その画家が生涯にどのような作品を残したのか、どのように作風が変遷していったのかなど、
芸術学的な興味までもが自然と湧き上がって来るのである。
 
そして遂に、1950年代の油彩作品を買い求める日が来た。
絵画をしかも銀座で購入するというのは、特別な体験。
数年前に青山の骨董通りから銀座へ移転したときは、やはり敷居が高くなったように感じた。
しかしながら、ウィンドウ越しに店内を眺められるのは路面店だからこそで、
金箔のフレームに収まった絵画の存在感は画廊の多いこの街に相応しい。
家具や照明との調和によってアートの輝きはさらに増して、別世界を醸し出している。
 
夏至近くの明るい夕方、絵を携えながら銀座をあとにした。
遅くなる日没にロシアと対峙している北欧が脳裏を過った。
 
 
2022年8月追記:
ロードショーで北欧の映画2本と出合う。
『わたしは最悪。』はオスロが舞台。緑の多い街並みが印象に残った。
『魂のまなざし』はフィンランドの国民的画家・ヘレン・シャルフベックを描いた作品。
久々にリピートで2度鑑賞、2015年上野と2016年葉山の展覧会をなぜ気付かずにいたのだろうか。
映画から先に入ったことで焼き付けられたのは、キャンバスを擦る技法。
画集を開いても摩擦音が蘇って来るほどに、音声が徹底して拾われていた。

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甘味礼讃 Vol. 7 ~ ボナイユート チョコレート

2022-01-23 17:07:47 | グルメ
数年前に参加したマインドフルネスの研修では、
冒頭でチョコレートが配られて、3分掛けて口の中で噛まずに溶かしていきましょうと、
その間すべての意識をそこに向けるという体験から始まった。
カルヴァドスを飲みながらボナイユート チョコレートを味わう行為はそれに似ている。
鼻腔口腔を刺激する40度のパンチを、ときにチョコレートでかわしながらじっくりと味わうのである。
 
「アンティーカ・ドルチェリーア・ボナイユート」はシチリア南東部・モディカにある老舗のチョコレート店。
シチリアがスペイン王国の統治下にあった16世紀頃、
アステカ帝国で薬として食されていたチョコレートのレシピとカカオが持ちこまれ、
古式ゆかしい製法が今も守り続けられているというから驚きである。
口溶けよくするためのレシチン(乳化剤)やバターを使わないため、
砂糖の粒子が残って独特のシャリシャリとした食感が生まれるという。
その粗さをカルヴァドスが徐々に侵食していく感覚がたまらない。
 
輸入元のサイトには約20種にも及ぶカラフルなパッケージが紹介されており、
フレーバーの元となる果実や植物などの図案が目を引く。
マンダリンオレンジ、レモン、ジンジャーと3種類を試したところで
カルヴァドスのボトルは空になる日が見えてきた。
 
 
参考URL:

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