風の生まれる場所

海藍のような言ノ葉の世界

空や雲や海や星や月や風との語らいを
言葉へ置き換えていけたら・・・

混血の首都、キューバ

2008年04月02日 20時36分06秒 | エッセイ、随筆、小説

 

 

 

混血の首都、キューバでの待ち合わせ、

「獲得された嗜好」という言葉があるようで、

はじめは奇怪でなじめないものでも、すこしずつ馴染んで、

それがいつしか大好きになる・・・という意味を持っている(そうです)。

出発の日、荷物が多かっただろうか、それとも少なかっただろうかとくり返し、

たぶん、数枚の、気に入ったTシャツを着回すわ、ときっと女は答えるでしょう。

そんな心配はあなたらしくて、けれど、いつまでたっても心配が尽きないのね、と

そう言いながら髪に指を通したり、それを細い指先でくるくると巻きつけたり、

カフェのテーブルに肘をつく女の姿がここにないのは―

待ち合わせはキューバの首都ハバナだからだ。

はて、煙草は吸えただろうか?

それとも土産に、気が合う仲間でもできたら、ラテン音楽に体を揺らしながら

そっと、さりげなく、日本の煙草を差し出せば粋な振る舞いになる。

 



ふと思い出す。

キューバに誘われた理由を。

混沌とする世界がどこへ向かっていようとも、

そんなものはおかまいなしに、酒を浴び、同じ毎日のくりかえし、

陽が昇れば目覚め、飯を腹にため、仲間たちと語らい、ときどき仕事をして寝る。

それでなにが不満だ?と彼らは私たちの方がクレイジーだと必ず言うだろう。

この世の不幸などどこにあるのだと贈り物のような言葉を、笑顔を、

旅人に向ける褐色の美しい肌の持ち主たち。

ムラトとは白人と黒人のミックスの呼称だが、

目前の初老男性の目は青い。が、肌はキューバ色で、

私たちよりもだいぶウェーブがきついものの髪は黒だ。

男性は言う。

おまえの国籍がどこであろうと、そんなものは関係ない。

俺たちはすでに仲間だ、と。


私たちは風で、頭上にあるつむじも、指先の指紋も、ぐるぐると渦を巻いて

それが風の生まれる場所であることを知っている人はまだ少ない。

風と風は出会うために生まれて、風に乗って流れて、風の国にやってくる。

そこがキューバだ。

 

 


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