訃報っちゃ訃報なんだけどさ。
…顔は知っちゃいるが、名前はよく知らず…って方だった。
近隣のそこそこ大きな会社に勤め、労組関係で活躍したと聞いてたが、実のところは左翼関係者で素性をそうそう明かせない人だったとも聞く。
んまぁ、そっち系の人で、かつ非合法活動だのなんだの…あっち系で言うところの武闘派みたいなもんだったと思う。
暴走族捕まえて半殺しにして電柱に吊るし上げてたりしてたし、そうは見えないオッさんだったけれど、かつて盛んだった学生運動で鍛えた戦術、戦略は珍走団壊滅に全力で発揮してたよね。
「ヤツら潰す時はよ、右手と左足潰すんだ。確実にな。そうしないとまた乗るだろ?」
…んで、ホントに潰しちゃう。工事現場で使う足場パイプを短くした物の片側にコンクリ詰めて、それをスナップ効かせてバキボキ滅多打ち。
珍走団の兄ちゃんが泣こうが喚こうが、確実に潰れるまで徹底して叩くけども、案外と早くケリがついてた。
多い時でも5人だったかな。少人数で珍走団に襲い掛かって各個撃破の繰り返し。
まぁ、やられる方も相手を知らずに手を出しての事だから、気の毒ではあったが、そんな騒ぎになっても警察は来ない。誰も呼ばないしね。そもそも、どうしてそうした所に都合よく珍走団が集まるのをオッさん達が知ってたのか不思議だったりもした。
やがて、そこそこ大きな不況があり、オッさん達は会社から消えた。住んでいた社宅もごっそりと消えた…。
消えてからかれこれ十数年経ち、とっくにおじいさんになっていたんだろうと思う。
今日たまたま、共通の知り合いだった方に会い、訃報を聞いた。
もうちょっと話を聞いて残しておきたかったけどね、非公然活動家って事もあって、珍走団潰しと、かつての騒動くらいしか聞けなかったのが残念。
今じゃ、そんなのに、被れたり感化されたりする若い人もいないんだろうと思うけど、昔は高校生、大学生が思想、主義に大きく心を動かして、非合法活動に勤しんだりしてたんだよね。
対企業テロとか交番襲撃とか、すげぇ時代がこの日本にあったんだ。
あの、オッさん達はその生き残り。そうした時代が無くなっても、闘う時には闘う人達だった。
「ヤクザとは違うの?」
かつてそう尋ねた事がある。
「違うよ。でも彼らだって理に適い、義にスジ通してやってるところもある。想うところは違うけどな。」
同じ頃、ヤクザの抗争が今より盛んで、新聞見れば何かしら載ってた。どこぞの組長がホテルで撃たれただの、マンションで撃たれて死んだだの…。
オッさん達があの後どうしてたのかは聞けなかったが、それなりに意気軒昂だったらしい。素性は大っぴらには出来ないでいたらしいが、しっかりと今に生きてたと。
昔がどうのこうのではなく、今と、そしてこの先を憂いていたそうな。
それらは、我々とは違う別の物だったかも知れない。だけれど、先を見据えて生きてたと知れて、驚いたし、羨ましい感じもした。
今ね、我々は先を見据えて生きてる? 今で精一杯なんだけどね、この先を考えたり、進むべき方向をしっかり見てる?
オッさん達の考え、主義主張をムゲにマネしちゃいけないワケだけれど、そう生きるってのも、失くしちゃいけないもののひとつなんじゃなかろうかとも思ったよ。
ひょんな事から出会い、あれこれ教えてくれたかつての闘士だったオッさん…もう、何かと闘う必要は無いよね。どうか安らかに…。