たんぽぽ舎です。【TMM:No5159】2025年3月3日(月)
☆ 被害者の伊藤詩織監督を叩くのは止めよう
「メディア改革」連載第169回 浅野健一(アカデミックジャーナリスト)
☆ 重大な「人民の権益」の有無で判断すべき
◎ 米映画芸術科学アカデミーが主催する第97回アカデミー賞の授賞式が3日(現地時間2日)、ロサンゼルス・ハリウッドで行われ、長編ドキュメンタリー部門でノミネートされていた伊藤詩織監督の「Black Box Diaries(ブラック・ボックス・ダイアリーズ)」は残念ながら受賞を逃した。
NHK衛星放送が授賞式を生中継した。伊藤監督作品は同賞にノミネートされた五作品の一つに選ばれていた。日本の長編ドキュメンタリー映画が選ばれたのは初めてだった。
伊藤氏は発表前、製作メンバーと共にレッドカーペットを歩き「製作には8年、10年がかかった。こんなに多くのチームと一緒に、この時間を過ごせたということが私の心の支えになった。ここに皆さんで立てたことが最高の思い出」と述べた。
授賞作品発表の際、東京のスタジオのアナウンサーが、同映画について「映画で使用された映像、音声を巡り紛争があり、日本では今も上映されていない」と伝えただけで、まったく冷たい扱いだった。
現場の解説者(父親が外交官らしい)も他の2作品を推していた。「残念だ」というコメントもない。国際的な賞の報道で、いつもは、「日本」にこだわるNHKとしては極めて異例の扱いだった。
◎ ハリウッドの会場のスクリーンに、伊藤さんが山口敬之TBSワシントン支局長(当時)によって都内のホテル前で、タクシーから引っぱり出されてホテルに連れ込まれる様子を捉えた監視カメラ画像などの写真が10枚近く流れた。ホテル前の映像は、伊藤氏の元代理人弁護士が繰り返し、「裁判以外では使わないという約束を破っている」と批判している。
伊藤氏は2015年、山口氏にレイプされたと警視庁に告訴。高輪署員が16年、一時帰国した山口氏を準強かん容疑で逮捕するはずだったが、中村格(いたる)刑事部長(後に警察庁長官、現在日本生命特別顧問)の命令で逮捕は取りやめとなった。山口、中村両氏は安倍晋三首相と親密だった。
https://www.dailyshincho.jp/article/2022/07210601/?all=1
◎ 山口氏は不起訴となり、伊藤氏が山口氏を相手取って提訴した。この民事訴訟では、裁判所が約332万円の損害賠償を命じた判決が確定している。山口氏は一貫して嫌疑を否定している。
この映画を巡り、2月20日、日本外国特派員協会(FCCJ)で、1.映画に人権侵害があると批判している佃克彦弁護士ら(午前10時半)、2.伊藤さん(13時30分、日本語版の映画上映=午前11時40分から)…の二つの会見が予定された。
◎ 私は二つの会見を取材したいと思い、FCCJに申請したが、「満席」で参加できなかったので、ユーチューブの中継で1.の会見を視聴した。
この会見の司会、神保哲生氏(ビデオニュースドットコム)から、2.の会見(映画上映も)がキャンセルになったと発表があった。
佃、西広陽子(伊藤さんの元代理人)、角田由紀子各弁護士らが、同意なしの映像・音声の使用、公益通報者(警視庁捜査官)の保護をしていないなどの問題があるまま、海外で上映されていると強調した。
3人は、伊藤氏が「他人の権利を踏みにじった」と批判。「恩を仇で返してはいけない」「人としての道に反している」(evilと訳されていた)など激しい言葉も出た。会見の模様は下記にて配信されている。
https://www.youtube.com/live/DQD11h6HlXI
◎ 伊藤氏は東京新聞の望月衣塑子記者に対し、記事に名譽毀損があったとして民事裁判を提起している。
この会見を受けて、沖縄で米軍批判の作品で著名なドキュメンタリー監督が伊藤氏を「モンスター」とまで形容し、強く批判し、「左翼リベラル」とされる人たちがこぞって伊藤氏バッシングを展開している。性暴力の被害者が元同志に攻撃される異常な事態だ。
FCCJの会見で、ニューヨークタイムズ記者が「まず、日本国内で上映させて、市民に判断してもらってはどうか」と質問した。同感だ。
会見の最中に、伊藤氏側はFCCJの受付に、声明文などを配付した。伊藤氏は体調不良によりドクターストップがかかり会見と映画上映を見送った。
http://blog.livedoor.jp/asano_kenichi/archives/37974085.html
https://d4p.world/30737/
☆ 被写体の「同意なし」で国内上映なしの異常
◎ 関係者によると、日本でも大手配給会社の一つが映画の公開に向けて動いている。いま起きている作品で被写体になった人たちや元代理人弁護士と伊藤さん側との「紛争」「紛議」は、海外で高い評価を受けている映画の公開を妨害する理由にはまったくならない。
◎ 映画に関する法律、倫理の問題は、それぞれ、司法、映画界で、議論するべきだ。
映画の作り方も含め、個人や団体の名誉プライバシーと表現の自由・知る権利とのトラブルは、非常に重要な「パブリック・インタレスト」(人民の権益)があるか否かで調整すべきだ。人民が最終的に判断し、歴史の審判を受ける事案だと私は思う。
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