んまぁ、揺れたし、葬儀屋巡りだし、疲れたな…。
父を送る準備もしとかないとイケナイワケで、突然あの世に召されたワケじゃないから、出来る事は事前にやっておかないと後で後悔する…。
とは言え、葬儀屋なんか一生のうちでそうそうやっかいになる所でも無いし、初めての事でもあるので、どこへ行って聞けば良いんだか判らない…。判らないなりも、葬儀なんてのは近所でもちらほらあったりするもんだから、
「ご近所の評判…」
なんてものを頼りに出掛けてみた。値段があって無い様なモノ…と言う世界であるから、相場なんてものは当然知らないし、ちょろっとネットで調べてみても、これだ! なんてモノは無いワケだし、正直、何をどう聞いていいのかも判らないまま、飛び込んでみたワケである。
1件目は自宅から程近い駅のそばにある葬儀屋で、ちゃんと会葬所も併せ持つところである。まぁ、地元に根付いたと言えば良いだろうか。親切には応対して頂いた。
ところが、難点が当方にはある。特定の宗教に一切与しない父だったので、文字通りの無宗教。しかも、明確な指示や遺言も無いワケだが「シンプルに…」と言う希望だけは私も聞いている。普通かどうか知らんが、
「うちは○○学会だから□□宗で…」
「うちは△◎寺が菩提寺だし、檀家だし…」
ってのがあれば、話は早い。会葬者がおよそ何人来るし、なんて事を伝えればおのずと値段も判るだろうし、坊さんに掛かる費用と相談すれば良い。
そうしたモノが、全く無いモノだから、そうした場合にどーすんのか? 何すんのか? なんてのは「未知の世界」なワケである。
んで、まぁ、「そう言う方も最近じゃ増えているんですよ…」と、葬儀屋さんは言いながら、具体案が出て来ない。
「無宗教でお値段がこれ位なら、こう言う形になりますよ…」
ってのを期待したのだが、それが無い。そうした経験に乏しいと言うのが、何も知らない私らにでも判ってしまうのである。そうであっても、初めて飛び込んだワケだから、一応の概算を提示してもらい、見た限りべらぼうでも無いので、こんなもんだろう…って事に。
ただ、父の乏しい希望に沿うものかどうかは、やはり疑わしい。値段がどーのこーのよりも、そうした事を出来るのかどうか? 出来るとしたら、どーなのよ? ってモノが無いと、任せていいモンじゃないワケだから、他を当たってみる事に…。
結構大手で、自宅からはちょっと離れてはいるけれど、経験豊富そうだから、いきなり訪ねて、「どーなのよ?」ってのを聞いてみる事にした。著名人なんかも割りかしここで葬儀告別式なんかをやっていたりもするので、「高そー!」って感じはモロにあるが、話を聞く分にはタダだろうし、「そーゆーのもあるのか…」ってのが判ればめっけもんでもある。
まぁ、結論から言うと、値段もさほど変わらないのに、提案された事の中身が全然濃い。まさに「あー、こんなのもあるのかぁ…」と言う、見本のオンパレード。
希望通りの葬送が出来そうだし、実際にそうされた方の事例が示されると話も早いし、不安も無くなる。んまぁ、大体、訪ねて来た格好見れば、そうそうお金も掛けられないだろうな事は、あちらも判っているんだろうけれど、細々と色々教えて頂いた。
最低のランクを選んだからといって、葬儀として抜かりのあるものでは無いし、例えどの宗派だろうが、宗教だろうが、それは変わりない。葬儀無用なんて人もいるし、法律に則って埋葬まですれば、何も式典は行わなくても構わないワケだ。
だからと言って、そうするか? と言うと、そう故人が強く希望しない限り、あまり行わない。残された人のための「葬儀」でもあるからだ。お付き合いや、お世話になった方への「葬儀」でもあるので、お金を掛ければ幾らでも、如何様にも出来るが、無為にそうする必要も無い。故人の意を汲んで、それでいて故人ならでは…って葬儀がリーズナブルに行えれば、家族も会葬者も、送られる故人も満足できるモノだと、具体的に示して頂けた事は、丸1日の放浪の甲斐もあったワケである。
単に「無宗教形式」でシンプルに…ってモノでは無い形になりそうだから、あまり良い表現では無いが「楽しみ」でもある。父らしい形が実現出来るって事は、鬱でありながらも良い考えが出たもんだと思うし、会葬者も納得して頂けるものだと思う。
そんなこんなも、そうした提案がきちんと出来る葬儀屋さんと出会えた事…。これに尽きる。まぁ、そう遠くはないものの、必ずやって来る不安の1つが解消出来たってのは、心労が重なる家族には大きい事である。
とか、何とかやってる最中に、地震はやって来た。1件目の葬儀屋探訪を終えて、作戦会議をファミレスで行っていた最中だったのだけれど、大きく揺れる1分位前に妙な胸騒ぎがしたんである。
「やべぇ! 逝ったか?」
頭には当然地震よりも、父の容態の事が渦巻いているもんだから、そう思ったのだが、ゆらーりゆらーり…適度な不快の強さを保ったまま揺れ始めた。
長く、大きく揺れた割には、危険を感じる様な物でも無く、「だんだん大きくなるのか?」と言う不安はあったものの、落ち着いてしまった…。
そんな感じだったので、私鉄に乗り、JRに乗り継いで2件目を目指したのだが、JRは大きく遅れており、少々出鼻をくじかれる。私鉄が何事も無かったかの様に動いていたし、「お盆」でもあるから、空いていたし、かなり長い間電車が来るのを待つのは「こんな時に限って…」って思いもあるので、困ったもんだ。
2件目でかなり気分的にはスッキリし、病院の面会時間もまもなく…と言う事なので父の様子を伺いに行く。
大きな容態の変化は無いものの、顔や手足のむくみは驚くほど改善されている。一時はどーなるかと思ったが、それだけでもウレシイし、父もかなり楽にはなっている事は間違いない。
親族が見舞いに来てくれて、やはり視覚的にはショックを大きく受ける…。酸素マスクは外せないし、時折、何かをしゃべっても意味は判らないし、目を開けても見舞いの者を目で追う事も無い。天井を見上げ、大きく喘ぎながら横たわる父を見れば、ショックはやはり大きいだろう。そんなこんなもここ数日での事で、自宅にいる頃はまだ動けたし、疲れと咳以外にはそれほど「悪く」も見えなかった。
顔色もヒドク悪くないし、時折ちゃんとした受け答えも出来るのだけれど、やはり徐々に衰弱はしている。それが、父のこれまでを知っていても、やはり「ツライ」。
「がんばって、お家に帰ろうよ…」
父も、家族も、親族も、それが難しい事は知っている。でも、そうしたい。
父も、うなずいた。決して逃げる事無く、癌と向かい合っている。
慣れない事に疲れたのは確かだけれど、父のがんばりに比べたら屁でも無い。