=メディアの今 見張り塔から(『東京新聞』【日々論々】)=
◆ キャスティング握る大手芸能事務所
公共性歪められる典型
反社会勢力のパーティーで会社を通さない「闇営業」を行い、金銭を受け取っていたなどとして、吉本興業から契約を解消されたタレントの宮迫博之氏と、同パーティーに参加したことで謹慎処分を受けていた田村亮氏が二十日、都内で記者会見を行った。
会見では冒頭、宮迫氏が吉本興業の岡本昭彦社長に、自分たちの謝罪会見を開きたいと申し入れたところ「やってもええけど、ほんなら全員連帯責任でクビにする」と暗に会見を開かないようにする圧力があったことが明かされた。
それまで報道されていた事実と異なるさまざまなことが明かされた会見だったが、メディアやジャーナリズムという観点からこの騒動を眺めると、あるポイントが気になった。巨大芸能事務所とテレビ局の関係だ。
記者会見にあたり、二人は生放送-とりわけ最初から最後までネットで見られる会見を吉本側に要望していたという。だが、吉本側はそれを拒否。「在京五社、在阪五社のテレビ局は吉本の株主だから大丈夫やから」と言われ、不信感を抱いたそうだ。
ここで述べられた「大丈夫」とはどのような意味だったのか。一体何が“大丈夫”なのか。
吉本興業が二十二日に開催した記者会見で配布した資料には「生中継する場合、当社の株主には放送局もおり、公平を期して時間帯などに配慮が必要となる、と説明」と書かれていた。
小林良太法務本部長は「宮迫さんに会見を生中継したいと言われたが、東阪各局があるので、時間を考えなくてはいけないよというようなことを伝えました。事実はこれだけ。亮さんがどういう思いでその発言をしたかはわからない」とその意図を説明した。
しかし、二人が要望する生中継の会見を拒否したうえで「大丈夫(問題ない)」と語ったという話の流れを普通に解釈すれば、テレビ局が中継したがるニュース性の高い記者会見を吉本興業の都合でテレピ局に中継させなくても、在京五社、在阪五社のテレビ局は吉本の株主だから大丈夫-テレビ局に文句は言わせない。吉本とテレビ局の間にそのような力関係があることを二人に示す慧味での「大丈夫」だったのではないか。
米国の放送業界に詳しいタレントのデーブ・スペクター氏は、二十一日に放送されたTBS系「サンデー・ジャポン」に出演した際、吉本興業の株を在京在阪テレビ局が持っていることを批判。「トップダウンでキャスティング多いんですよ。なあなあの関係になるから、株すぐ手放すべきだと思う」と述べた。
つまり、この問題は強大なコンテンツ力を背景に、事務所を退社したタレントたちを番組に出演させないよう圧力をかけた疑いで公正取引委員会から注意を受けたジャニーズ事務所の問題と地続きである。
大手事務所とテレビ局の不適切な関係が白日の下にさらされない限り、今後も同様の事態は起きるだろう。
大手事務所がテレビ局のキャスティングを握る現象は、商業性によって公共性が歪められる典型である。
テレビ局は今回の騒動を契機に、番組のキャスティングについて第三者が検証できる仕組みをつくるなどの改革を始めるべきだ。
(毎月第4木曜日に掲載)
『東京新聞』(2019年7月25日)
◆ キャスティング握る大手芸能事務所
公共性歪められる典型
ジャーナリスト・津田大介さん
反社会勢力のパーティーで会社を通さない「闇営業」を行い、金銭を受け取っていたなどとして、吉本興業から契約を解消されたタレントの宮迫博之氏と、同パーティーに参加したことで謹慎処分を受けていた田村亮氏が二十日、都内で記者会見を行った。
会見では冒頭、宮迫氏が吉本興業の岡本昭彦社長に、自分たちの謝罪会見を開きたいと申し入れたところ「やってもええけど、ほんなら全員連帯責任でクビにする」と暗に会見を開かないようにする圧力があったことが明かされた。
それまで報道されていた事実と異なるさまざまなことが明かされた会見だったが、メディアやジャーナリズムという観点からこの騒動を眺めると、あるポイントが気になった。巨大芸能事務所とテレビ局の関係だ。
記者会見にあたり、二人は生放送-とりわけ最初から最後までネットで見られる会見を吉本側に要望していたという。だが、吉本側はそれを拒否。「在京五社、在阪五社のテレビ局は吉本の株主だから大丈夫やから」と言われ、不信感を抱いたそうだ。
ここで述べられた「大丈夫」とはどのような意味だったのか。一体何が“大丈夫”なのか。
吉本興業が二十二日に開催した記者会見で配布した資料には「生中継する場合、当社の株主には放送局もおり、公平を期して時間帯などに配慮が必要となる、と説明」と書かれていた。
小林良太法務本部長は「宮迫さんに会見を生中継したいと言われたが、東阪各局があるので、時間を考えなくてはいけないよというようなことを伝えました。事実はこれだけ。亮さんがどういう思いでその発言をしたかはわからない」とその意図を説明した。
しかし、二人が要望する生中継の会見を拒否したうえで「大丈夫(問題ない)」と語ったという話の流れを普通に解釈すれば、テレビ局が中継したがるニュース性の高い記者会見を吉本興業の都合でテレピ局に中継させなくても、在京五社、在阪五社のテレビ局は吉本の株主だから大丈夫-テレビ局に文句は言わせない。吉本とテレビ局の間にそのような力関係があることを二人に示す慧味での「大丈夫」だったのではないか。
米国の放送業界に詳しいタレントのデーブ・スペクター氏は、二十一日に放送されたTBS系「サンデー・ジャポン」に出演した際、吉本興業の株を在京在阪テレビ局が持っていることを批判。「トップダウンでキャスティング多いんですよ。なあなあの関係になるから、株すぐ手放すべきだと思う」と述べた。
つまり、この問題は強大なコンテンツ力を背景に、事務所を退社したタレントたちを番組に出演させないよう圧力をかけた疑いで公正取引委員会から注意を受けたジャニーズ事務所の問題と地続きである。
大手事務所とテレビ局の不適切な関係が白日の下にさらされない限り、今後も同様の事態は起きるだろう。
大手事務所がテレビ局のキャスティングを握る現象は、商業性によって公共性が歪められる典型である。
テレビ局は今回の騒動を契機に、番組のキャスティングについて第三者が検証できる仕組みをつくるなどの改革を始めるべきだ。
(毎月第4木曜日に掲載)
『東京新聞』(2019年7月25日)
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