《特集 新成長戦略のでたらめ》
◆ 動き出した外国人労働者受入れ
昨秋の東京五輪の開催決定以降、外国人労働者の受入れ策が相次いでいる。
すなわち、4月4日、東日本大震災の復興と2020年の東京五輪に向けた建設需要に対応するためとして、関係閣僚会議で「建設分野における外国人材の活用に係る緊急措置」が決定された。
また、6月10日、第6次出入国管理政策懇談会・外国人受入れ制度検討分科会が、「技能実習制度の見直しの方向性に関する検討結果(報告)」を法務大臣に報告し、「実習期間の延長、受入れ人数枠の拡大、対象職種の拡大」などを提案した。
そして、6月24日には日本再興戦略(改訂)=新成長戦略が閣議決定され、造船業での緊急措置、国家戦略特区での「外国人家事支援人材、創業人材の受入れ」などを含めて、外国人労働者受入れ策がオーソライズされた。
こうして外国人労働者政策は、いまやアベノミクスの第3の矢=成長戦略の大きな柱となった。
◆ 技能実習制度の拡大
外国人労働者は現在100万人を超え、そのうち技能実習生は16万人程である。2010年には制度改善のため「技能実習」という在留資格が創設され、全面的に労働法が適用されることとなった。
しかし、「国際貢献」の建前と、人手不足の中小零細企業で「極めて安価な労働力」として使われている実態との乖離から、重大な矛盾を抱えていることに何ら変わりはない。
このため、単純労働、低賃金、パスポートの取上げ、賃金からのピンはね、強制貯金、残業手当の不払い、保証金・違約金の定めによる拘束、権利主張する者の強制帰国、セクハラや性的暴行など、多くの人権侵害が集積する制度となっている。
6月10日に提出された分科会報告書では、一定の適正化とともに技能実習の拡大を提案している。
適正化策としては、低賃金労働について「分野や修得状況ごとに賃金水準のより具体的指標を定める」としている。また、受入れ機関の不正行為に対する「罰則の整備、団体名等の公表」を行うとし、送出し機関の適正化のため「二国間協定等の締結」をするとしている。
他方、拡大策として、優良な受入れ機関については「2年程度の実習期間の延長又は再技能実習」を認めるほか、「受入れ人数枠の増加を認める」としている。
受入れ可能な職種も拡大し、「自動車整備業、林業、惣菜製造業、介護等のサービス業、店舗運営管理等」の追加を検討するとしている。
私たちは、技能実習制度を廃止すべきと考えているが、最低限改善すべき点も提案してきた。そのいくつかが今回採り入れられている。しかし、真に適正化策が実行されるのか、注視していきたい。
他方、拡大策は、適正化策と同時進行させるべきではなく、まずは適正化策を実施し、その効果が確認できた後に議論すべきである。
また、「実習期間の延長、人数枠の増加」は「優良な受人れ機関」において実施するとしているが、「優良な」の具体的な要件には触れていない。
もし、技能実習が国際貢献を目指すものならば、そもそも「優良な受入れ機関」においてのみ認める制度とすべきではないか。
「拡大する職種」として例示されたものを見ると、国内での労働力需要の観点から判断されていることは明らかである。
実際、「分科会」では、送出し国側からのヒヤリングは皆無であった。
◆ 建設分野での緊急措置
この緊急措置は、国土交通省が主導してまとめられたものであるが、その内容は「技能実習修了者について、引き続き最大2年以内、『特定活動』で在留し建設業務に従事することを認める」というものである。
また、建設分野の既修了者については、帰国後1年未満の者は最大2年以内、帰国後1年以上の者は最大3年以内の間、再入国して「特定活動」で建設業務に従事することを認める。
国交省は、雇用先の変更を可能とする制度設計を検討している。
政府は、技能実習制度を拡大する形で緊急措置を実施しようとしている。
しかし、健全な形で実施するためには、問題の集積する技能実習とは完全に切り離して制度設計すべきだ。
これまで建設分野の既修了者は約5万人いるが、同分野で働き続けている者は、その3~4割と推定されている。
国交省は、現在、同分野で働いていない者も受け入れようとしているが、とても即戦力とは言えないし危険性も高い。
もともと建設業は、深刻な労働災害が多発する分野である。したがって、少なくとも現場でのコミュニケーションが十分に取れる程度の日本語能力を有する者に限定すべきである。
現在、公共工事設計労務単価は全国全職種平均で1日16、190円であるが、技能実習生(2号)の予定賃金額は月額12万9494円(2012年度)と極めて低い。
即戦力として受け入れる以上、日本人労働者との平等待遇が実現されるべきである。
現在の政府レベルの議論を見ると、包括的な制度設計はなく、労働力不足に応じ産業別・職種別になし崩し的受入れが進むこととなりそうである。
しかし、労働力だけを掠めとれるわけではなく、その生活自体を引き受けなければならない。そのことを視野の外においた発想では、外国人労働者受入れに伴い現実に日本社会に発生する事態に対応できないことは、明白である。
労働を 生活を 社会を変える
『労働情報 891号』(2014.7.15)
◆ 動き出した外国人労働者受入れ
旗手 明(公益社団法人自由人権協会理事)
昨秋の東京五輪の開催決定以降、外国人労働者の受入れ策が相次いでいる。
すなわち、4月4日、東日本大震災の復興と2020年の東京五輪に向けた建設需要に対応するためとして、関係閣僚会議で「建設分野における外国人材の活用に係る緊急措置」が決定された。
また、6月10日、第6次出入国管理政策懇談会・外国人受入れ制度検討分科会が、「技能実習制度の見直しの方向性に関する検討結果(報告)」を法務大臣に報告し、「実習期間の延長、受入れ人数枠の拡大、対象職種の拡大」などを提案した。
そして、6月24日には日本再興戦略(改訂)=新成長戦略が閣議決定され、造船業での緊急措置、国家戦略特区での「外国人家事支援人材、創業人材の受入れ」などを含めて、外国人労働者受入れ策がオーソライズされた。
こうして外国人労働者政策は、いまやアベノミクスの第3の矢=成長戦略の大きな柱となった。
◆ 技能実習制度の拡大
外国人労働者は現在100万人を超え、そのうち技能実習生は16万人程である。2010年には制度改善のため「技能実習」という在留資格が創設され、全面的に労働法が適用されることとなった。
しかし、「国際貢献」の建前と、人手不足の中小零細企業で「極めて安価な労働力」として使われている実態との乖離から、重大な矛盾を抱えていることに何ら変わりはない。
このため、単純労働、低賃金、パスポートの取上げ、賃金からのピンはね、強制貯金、残業手当の不払い、保証金・違約金の定めによる拘束、権利主張する者の強制帰国、セクハラや性的暴行など、多くの人権侵害が集積する制度となっている。
6月10日に提出された分科会報告書では、一定の適正化とともに技能実習の拡大を提案している。
適正化策としては、低賃金労働について「分野や修得状況ごとに賃金水準のより具体的指標を定める」としている。また、受入れ機関の不正行為に対する「罰則の整備、団体名等の公表」を行うとし、送出し機関の適正化のため「二国間協定等の締結」をするとしている。
他方、拡大策として、優良な受入れ機関については「2年程度の実習期間の延長又は再技能実習」を認めるほか、「受入れ人数枠の増加を認める」としている。
受入れ可能な職種も拡大し、「自動車整備業、林業、惣菜製造業、介護等のサービス業、店舗運営管理等」の追加を検討するとしている。
私たちは、技能実習制度を廃止すべきと考えているが、最低限改善すべき点も提案してきた。そのいくつかが今回採り入れられている。しかし、真に適正化策が実行されるのか、注視していきたい。
他方、拡大策は、適正化策と同時進行させるべきではなく、まずは適正化策を実施し、その効果が確認できた後に議論すべきである。
また、「実習期間の延長、人数枠の増加」は「優良な受人れ機関」において実施するとしているが、「優良な」の具体的な要件には触れていない。
もし、技能実習が国際貢献を目指すものならば、そもそも「優良な受入れ機関」においてのみ認める制度とすべきではないか。
「拡大する職種」として例示されたものを見ると、国内での労働力需要の観点から判断されていることは明らかである。
実際、「分科会」では、送出し国側からのヒヤリングは皆無であった。
◆ 建設分野での緊急措置
この緊急措置は、国土交通省が主導してまとめられたものであるが、その内容は「技能実習修了者について、引き続き最大2年以内、『特定活動』で在留し建設業務に従事することを認める」というものである。
また、建設分野の既修了者については、帰国後1年未満の者は最大2年以内、帰国後1年以上の者は最大3年以内の間、再入国して「特定活動」で建設業務に従事することを認める。
国交省は、雇用先の変更を可能とする制度設計を検討している。
政府は、技能実習制度を拡大する形で緊急措置を実施しようとしている。
しかし、健全な形で実施するためには、問題の集積する技能実習とは完全に切り離して制度設計すべきだ。
これまで建設分野の既修了者は約5万人いるが、同分野で働き続けている者は、その3~4割と推定されている。
国交省は、現在、同分野で働いていない者も受け入れようとしているが、とても即戦力とは言えないし危険性も高い。
もともと建設業は、深刻な労働災害が多発する分野である。したがって、少なくとも現場でのコミュニケーションが十分に取れる程度の日本語能力を有する者に限定すべきである。
現在、公共工事設計労務単価は全国全職種平均で1日16、190円であるが、技能実習生(2号)の予定賃金額は月額12万9494円(2012年度)と極めて低い。
即戦力として受け入れる以上、日本人労働者との平等待遇が実現されるべきである。
現在の政府レベルの議論を見ると、包括的な制度設計はなく、労働力不足に応じ産業別・職種別になし崩し的受入れが進むこととなりそうである。
しかし、労働力だけを掠めとれるわけではなく、その生活自体を引き受けなければならない。そのことを視野の外においた発想では、外国人労働者受入れに伴い現実に日本社会に発生する事態に対応できないことは、明白である。
労働を 生活を 社会を変える
『労働情報 891号』(2014.7.15)
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