rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

書評 誰も書かなかった世界経済の真実

2012-10-18 01:09:23 | 書評

書評 誰も書かなかった世界経済の真実 浜 矩子 著 アスコム2012年刊

 

揚羽蝶の様な風貌と男らしいだみ声に圧倒されてしまい、テレビで経済解説をされていても言っている内容がちっとも頭に入ってこない浜先生だったのですが、何か良い事を言っているようだと以前から気になっていました。そんな浜先生が2時間で今がわかるシリーズの経済本を出されたので手に取って読んでみた所、数ページ流し読みしただけで非常に面白い。思わず購入してじっくり読んでみました。

 

氏は同志社大学の経済学教授をしておられますが、元々一橋大を出て三菱総研のロンドン駐在員など実戦の現場で活躍しておられて通貨や貿易の実務を肌で経験してきただけに書いている内容が理解しやすくまた現実に即していると思いました。本書の主題は「現在のグローバリズムは本来の自由貿易のあるべき姿から乖離しつつあり、戦前のブロック経済の反省から出発したGATTやWTOの理念から外れ、再び世界を排外的なグループに切り分ける不自由な世界に戻りつつあるのではないか」という警鐘を鳴らす事にあります。経済の自由化を目指したWTOの基本理念は「自由・無差別・互恵」の三大原則にあると言います。しかし世界は各国毎の個別FTAやEPAを進める傾向にあり、その最たる物が「野田民主政権が進めるTPP」であると主張します。個別のFTAというのは締結国以外を差別化するものであり、TPPに至ってはアメリカだけが利益を得る一方的な経済協定であって「無差別・互恵」の対極に位置するものだと喝破します。私も全くそのとおりと思います。浜先生見た目に惑わされていましたが素晴らしい経済学者です。

 

手前味噌ですが、私もグローバリズムの行き着く先はグローバル企業に都合の良いブロック経済圏の形成ではないか(http://blog.goo.ne.jp/rakitarou/e/3fcf7008a0990ea85ab2d2aabc513225)と素人なりに危惧を抱いていましたが、浜先生の主張は「我が意得たり」の内容であり、しかも本来の自由経済のあるべき姿はこんな物ではないという歴史に基づく説明は非常に説得力のあるものでした。

 

氏は現在の偏った自由貿易の姿に至る過程を「歴史を遡る旅」という形で分かりやすく説明してくれます。まず1995年に遡り、世界貿易機関(WTO)の設立から話が始まるのですが、その具体的成果となるドーハラウンドというのが結局参加国の同意が得られずに終わりなき通商交渉として今に至っていて、その一方で個別のFTAが次々と結ばれてしまっている状態を説明します。

WTO設立に至る過程では、その前身であるところの「関税と貿易に関する一般協定」(GATT)の成立過程が戦後の1948年に遡る旅として語られます。第二次大戦後有り余る工業力をアメリカが世界に輸出で生かすために国際貿易憲章(ITO)の設立を計るのですが、自国の議会に否決されてしまい、その代わりにGATTによる関税を低減させて貿易を活性化する協定が世界で結ばれるに至ります。しかしケネディラウンドやウルグアイラウンドを経てもなかなか貿易自由化の実りが得られないことからWTOの構想に至ることが語られます。

 

本書の旅はそもそも何故世界は自由貿易が大事と考えるに至ったか、という命題に答えるために世界がブロック経済と化して第二次大戦に至った1930年代にも旅をします。そこでは大恐慌の元になったアメリカでさえ頑固な保護貿易主義であったりします。そんな中で1934年にアメリカは互恵通商協定法という将来の自由貿易につながる協定を各国と結ぼうとするのですが、当時は帝国主義と植民地経済が中心であって、その考えが広がることなく戦争に進んでゆくことが語られます。

 

氏は「本来自由貿易の目指すものは自由貿易そのものではなく、完全雇用ならびに高度かつ確実に増加する実質所得および有効需要の確保である」、(p85)と説明し、自由貿易はこの最終目標を達成するための手段にすぎないと言います。「基本的に完全雇用目標が貿易自由化目標に優先するもの」であり、「自由貿易は生かすも殺すも当事国達の見識と節度にかかっている」「自由貿易の世界は基本的に性善説が通用する世界でなければならない」というGATT/WTOの基本理念の説明のあたりはTPP礼賛の凡百の御用経済学者達はもう一度一から自由貿易について勉強しなおせと思わせる内容です。

 

本来あるべき自由貿易の姿は「自由・無差別・互恵」であり世界の人々が幸福になるものです。そうであるならば私は自由貿易について全面的に賛成です。いやービジュアルを含めて浜先生のファンになりました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする