◆ 大宰府東小と太宰府条例の問題
1.問題の発端
太宰府東小学校は、太宰府市の山を開拓してできた住宅団地の端に位置する。その小学校の敷地から約40m、教室のある校舎から約100m、住宅地から約60mの地点にNTTドコモが土地を買って携帯基地局を建設したのは、2003年である。周辺住民への通告も一切なく、ある日突然建設された。
その後2010年6月にauが、NTT基地局と学校の間にある公園内の、学校敷地から約10m、住宅地から約40mの地点に建設するという計画が持ち上がった。
もとから基地局に不安を覚えていた住民は、auと市に対して計画の撤回を申し入れた。しかしながら、auの予定地が、公園の後ろにある丘の上の環境美化センターに移動しただけで計画は撤回されなかった。
新しい予定地は、小学校敷地および住宅地から約100-120mあたりであった。予定地の所有者である市役所に対して撤回を幾度申し入れても相手にされないために、2010年9月からau局の新設計画撤回、東小横のNTT局の移動。撤去、および説明会等を内容とする条例制定の3つを内容として、小学校保護者と近隣住民で要望署名活動を開始した。署名は、2か月で2500筆が集まった。
au問題は、市が土地貸与をやめたためなくなった。
一方NTTによる電磁波が高いことが判明して、問題はNTTの移動と条例の制定となって行った。
2.請願採択
12月議会に、携帯基地局設置の適正化を求める請願を、公明党市議を紹介議員として提出した。請願内容は採択を優先して以下のようなものとした。
(1)携帯各社に対して以下を指導すること、条例をはじめとする施策を立案・実施すること。
①携帯電話会社が、基地局の設置をする際には、保育所や小中学校からなるべく遠ざけること。
②携帯電話会社は、基地局の設置および改造を行う際、周辺の住民に対する説明会を実施し同意を得る努力をすること。
③教育施設の周辺にすでに設置されている基地局について、基地局の移動や撤去等を含む環境改善に関する要望がある場合には、携帯電話会社は誠実な対応をすること。
(2)小中学校における電磁波の状況に関して、太宰府市が、問題の把握を行い、問題がある場合には改善措置を取ること。
請願は、最終的には17対2の圧倒的多数で採択された。
圧倒的多数で採択された背景は、①市内で携帯基地局に絡んだ住民紛争が頻発しており、少なくない議員が苦労していたこと、
②基地局計画を撤回させた経験を持つ議員がたびたび議会で基地局問題を取り上げてきたこと、
③保護者・住民の中に多様な政治的立場があり保守、公明、社民、共産と幅広いネットワークを組むことができたことなどがあろう。
3.市の立場の変化
太宰府市長は、議会採択後に住民に面会した時には、請願した住民の立場に立つと言った。請願における市の役割は調整的なものであったが、市長は踏み込んで電波の停止実験を申し込むとまで述べた。
ところが2011年4月の市長選挙の後、6月議会の議員質問への回答では、市長は、総務省見解の立場で、政府が安全と言っているのだから市として特別なことはしないというように変わり、7月には請願内容は実施困難という市の立場と条例に代わる指導方針を決めた。
請願を実施困難とする理由は、政府基準より強い基準を考慮できない、周辺住民との合意を義務付けられない、すべての学校周辺500mからすべての基地局を撤去したら市全域がエリア外になるという、請願が述べていない極論をあたかも請願の内容であるように主張して実施困難と結論するものであった。
条例に代わる市の指導方針は、事業者による住民への説明、住民の紛争回避、市役所の調整という各立場の努力義務を簡明に1文ずつのべたものである。
しかし事業者による住民説明の努力規定には、時期と範囲について一切言葉がない。市の議会説明では住民から要望があった場合の説明会ということで、事前ではない。
東小のNTT局のようにいきなり建設される事例や2,3軒にだけ知らせてすませる事例などは、指導方針上問題がないことになる。
4.議員発議の条例と市長の再議
2011年4月の改選後、請願採択を受けて条例制定を目指す市会議員の勉強会がほとんどの会派が入って発足した。そして11月に新城夫妻の講演会を実施し、12月議会に条例案を提出した。条例の目的は、紛争防止である。
内容は、基地局を作る際には、事業者が60日前までに事業計画書を市に提出、40日前までに供用範囲の住民に対して説明会をするというシンプルなものとなっている。事業者はこの手続きを経ればよいだけである。
ちなみに2010年の公明党浜田議員による国会質問に対する政府答弁では、携帯基地局設置にあたっての事業者への指導内容は、
①事業者情報を周知すること、
②要望があった場合住民説明をすることである。
条例は、政府方針の延長にあるものであり、先行する各地での条例や要綱と骨子は基本的に同じある。
この条例は、12月議会で市長側から激しい切り崩しがあったものの、10対7で可決された。
しかし市長は即座に再議を宣言した。
①指導方針で十分、
②条例ができたら太宰府に基地局ができなくなるというのが理由である。
②は、業者による議会用文書そのままである。
事前情報公開と住民説明があると設置しにくくなるというのは業者の本音であろうが、政府方針すら大幅に後退させうるもので、行政の立場としては問題がある。
2011年4月以降市は震災対応による多忙を理由にNTTと住民の協議を設定しなかったが、12月議会提出書類によると市は、忙しいはずのNTTと頻繁に会合を重ねていた。
市と業者との距離感はどうなっているのかと思う。どちらにしろ市長発言だけに影響が危惧される。
再議は、1月30日の特別委員会とその後の本会議に行われる予定で、必要な3分の2を取れる見込みは今のところない。議員たちは、予算等重大案件でないもので再議にかけた市長に非常に憤っており、再議が成立しても再び条例を提出する構えである。市長が再議をかけ続ければ市政は大混乱するであろう。
5,健康被害
この問題に取り組む保護者達が、子どもの状態が互いに似ていることを知り、2011年4月に健康調査に取り組んだ。
東小児童数は約300で、そのうち135名分の調査票が得られた。
調査票の作成と分析の際には医師と専門家のアドバイスを受けた。電磁波強度が非常に強くなるほど症状が出ていた。
電磁波密度は簡易計測器で1階360、2階1100、3階2000(振り切れ)であった(単位は.μW/m2)。
特に3階の4年生と5年生で症状が多発していた。これは成長段階によるものと言われそうである。
しかし症状の多くは、電磁波が弱い1階に降りた6年生では改善していた。
そして自宅が基地局から300m以上、100-300m、100m以内で、症状の発生率が顕著に増加していた。
つまり電磁波強度が子どもの健康不良に影響していることが強く疑われた。
また調査では携帯電話や無線ゲームの頻度も聞いたが、いくつかの症状ではこれらも関係していた。
ここからも高周波電磁波は健康不良に関係すると言えそうである。
子どもの症状は、多岐にわたる。イライラ、頭痛、無気力、皮膚炎、筋肉痛、口内炎、めまい、難聴・耳鳴り、胸痛・動悸など。他の事例で多い鼻血については、入学したら出るようになったなどの個別の訴えはあったが、統計的にははっきりしなかった。
子どもが、学校に行くと頭が痛い、耳鳴りがすると言っている。口内炎がしつこく出るようになった。いろんな訴えが保護者を通して寄せられた。これらは健康被害であり公害である。
しかし市は、総務省見解があるから安全であり健康問題は存在しないという立場である。
会社にしろ役所にしろ子どもを守ることを放棄したら日本はおしまいだと思う。
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この記事は、中継塔問題を考える九州ネットワーク「九州/中継塔裁判ニュース第37号」から、許可をいただいて転載いたしました。
なお、福岡県大宰府市の条例案を提案した太宰府市議の門田直樹さんがウェブサイトで情報発信されています。
http://www.f-icq.com/kadota/
『電磁波研会報』(2012/3/18 75号)
『メディア黒書』から
昨年の12月15日に、携帯基地局を設置する際に住民説明会を開催することなどを電話会社に義務付けた条例が可決されたにもかかわらず、井上保廣市長が拒否権を発動して、継続審議に逆戻りさせたのだ。
最初の裁決では、賛成10、反対7だった。再可決には、3分の2の賛成が必要となるので、現在の段階では条例制定は難しい状況になっている。
http://www.kokusyo.jp/blog/665
笠利毅
(携帯電磁波から市民と子どもの健康を守る太宰府市民の会代表・
前太宰府東小学校PTA会長)
(携帯電磁波から市民と子どもの健康を守る太宰府市民の会代表・
前太宰府東小学校PTA会長)
1.問題の発端
太宰府東小学校は、太宰府市の山を開拓してできた住宅団地の端に位置する。その小学校の敷地から約40m、教室のある校舎から約100m、住宅地から約60mの地点にNTTドコモが土地を買って携帯基地局を建設したのは、2003年である。周辺住民への通告も一切なく、ある日突然建設された。
その後2010年6月にauが、NTT基地局と学校の間にある公園内の、学校敷地から約10m、住宅地から約40mの地点に建設するという計画が持ち上がった。
もとから基地局に不安を覚えていた住民は、auと市に対して計画の撤回を申し入れた。しかしながら、auの予定地が、公園の後ろにある丘の上の環境美化センターに移動しただけで計画は撤回されなかった。
新しい予定地は、小学校敷地および住宅地から約100-120mあたりであった。予定地の所有者である市役所に対して撤回を幾度申し入れても相手にされないために、2010年9月からau局の新設計画撤回、東小横のNTT局の移動。撤去、および説明会等を内容とする条例制定の3つを内容として、小学校保護者と近隣住民で要望署名活動を開始した。署名は、2か月で2500筆が集まった。
au問題は、市が土地貸与をやめたためなくなった。
一方NTTによる電磁波が高いことが判明して、問題はNTTの移動と条例の制定となって行った。
2.請願採択
12月議会に、携帯基地局設置の適正化を求める請願を、公明党市議を紹介議員として提出した。請願内容は採択を優先して以下のようなものとした。
(1)携帯各社に対して以下を指導すること、条例をはじめとする施策を立案・実施すること。
①携帯電話会社が、基地局の設置をする際には、保育所や小中学校からなるべく遠ざけること。
②携帯電話会社は、基地局の設置および改造を行う際、周辺の住民に対する説明会を実施し同意を得る努力をすること。
③教育施設の周辺にすでに設置されている基地局について、基地局の移動や撤去等を含む環境改善に関する要望がある場合には、携帯電話会社は誠実な対応をすること。
(2)小中学校における電磁波の状況に関して、太宰府市が、問題の把握を行い、問題がある場合には改善措置を取ること。
請願は、最終的には17対2の圧倒的多数で採択された。
圧倒的多数で採択された背景は、①市内で携帯基地局に絡んだ住民紛争が頻発しており、少なくない議員が苦労していたこと、
②基地局計画を撤回させた経験を持つ議員がたびたび議会で基地局問題を取り上げてきたこと、
③保護者・住民の中に多様な政治的立場があり保守、公明、社民、共産と幅広いネットワークを組むことができたことなどがあろう。
3.市の立場の変化
太宰府市長は、議会採択後に住民に面会した時には、請願した住民の立場に立つと言った。請願における市の役割は調整的なものであったが、市長は踏み込んで電波の停止実験を申し込むとまで述べた。
ところが2011年4月の市長選挙の後、6月議会の議員質問への回答では、市長は、総務省見解の立場で、政府が安全と言っているのだから市として特別なことはしないというように変わり、7月には請願内容は実施困難という市の立場と条例に代わる指導方針を決めた。
請願を実施困難とする理由は、政府基準より強い基準を考慮できない、周辺住民との合意を義務付けられない、すべての学校周辺500mからすべての基地局を撤去したら市全域がエリア外になるという、請願が述べていない極論をあたかも請願の内容であるように主張して実施困難と結論するものであった。
条例に代わる市の指導方針は、事業者による住民への説明、住民の紛争回避、市役所の調整という各立場の努力義務を簡明に1文ずつのべたものである。
しかし事業者による住民説明の努力規定には、時期と範囲について一切言葉がない。市の議会説明では住民から要望があった場合の説明会ということで、事前ではない。
東小のNTT局のようにいきなり建設される事例や2,3軒にだけ知らせてすませる事例などは、指導方針上問題がないことになる。
4.議員発議の条例と市長の再議
2011年4月の改選後、請願採択を受けて条例制定を目指す市会議員の勉強会がほとんどの会派が入って発足した。そして11月に新城夫妻の講演会を実施し、12月議会に条例案を提出した。条例の目的は、紛争防止である。
内容は、基地局を作る際には、事業者が60日前までに事業計画書を市に提出、40日前までに供用範囲の住民に対して説明会をするというシンプルなものとなっている。事業者はこの手続きを経ればよいだけである。
ちなみに2010年の公明党浜田議員による国会質問に対する政府答弁では、携帯基地局設置にあたっての事業者への指導内容は、
①事業者情報を周知すること、
②要望があった場合住民説明をすることである。
条例は、政府方針の延長にあるものであり、先行する各地での条例や要綱と骨子は基本的に同じある。
この条例は、12月議会で市長側から激しい切り崩しがあったものの、10対7で可決された。
しかし市長は即座に再議を宣言した。
①指導方針で十分、
②条例ができたら太宰府に基地局ができなくなるというのが理由である。
②は、業者による議会用文書そのままである。
事前情報公開と住民説明があると設置しにくくなるというのは業者の本音であろうが、政府方針すら大幅に後退させうるもので、行政の立場としては問題がある。
2011年4月以降市は震災対応による多忙を理由にNTTと住民の協議を設定しなかったが、12月議会提出書類によると市は、忙しいはずのNTTと頻繁に会合を重ねていた。
市と業者との距離感はどうなっているのかと思う。どちらにしろ市長発言だけに影響が危惧される。
再議は、1月30日の特別委員会とその後の本会議に行われる予定で、必要な3分の2を取れる見込みは今のところない。議員たちは、予算等重大案件でないもので再議にかけた市長に非常に憤っており、再議が成立しても再び条例を提出する構えである。市長が再議をかけ続ければ市政は大混乱するであろう。
5,健康被害
この問題に取り組む保護者達が、子どもの状態が互いに似ていることを知り、2011年4月に健康調査に取り組んだ。
東小児童数は約300で、そのうち135名分の調査票が得られた。
調査票の作成と分析の際には医師と専門家のアドバイスを受けた。電磁波強度が非常に強くなるほど症状が出ていた。
電磁波密度は簡易計測器で1階360、2階1100、3階2000(振り切れ)であった(単位は.μW/m2)。
特に3階の4年生と5年生で症状が多発していた。これは成長段階によるものと言われそうである。
しかし症状の多くは、電磁波が弱い1階に降りた6年生では改善していた。
そして自宅が基地局から300m以上、100-300m、100m以内で、症状の発生率が顕著に増加していた。
つまり電磁波強度が子どもの健康不良に影響していることが強く疑われた。
また調査では携帯電話や無線ゲームの頻度も聞いたが、いくつかの症状ではこれらも関係していた。
ここからも高周波電磁波は健康不良に関係すると言えそうである。
子どもの症状は、多岐にわたる。イライラ、頭痛、無気力、皮膚炎、筋肉痛、口内炎、めまい、難聴・耳鳴り、胸痛・動悸など。他の事例で多い鼻血については、入学したら出るようになったなどの個別の訴えはあったが、統計的にははっきりしなかった。
子どもが、学校に行くと頭が痛い、耳鳴りがすると言っている。口内炎がしつこく出るようになった。いろんな訴えが保護者を通して寄せられた。これらは健康被害であり公害である。
しかし市は、総務省見解があるから安全であり健康問題は存在しないという立場である。
会社にしろ役所にしろ子どもを守ることを放棄したら日本はおしまいだと思う。
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この記事は、中継塔問題を考える九州ネットワーク「九州/中継塔裁判ニュース第37号」から、許可をいただいて転載いたしました。
なお、福岡県大宰府市の条例案を提案した太宰府市議の門田直樹さんがウェブサイトで情報発信されています。
http://www.f-icq.com/kadota/
『電磁波研会報』(2012/3/18 75号)
『メディア黒書』から
昨年の12月15日に、携帯基地局を設置する際に住民説明会を開催することなどを電話会社に義務付けた条例が可決されたにもかかわらず、井上保廣市長が拒否権を発動して、継続審議に逆戻りさせたのだ。
最初の裁決では、賛成10、反対7だった。再可決には、3分の2の賛成が必要となるので、現在の段階では条例制定は難しい状況になっている。
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