◆ 中学道徳教科書採択
“問題満載の”「日本教科書」は3地区のみ (教科書ネット)
来年度から実施する中学校道徳科の教科書採択がこの夏にかけて行われました。
8月31日までに採択し、都道府県教委は需要数(生徒の使う教科書数)を9月16日までに文科省に報告することになっています。しかし、石川県などは県としての公表予定はない等と情報公開に背を向けている中、各地から寄せられた報告などで明らかになった教科書採択状況は、上の表の通りです。
公立学校全584採択地区の94.3%の551地区です(10月4日現在)。
これは、採択地区数なので、冊数では多少の変動があります。ただ昨年の小学校道徳教科書の採択を見ると、順番はほぼ一致しています。
小学校の道徳教科書の採択地区数から見ると東京書籍、廣済堂あかつきが占有率で大きく増やし、学研教育みらい(小学校15.6%)と学校図書(同12.9%)が大きく減っています。
地区によっては小学校との継続性などとして同じ社の中学校道徳教科書を採択している所もあります。東京都で54地区中25、大阪府で38地区中15、埼玉県で25地区中9、昨年「教出」が8地区と多かった北海道では23地区中15(内「教出が5」)となっています。
◆ 栃木県大田原市、石川県加賀市・小松市で日本教科書を採択
「愛国心」などを「態度や行動」にできているか、を数値で生徒に自己評価させ、それらを通じて徳目を押し付けようとするなど“問題満載の”「日本教科書」(以後「日科」)は、公立の採択区では扶桑社以来「つくる会」系の教科習を抹択してきた栃木県大田原市と石川県加賀市・小松市の三市にとどまりました。
一県の特別支援での採択、私立学校の採択の可能性もありますが、最終的には公立地区数で0.5%、全体の冊数では7000冊程度の0.2%程度にとどまると思われます。先の三市の共通項は、育鵬社の中学歴史・公民教科書を採択している、首長が教育再生機構首長会議(以後「首長会議」)に参加していることです。
教科書ネットとしては、「首長会議」を通じて、首長の政治介入で「日科」を採択させようとする八木秀次氏らの動きを批判してきました(HP参照:7月17日付け事務局長談話)。
市長が「首長会議」の会長である東大阪市や育鵬社の教科書を採択してきた東京・武蔵村山市などでも様々な取り組みで「日科」は採択させませんでした。
「日科」を採択した小松市教育委員会はHPで主な採択理由として「石川県に関係のある伝統文化や人物を題材とする複数の教材が掲載されている」を挙げています。この手の理由は他の地区の教科書採択でもみられるものですが、内容を吟味することなく「掲載されている」だけで採択するのでいいのでしょうか。
他の理由も「生徒自身の生活や生き方を問うたり、新聞の社説や投書欄を用いたりし、生徒が多面的に考えられるよう工夫されている。写真や絵など、生徒の想像力をかきたてる資料が盛り込まれている」です。
これは他の教科書にも通じる内容で、「日科」の内容全体を軽視しているものです。
「日科」は、生徒の内心に関わる徳目の自己評価を強制しているだけでなく、台湾の植民地支配や政策抜きに灌概工事を指導した人物が今でも地元の人に愛されていると描くことにより植民地支配を正当化する内容にしています。
また題材にかこつけて安倍首相の真珠湾での演説を載せ、アジア太平洋戦争を日米の戦争の枠で、戦った相手の寛容と和解を取り上げるなど、日米同盟賛美につなげています。
また少年法を取り上げ、14歳の責任として刑事責任が問われることを強調し、被害者に対する賠償も一生かけてでも払わなければならない等と少年法に反した半ば脅迫じみた内容になっています。
このような“問題満載”の教科書を採択した教育委員会(教育委員・教育長)の見識が問われます。
◆ 継続的で、粘り強い運動が成果を生む
この夏、各地からの報告を見るにつけ、日頃の取り組みが生きていることを痛感しました。
教科書展示会をとってみると、6月15日から14日間が今年の展示会の法定期間でしたが、これを越えて行われているところが増えています。
また働く地域住民や教職員が閲覧できるよう時間や場所の工夫を求め、さらに広く市民に展示会を知らせることを求めたのが、実っています。
さらに折角の意見を教育委員や委員会会議の傍聴者にも分かり易く開示するところも増えつつあります。
こうした条件を生かし、教科書の内容の精査や学習活動に生かす取り組みも行われています。
共同採択地区は事務局が置かれている市などの意向が大きく、とかく前例踏襲で済ませがちです。
しかし、昨年全ての市町村採択の教育委員会を公開させた滋賀県や、千葉では、採択地区協議会、構成している市などの採択前の共同採択結果の公開、結果の速やかな開示について、文科省の「通知」も活用し、情報開示請求・審査請求などを駆使した取り組みで前進しています。
問題の多い、共同採択の廃止につなげることが全体の課題です。
以上に関する取り組みや活動は今回、前回の事務局通信にも掲載されていますので、参照してください。
◆ 教育委員会議の公開、論議の保障が住民意見の尊重につながる
要請、請願などを通じた「開かれた採択」を求める中で、採択の教育委員会議を公開するところが増えています。
また傍聴人数を大幅に増やさせる、資料を配付させるなどの成果が出ています。
これらの結果、展示会での意見や請願などの市民の意見を意識した議論・採択が増えているとの報告が多く寄せられています。
他方で「委員相互の質疑や議論がなかった」(東京新聞「発言」9月19日)、マスキング(教科書名を隠す)での論議、あるいは秘密会で論議し、当日はセレモニー的発言に終始しているとの指摘もあります。
また教育委員会に答申などが出される教科用図書選定審議会を公開しているのは東京都ぐらいで、まだまだ遅れています。
審議会や教育委員会の公開性・透明性これは今後とも重要な課題です。
「日科」以外にも問題のある教科書がある育鵬社の中学歴史・公民の教科書を採択してきた大阪市などでは「日科」ではなく「廣済堂あかつき」(以後「あかつき」)が採択されている例があります。
「あかつき」は小学校道徳教科書でも子どもに学習活動などについて「自己評価」をさせ、中学道徳教科書でも、生徒に「国を愛する態度」「節度・節制」など22の徳目そのものの理解について5段階で自己評価を求めています。
また「教育出版」は22の徳目と教材を並べて「心かがやき度」を3段階で評価されています。この教科書については松山市、名古屋市などで小学校に続いて採択され、新たに八王子などが採択しています。
◆ 調査・研究させられても採択することができない
今回の採択の教育委員会会議の議論で、教員の意向が紹介され、尊重されたと見られるのはごくわずかです。
個々の教員の意向を反映した学校票が問題にされ、教育委員会の採択権を明確にするようにとの文科省の通知が背景にあります。
幾つかの教育委員会で参考とされた学校の意向も実際に生徒と向き合い授業を行う現場の意向か定かではありません。校長や道徳教育推進教師の意向かも知れません。
実際、松山市では管理職が参加する懇話会の意見であり、「実際に教える教員の意向が反映されにくいやり方が取られている」との指摘も紹介されています(愛媛新聞9月16日)。
見本が学校にあるのは短期間で、展示会へ行って検討するのは、今日の多忙の中では難しい、それでも検討し、意見を出しても前とは違って採択されるか分からない。これが教員から見た実情です。
OECD加盟国で実際に使用する教員が教科書を選べないのは、日本だけではないでしょうか。これが採択制度の根本問題です。
以上は、この夏各地から寄せられた意見、情報をもとに、鈴木が注目した点です。
育鵬社の中学教科書採択でさまざまな動きを見せた日本会議の活動は今回表面化していません。
他方で八木氏らが教授をつとめる麗澤大学と密接な関係を持つモラロジー研究所は、教育委員会の後援で「教育者研究会」を開き、文科大臣張りの「教育勅語」にも使えるところがあるなどとしていることも今後問題にする予定です。このニュースや事務局通信の関連する文章を参照してください。
(すずきとしお)
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 122号』(2018.10)
“問題満載の”「日本教科書」は3地区のみ (教科書ネット)
鈴木敏夫 子どもと教科書全国ネット21事務局長
来年度から実施する中学校道徳科の教科書採択がこの夏にかけて行われました。
8月31日までに採択し、都道府県教委は需要数(生徒の使う教科書数)を9月16日までに文科省に報告することになっています。しかし、石川県などは県としての公表予定はない等と情報公開に背を向けている中、各地から寄せられた報告などで明らかになった教科書採択状況は、上の表の通りです。
公立学校全584採択地区の94.3%の551地区です(10月4日現在)。
これは、採択地区数なので、冊数では多少の変動があります。ただ昨年の小学校道徳教科書の採択を見ると、順番はほぼ一致しています。
小学校の道徳教科書の採択地区数から見ると東京書籍、廣済堂あかつきが占有率で大きく増やし、学研教育みらい(小学校15.6%)と学校図書(同12.9%)が大きく減っています。
地区によっては小学校との継続性などとして同じ社の中学校道徳教科書を採択している所もあります。東京都で54地区中25、大阪府で38地区中15、埼玉県で25地区中9、昨年「教出」が8地区と多かった北海道では23地区中15(内「教出が5」)となっています。
◆ 栃木県大田原市、石川県加賀市・小松市で日本教科書を採択
「愛国心」などを「態度や行動」にできているか、を数値で生徒に自己評価させ、それらを通じて徳目を押し付けようとするなど“問題満載の”「日本教科書」(以後「日科」)は、公立の採択区では扶桑社以来「つくる会」系の教科習を抹択してきた栃木県大田原市と石川県加賀市・小松市の三市にとどまりました。
一県の特別支援での採択、私立学校の採択の可能性もありますが、最終的には公立地区数で0.5%、全体の冊数では7000冊程度の0.2%程度にとどまると思われます。先の三市の共通項は、育鵬社の中学歴史・公民教科書を採択している、首長が教育再生機構首長会議(以後「首長会議」)に参加していることです。
教科書ネットとしては、「首長会議」を通じて、首長の政治介入で「日科」を採択させようとする八木秀次氏らの動きを批判してきました(HP参照:7月17日付け事務局長談話)。
市長が「首長会議」の会長である東大阪市や育鵬社の教科書を採択してきた東京・武蔵村山市などでも様々な取り組みで「日科」は採択させませんでした。
「日科」を採択した小松市教育委員会はHPで主な採択理由として「石川県に関係のある伝統文化や人物を題材とする複数の教材が掲載されている」を挙げています。この手の理由は他の地区の教科書採択でもみられるものですが、内容を吟味することなく「掲載されている」だけで採択するのでいいのでしょうか。
他の理由も「生徒自身の生活や生き方を問うたり、新聞の社説や投書欄を用いたりし、生徒が多面的に考えられるよう工夫されている。写真や絵など、生徒の想像力をかきたてる資料が盛り込まれている」です。
これは他の教科書にも通じる内容で、「日科」の内容全体を軽視しているものです。
「日科」は、生徒の内心に関わる徳目の自己評価を強制しているだけでなく、台湾の植民地支配や政策抜きに灌概工事を指導した人物が今でも地元の人に愛されていると描くことにより植民地支配を正当化する内容にしています。
また題材にかこつけて安倍首相の真珠湾での演説を載せ、アジア太平洋戦争を日米の戦争の枠で、戦った相手の寛容と和解を取り上げるなど、日米同盟賛美につなげています。
また少年法を取り上げ、14歳の責任として刑事責任が問われることを強調し、被害者に対する賠償も一生かけてでも払わなければならない等と少年法に反した半ば脅迫じみた内容になっています。
このような“問題満載”の教科書を採択した教育委員会(教育委員・教育長)の見識が問われます。
◆ 継続的で、粘り強い運動が成果を生む
この夏、各地からの報告を見るにつけ、日頃の取り組みが生きていることを痛感しました。
教科書展示会をとってみると、6月15日から14日間が今年の展示会の法定期間でしたが、これを越えて行われているところが増えています。
また働く地域住民や教職員が閲覧できるよう時間や場所の工夫を求め、さらに広く市民に展示会を知らせることを求めたのが、実っています。
さらに折角の意見を教育委員や委員会会議の傍聴者にも分かり易く開示するところも増えつつあります。
こうした条件を生かし、教科書の内容の精査や学習活動に生かす取り組みも行われています。
共同採択地区は事務局が置かれている市などの意向が大きく、とかく前例踏襲で済ませがちです。
しかし、昨年全ての市町村採択の教育委員会を公開させた滋賀県や、千葉では、採択地区協議会、構成している市などの採択前の共同採択結果の公開、結果の速やかな開示について、文科省の「通知」も活用し、情報開示請求・審査請求などを駆使した取り組みで前進しています。
問題の多い、共同採択の廃止につなげることが全体の課題です。
以上に関する取り組みや活動は今回、前回の事務局通信にも掲載されていますので、参照してください。
◆ 教育委員会議の公開、論議の保障が住民意見の尊重につながる
要請、請願などを通じた「開かれた採択」を求める中で、採択の教育委員会議を公開するところが増えています。
また傍聴人数を大幅に増やさせる、資料を配付させるなどの成果が出ています。
これらの結果、展示会での意見や請願などの市民の意見を意識した議論・採択が増えているとの報告が多く寄せられています。
他方で「委員相互の質疑や議論がなかった」(東京新聞「発言」9月19日)、マスキング(教科書名を隠す)での論議、あるいは秘密会で論議し、当日はセレモニー的発言に終始しているとの指摘もあります。
また教育委員会に答申などが出される教科用図書選定審議会を公開しているのは東京都ぐらいで、まだまだ遅れています。
審議会や教育委員会の公開性・透明性これは今後とも重要な課題です。
「日科」以外にも問題のある教科書がある育鵬社の中学歴史・公民の教科書を採択してきた大阪市などでは「日科」ではなく「廣済堂あかつき」(以後「あかつき」)が採択されている例があります。
「あかつき」は小学校道徳教科書でも子どもに学習活動などについて「自己評価」をさせ、中学道徳教科書でも、生徒に「国を愛する態度」「節度・節制」など22の徳目そのものの理解について5段階で自己評価を求めています。
また「教育出版」は22の徳目と教材を並べて「心かがやき度」を3段階で評価されています。この教科書については松山市、名古屋市などで小学校に続いて採択され、新たに八王子などが採択しています。
◆ 調査・研究させられても採択することができない
今回の採択の教育委員会会議の議論で、教員の意向が紹介され、尊重されたと見られるのはごくわずかです。
個々の教員の意向を反映した学校票が問題にされ、教育委員会の採択権を明確にするようにとの文科省の通知が背景にあります。
幾つかの教育委員会で参考とされた学校の意向も実際に生徒と向き合い授業を行う現場の意向か定かではありません。校長や道徳教育推進教師の意向かも知れません。
実際、松山市では管理職が参加する懇話会の意見であり、「実際に教える教員の意向が反映されにくいやり方が取られている」との指摘も紹介されています(愛媛新聞9月16日)。
見本が学校にあるのは短期間で、展示会へ行って検討するのは、今日の多忙の中では難しい、それでも検討し、意見を出しても前とは違って採択されるか分からない。これが教員から見た実情です。
OECD加盟国で実際に使用する教員が教科書を選べないのは、日本だけではないでしょうか。これが採択制度の根本問題です。
以上は、この夏各地から寄せられた意見、情報をもとに、鈴木が注目した点です。
育鵬社の中学教科書採択でさまざまな動きを見せた日本会議の活動は今回表面化していません。
他方で八木氏らが教授をつとめる麗澤大学と密接な関係を持つモラロジー研究所は、教育委員会の後援で「教育者研究会」を開き、文科大臣張りの「教育勅語」にも使えるところがあるなどとしていることも今後問題にする予定です。このニュースや事務局通信の関連する文章を参照してください。
(すずきとしお)
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 122号』(2018.10)
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