風の生まれる場所

海藍のような言ノ葉の世界

空や雲や海や星や月や風との語らいを
言葉へ置き換えていけたら・・・

優しい嘘

2009年11月17日 00時39分54秒 | エッセイ、随筆、小説




元気そうで安心した、と言われた。
うん、もう大丈夫、90%の完治ってところかしら、と私。
なぜ、嘘をつくのだろう・・・・・と思う。
無理に元気を装っているわけではないけれど、元気な姿だけを見せようとするもうひとりの自分がいる。

もしも、もっと早く出会っていたならば、おそらく違う道、
たとえば僕たちは結婚していたと思うと複雑な心境になるんだよ、と告白をされた。
そうね、とそっけない返事をして、車窓から広がる東京の景色をみながら、
男に甘える術を知らない自分の情けなさを突きつけられた気分になったので、
当分、アメリカにでも留学をするつもりでいるから連絡は取れなくなるわ、と男との距離を置いた。

沈黙が続く。
題名は忘れたが、なんとかというジャズのスタンダードが流れる。

こうやってさらりと、いとも当然のように、男から逃げてきた過去の自分がいる。
振られたふりをしながら身を引く術は人一倍長けているというのに、
なぜか甘える行為がうまくできずにいるために、男に一歩踏み込まれそうになると一線を置く。
笑いながら、友人としての縁しかないのよ、などと言ってその場をしのぐ。

私と会うと複雑な心境になると言うなら、胸の内を明かさないことこそが大人ね、と言うと、
こればっかりは好きになってしまったのだから仕方ない、と切り替えされた。
車が湾岸線から東京タワーを目前にするカーブにさし掛かった瞬間、
私は好きよ、こればっかりは仕方ないことだと思うことにするわ、と告げた。

障害を抱えている以上、体調が悪化した場合はふりだしに戻ることを条件に。
愛しい視線で私をみつめる男、それでもなにもなかったように振舞う私。
本音を言わないのが決していいとは思っていない。
たぶん、男へ・・・よりも、自分が傷つかないように、今から準備をしているのかとも思う。