《月刊救援から》
☆ 外国人迫害を繰り返す 懲りない入管法改定案
前田朗(東京造形大学)
☆ 改定法案報道
政府が入管法改定案をふたたび通常国会に提出する動きがある。報道によると二〇二一年の通常国会で廃案になったのと同様の内容の法案が準備されているという。
二一年改定案には一〇万筆以上の反対署名が集まった。SNSやマスメディアでも幅広い反対の声が広がった。
二一年三月に名古屋入管に収容されていた女性ウィシュマ・サンダマリさんが亡くなった。入管庁が真相を隠蔽したため、さらに非難の声が高まり、改定案は廃案となった。
入管当局はウィシュマさんが受けた非人道的な処遇を隠蔽した。実態に即した制度改善を求める市民やメディアの声にもかかわらず、入管当局は議論を拒否している。
入管施設で亡くなった外国人は初めてではなく、過去に十数人の犠牲が出ている。
二二年には、ロシアによる戦争のため多数のウクライナ難民が来日した。多くの市民・企業などが援助を申し出た。民意は決して難民排除ではない。
にもかかわらず、現行難民制度はウクライナ難民に利用させることが困難であり、「避難民」の特別扱いが続いた。
難民政策の総合的な見直しが必要である。
仮放免制度により収容を解かれた人たちが健康保険加入を許されず、就労を禁じられ、暮らしや健康を破壊される深刻な事態が明らかになった。
二二年一〇月、国際自由権委員会は日本政府報告書の審査を行い、同年二月三日、次のように勧告(パラグラフ三三)した。
「国際基準に合致した包括的な庇護法を早急に採択すること」
「移民が虐待を受けないよう保障するために、適切な医療援助へのアクセスを含む収容施設での処遇に関する改善計画策定を国際基準に準じて行うなど、あらゆる適切な措置をとること」
「仮放免中の移民に必要な支援を提供し、収入を得る活動に従事する機会設定を検討すること」
「行政収容への代替手段を提供して、入管施設の最長期間を導入するための措置を講じること、及び収容は行政収容に対する既存の代替手段が十分に検討された場合のみ、最短の適切な期間だけ用いられるようにし、収容の合法性を判断する司法審査に移民が効果的に手続きを行うことができるようにすること」
「自由権規約その他の適用可能な国際基準に基づく庇護希望者の権利の完全な尊重を確保するために、出入国管理職員の移住に関する適切な研修を保障すること」
ところが入管法改定案では改善が見られない。二一年改定案と同様の法案を提出することは民意をないがしろにし、国際常識に反旗を翻すものである。移民、難民に対する非人道的な政策は速やかに終了させるべきである。非人道的な収容による犠牲を繰り返さず、苦境にある難民を排除しないために準備中の入管法改定案ではなく、抜本的な改善を図る必要がある。
☆ 誰一人取り残さない
一月一七日、STOP長期収容市民ネットワークに加入する七団体(
アムネスティ・インターナショナル日本、
移住者と連帯する全国ネットワーク、
全国難民弁護団連絡会議、
日本カトリック難民移住移動者委員会、
入管問題調査会、
全件収容主義を闘う弁護士の会ハマースミスの誓い、
ヒューマンライツナウ
)は声明「難民を虐げ、在留資格のない人の命を危うくする法案は、もうやめてくださいー入管法改定案の再提出に反対します!」を発表し、内閣総理大臣、・法務大臣宛に送付した。
声明によると法案には次のような問題点がある。
第一に、低い難民認定率に改善策をとらない一方、難民申請者の送還を可能にし、迫害を受ける恐れがあるのに難民を本国に送り返す。
第二に、送還忌避罪を創設し、帰国できない事情があるため在留を希望する人に刑罰を加える。
第三に、管理措置制度により、在留資格のない外国人について、その監視を支援者らが引き受けない限り解放せず、無期限の長期収容制度を存続させる。
第四に、在留特別許可制度の縮小と、問題のある判断要素の法定で、同制度による救済を狭める。
政府は都合の良い時には「誰一人取り残さない」社会の実現を目指すという。だが「誰一人取り残さない」ために同法案は障害になる。この社会に生きる一人ひとりの命と人権が保障され、誰もが安心して暮らすことのできる社会、本当に誰一人取り残されない社会を実現するために、声明は次の五点を要望する。
第一に、国籍にかかわらない共生のための法律や行政官庁を作ること。
第二に、難民保護を目的とする法律と、独立した行政官庁を作ること。
第三に、入管収容制度に、期間の上限・要件の限定、司法審査を導入すること。
第四に、仮放免中など在留資格のため審査中の人たちの生存権保障のため、就労・社会保障を可能にすること。
第五に、在留を希望する外国人に対して、人権の基準に沿って在留許可をすること。
入管法制は在日朝鮮人差別を目的に形成され、その後は難民排除のために再構築されてきた。
地球儀レベルでの人の移動が頻繁になった一九八〇年代以降も日本は外国人排除と差別の内向きの姿勢を変えずに今日に至っている。現代の開かれた社会の実情に呼応した制度改革が求められる。
『月刊救援 第646号』(2023年2月10日)
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