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パワー・トゥ・ザ・ピープル!!アーカイブ

東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

書評『ルポ 賃金差別』~もの静かな詐欺

2012年07月07日 | 格差社会
 『ルポ 賃金差別』竹信三恵子・著/ちくま新書/798円(税込)
 ◆ 「公正な働き方」を裁判官は知れ
評者:柚木康子●全石油昭和シェル労働組合

 竹信さんが『ルポ 雇用劣化不況』を書いたのは2009年3月だった。それから3年、状況はさらに悪化した。
 竹信さんは「はじめに」の冒頭「日常的で、もの静かな『詐欺』とでもいえる状況が、私たちの職場に広がり続けているのではないかー」と提起している。同感だ。
 非正規雇用が4割近くにもおよび、その6割強が女性であり、女性の半数以上が非正規となった。11年の厚労省調査では有期労働者で年収200万円以下が74%に、正社員と同じ職務内容の働き手に限っても200万円以下は60・3%で、09年の40・7%を大きく上回り、その上短期契約でいつ仕事を打ち切られるかと怯えている。
 「夫や親が食べさせてくれる人たちだから安くともかまわない」とされた女性や若者の低賃金が今や家族持ちの男性にも広がった結果だ。
 「はじめに」で、電機メーカーの下請け工場の例が紹介されている。
 派遣会社が違うとはいえ、同じラインで働きながらフィリピン人は日系ブラジル人より200円時給が低く、さらに女性はそれぞれの男性より100円低い、受注が減ると男性から自宅待機になるという。差別の根深さにため息がでた。
 竹信さんは安くて当たり前の人たちを簡単に生み出すことができたのは、同一価値労働同一賃金の国際ルールを守るための規制がないに等しいから、労基法4条や均等法、パート法など差別を規制する法律はあっても、何をもって差別とするのかの定義=物差しがはっきりしないことが多いからという。
 法改定に向けた審議会はあるが、そこには差別を受ける側の代表がほとんど参加していないとも指摘する。
 今パート法見直しの審議会が開かれているが、労働側の主張は弱く、公益委員は「人材活用のしくみ」を水戸黄門の印籠のごとく掲げる。仮に人材活用の仕組みが違っても、ここまでの格差=差別は妥当なのかが問われなければならない筈だ。
 「世界16力国の仕事に対する意欲」の表によれば、日本は「非常に意欲的である」が2%と16ヵ国中最低で、「意欲的でない」は41%とインドに次ぐ2位だ。
 仕事の中身に関係なく、その枠に入ったら終わり、という賃金のあり方は働き手の意欲をそぎ、社会の活力をそぐという意味で深刻だという指摘に同感だ。
 安くて当たり前の人々を増やした原因はどこから来ているのか、是正を求めて闘った様々な具体例を紹介しながら解き明かし、そしてその対処法にも触れている。
 具体例はみな興味深いが、男女差別裁判を闘った当事者として2点触れておきたい。

 是正を阻む大きな要因に、司法の思考停止がある。くびくびカフェの京大時間雇用職員裁判の裁判長の説諭は性役割意識の根深さが分かる。
 男女差別裁判でも「憲法違反だが違法ではない」という理解不能な判断が繰り返された。
 「当時はみんなそうだったから…」が許されるのか。

 85年に批准した女性差別撤廃条約2条(締約国の差別撤廃義務)には「女子に対する差別を撤廃する政策をすべての適当な手段により、かつ遅滞なく追求することに合意し」とある。締約国には政府、立法府も司法も含まれるのだ
 09年女性差別撤廃委員会日本報告審議で、委員たちは、日本はこの条約をただの宣言と思っているのか、拘束力があると考えているのかと追及した。外務省の課長は「バウンデッド」(拘束される)と答えたのだが。
 本書に紹介されているPECOの屋嘉比さんや均等21で取組んでいる職務評価をぜひ広めて、「安くて当たり前」を一掃したい。政治家や裁判官にも読んでほしい1冊だ。
『労働情報』(842号 2012/7/1)
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