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暑い夏の日、1K築45年のカビ臭いアパートで、
汗だくの僕は、ランニング姿で横たわる。
全開の窓からは、隣町の大きな工場の煙突が見える。
先日、近所で拾った金魚鉢の中には真っ赤な金魚が一匹。
金魚鉢越しに見える煙突がユラユラと踊る。
汗が流れ落ち、僕は暫しギュッと目を閉じる。
錆びた物干し竿。
前の住人が忘れていった江戸風鈴の安い音が響く。
僕はこれといって何も感じない。
ただ、全ての気力を失ってそこに横たわっているだけ。
だから、目を開けばもうすっかり夕焼け空だったとしても
一向に構いはしない。
カン!カン!と階段を登る。
汗で崩れた厚化粧がドアを開く。
買物袋から取り出した何かを冷蔵庫にしまうと、
厚化粧は狂ったように僕を罵る。
至極当然の罵声に無抵抗の僕は、ただ黙って受け入れる。
キラキラのカバンで叩き落された煙草を片付けて、
僕は部屋を出る。
そうすれば両足は勝手に、
行きつけの居酒屋へと僕を連れて行く。
僕はただ、財布の中の小銭を数えていればいいんだ。
ビールと冷奴。
いつもの顔達の会話をなんとなく聞いていれば、
厚化粧は化粧を直し、また仕事に出かける。
夜風が涼しく心地良い。
街灯に群がる虫を、何度か立ち止まって眺めながら
僕はあの部屋に帰る。
台所の小さな灯りをつければ、
小さなテーブルには冷奴。
またあした。