映画を観に行きたい、と伝えた。
父親に甘えるまるで子供のように。
彼はすぐさま私が観たいという映画を調べ、劇場のいくつかを探し、5つの時間帯を提示し、
どこで、何時に観る?とさりげなくわがままに付き合おうとしている。
最近、毎日のように声を聴いているせいか、まゆみの擦れた声が心地よくなってきて困る、と言った。
私は笑った。
大声ではなく、うふふっと、小さく息だけを漏らすように笑った。
決して、私も・・・とは言わなかった。
それでも、携帯で彼の名前が表示されると、もしもしと優しい響きの声を聴くと
どんな嫌なことでも一瞬にして忘れられる自分がいますよ、とは簡単に白状した。
一緒に観ることになった映画は上記タイトルのものだ。
子供の頃に母親を交通事故で亡くし、その後、彼が成長した後、
時空を旅する能力が突然に備わって、母親の交通事故を食い止めようと試みるものの、
結局はできないのだが・・・・・・
と、確か、こんなニュアンスの内容だったと思う。
失くしたものを取り戻せないかわりに、新たな出会いによって人は癒される。
どこか私が歩んできた出来事に似ていて、たぶん、涙が止まらないだろうと心配なのだ。
まさか彼と陸で会うとは思いもしなかった。
海上か、船上のみで、スポーツ系の服装で会うものばかりだと思っていたら、
そんな予想は大昔のもので、再会した今は違った展開を迎えている。
手をつなごう。
恋人みたいに、初めてのデートで緊張しなが手を握るように。
もしどうしたの?とでも聞かれたら、
いつこうしてまたデートが出来るかわからない体調だからと言えば、
彼の、次に出てくる言葉は唇の奥に仕舞われるはずだ。
あなたが私をみつけた日。
そして、あなたが私を抱きしめた日。