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パワー・トゥ・ザ・ピープル!!アーカイブ

東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

フクシマを風化させようとする巨大な力が働いている

2012年11月09日 | フクシマ原発震災
 ▼ 今福島で起こっていること
  ~人権蹂躙の医療体制の実態

山田 真 小児科医

 ▼ 原発事故を風化させようとする力
 昨年6月以来、ぼくはほぼ1か月に1度のペースで福島市に行っています。主として「子どもたちの健康相談会」を行うためですが、それ以外にも会議があったりマスコミの取材に同行を求められたりして訪れています。
 最初に福島市に行ったのはあの3月11日から3か月ほどしか経っていない頃でしたが、その時でさえあまりに福島市が“平静”で街を歩く人たちが放射能を意識していないように見えるのに驚かされました。当時は東京でもマスクをして歩いている人が多かったのですが、福島市では少なかったのです。
 それと裏腹に福島駅は森閑としていて新幹線のホームには人がほとんどいないという状態でしたから、福島市が放射能汚染地域として他の地域の人たちから敬遠されているということが分かりました。
 しかし今年の8月福島へ行った時、福島駅やその周辺に人が多いのに驚き、もはや福島第1原発事故は福島市でも風化しかかっているのではないかと危機感を覚えました。
 確かに今福島駅周辺の放射能空間線量を測ってみると大幅に下がっていて東京都内の線量の高い地域とあまり変わらない程度になっています。しかし同じ市内でもなお1.5マイクロシーベルトという東京の10倍近い線量を示す場所もあり、福島市が安全になっているわけでは決してありません。
 そういう状況のもと、不安な日々をすごしている人は今も多いのに風化しつつあるように見える福島市、そこには、風化させようとする巨大な力が働いていることを見逃してはいけません。
 大手マスコミによる福島についての報道は小さくなっている昨今ですが(「東京新聞」だけは頑張って報道しています)、時々大きな記事が載ることがあります。
 例えば、8月26日付の「毎日新聞」(東京本社版)にはほぼ1頁を使って「福島・子どもの甲状腺検査」という記事が載りました(東京本社版以外では一部削除された記事が載ったようですが)。ここには今福島県が県下の18歳以下の人全員に行なっている甲状腺検査の問題点についてふれられています。
 検査ではしこりやのう胞が多数見つかっていますが、特にしこりについては今後どのように進行していくのか、変化がないまま推移するのかそれともガン化することもあるのかといったことがわからないので注意深く経過を見ていく必要があります。
 しかし、福島医大は本人に詳しい検査結果を返すこともせず、また、福島医大以外の医療機関での二次検査を控えるよう7つの学会に文書を出すという驚くべきことをしているのです。
 この文書を出したのは福島医大の副学長である山下俊一氏で「笑っている人には放射能は来ない」などという放言で悪評を買っている医者ですが、甲状腺検査や山下俊一といったところにだけ気をとられているともっと大きなものを見逃すとぼくは懸念しています。木だけを見ていないで森全体を見なければならないというぼくの思いを以下に書いておきます。
 ▼ 放射線被害隠しの現実
 3月11日の原発事故に際して原子力ムラの連中は原発安全神話が崩壊したと観念したはずです。
 そこで彼らは原発安全神話のかわりに放射能安全神話を確立することを目ざしたと思われます。彼らにとって幸いだったことに、東海村臨界事故の時のように事故によって高線量を一時に浴びて急性障害でなくなるという人はいませんでした(3月11日当日に行方不明となった東電社員が2人おり、この人たちの死因が何だったのかははっきりしていませんが)。
 このことをいいことにして、彼らは「今回の原発事故で死者は1人も出なかった」と言い、そのついでに「今後も健康障害は一切出ない」と言い切ることにしたのです。
 ここで注意しておきたいのは原子力ムラというものは日本に限局したものではなく国際的原子力ムラというべき巨大なネットワークがあるということです。世界中の核保有国はプルトニウムを得るためになんとしても原発を稼働させ続けねばならず、それには「放射能は危険なものではない」と大衆に信じこませねばなりません。
 そのために医者や物理学者などを動員して「放射能はそもそも日常浴び続けているもの。少量の人工放射能を浴びても健康障害は起らない」と宣伝してきました。これが国際原子力ムラです。山下俊一などはその巨大なムラの末端で“悪評を受けながらも放射能は安全と言い続ける”道化役にすぎません。
 ▼ 国際原子力ムラが隠したい低線量被曝の危険
 国際原子力ムラがなんとしても隠したいのは“低線量被曝の危険性”です。低線量被曝、内部被曝が人体にとって大変危険なものであることは1940年代からわかっていたのですが、低線量被曝の危険を訴える学者を弾圧し、マーシャル諸島の住民の被害などは隠して原子力ムラは切り抜けてきました。
 チェルノブイリの場合さすがに被害を隠しきれず甲状腺ガンについては放射能との因果関係を否定できませんでしたが、そのかわりに甲状腺ガン以外の病気、状況は放射線との因果関係なし、つまり「甲状腺ガン以外は放射能による健康障害は起っていない」と宣伝し続けてきました。
 福島でも甲状腺の検査だけを行って他の検査を肌ようとしていませんが、それは市民に「心配しなくてはいけないのは甲状腺ガンだけ」と思わせるための作戦のように思われます。ぼく個人としては甲状腺ガンよりもむし白血病など血液の病気が先に起ってくるのではないかと心配しているのですが、血液の検査などは一切行われていません。
 原子力産業が立ち上げられて以来、多くの人を犠牲にして放射能の被害隠しが世界的規模で続けられてきましたが、福島では完壁な形で被害隠しがすすめられようとしているのです。
 こうした被害隠しでは放射線の影響を受けやすい妊婦、子どもといった人たちが最も大きな被害を受けますが、原子力産業を維持しようとする人たちはそんなことへの配慮などしません。子どもをはじめとする、あらゆる人の人権を踏みにじった上で「放射能被害はなかった」路線を突き進みます。
 ▼ 山下は「福島を捨てて国を守る」と言う
 もう、つ忘れてならないのは、国や東電は今後放射能による健康被害が起った場合多額の賠償をしなければならなくなることを強く恐れているということです。
 賠償しないですむためにはあらゆる健康障害を放射能との因果関係なしと言い続けなくてはなりません。
 「健康障害は起っていない」と言い、起ったとしても「放射線のせいではない」と言い続けるために国は福島医大にすべてのデータを集約させ、自分たちの都合のいいようにデータを解釈しようとしているのです。
 「毎日新聞」の記事の中で山下俊一氏は「チェルノブイリ事故後ウクライナでは健康被害を巡る訴訟が多発し、訴訟費用が国家予算を圧迫した。そうなると最終的な被害者は国民だ」と言い、自分が国を守ると言っています。福島の人たちは切り捨てて国を守ると広言しているわけです。まことに恐ろしいことではありませんか。
 (やまだまこと)

『子どもと教科書全国ネット21NEWS』86号(2012年10月15日)

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