風の生まれる場所

海藍のような言ノ葉の世界

空や雲や海や星や月や風との語らいを
言葉へ置き換えていけたら・・・

クランベリー色の口紅とニューヨークE42

2008年06月30日 22時30分28秒 | エッセイ、随筆、小説




パラマウントタワーの上階に住む日本人女性の紹介で、
私はアパートメントを借りた。
普通は・・・と前置きされた上で、
「ニューヨークは家賃が高いからルームシェアするのが普通なのよ」と
しゃがれた声がラウンジに響く。

指定されたラウンジは時間がはやかったこともあってか、人気はまばらで、
ヤッピーといわれる人種もいなければ、
朝まで遊ぶつもりだろうとひと目でわかる若者の姿もなければ、
私とその女性の、いわば貸切状態がしばらく続いた。
部屋の鍵の受け渡しだけが用事らしいものだったので、特に共通の話題もなく、
クランベリージュースをストローの中で行き来させ、時間が過ぎるのを待った。

その夜はアメリカ人の友人とニューヨークの街をバイクで走った。
でこぼこの道路は乗り心地が悪いだけではなくて、
ブラックホールのような穴があちこちに口をあけたままになって工事されていず、
スピードを出す勇気が失せた私は友人に「夜景を楽しみたいから、ゆっくり走りたい」と伝えた。
それは本当だったし、それは嘘でもあった。

真夜中、私は借りた部屋の鍵穴にキーを差し込んだ。
甲高いがゃちゃがちゃという音が妙にニューヨークの夜には似合い過ぎていて、
重厚な扉の向こうに広がる世界が、どれほど美しいのかなど
そのときは想像すら馳せる前に、眠気に襲われてしまい、
電気もつけずにソファーに流れ込んで眠った。

それは翌朝のことだった。
窓外に広がる光景に心を奪われたのは。
クランベリージュースを飲みすぎたせいか、唇が口紅をつけたように濃いピンク色に染まり、
窓に映る自分の姿の先にはイエローキャブの黄色の列や高層ビル群がそびえ建つ。

あれからもう10年になる。
恐怖心が先走ってしまい、ニューヨークを避けるようになって7年の歳月が流れた。






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