2015年8月14日に発表された安倍総理の戦後70年を迎えるにあたっての談話について、それぞれの立場から評価や批判がなされています。しかし総じて好意的な評価が多いのではないかと感じます。私も安倍総理の政治にはTPP推進や安保法案などで同意できない部分が多いのですが、評価できるところは「良い」と評価してゆきたいと思います。
私が感じた所では今回の総理の談話には大きく二つの骨子があると見ます。
1) 第二次大戦で日本人も周辺の国も酷い目に遭った。日本が戦争を起こした事は真に反省しなければならないことであり、第二次大戦の惨禍を二度と繰り返さないために、日本国憲法の精神を遵守し、武力による国際紛争の解決は今後とも行わないし、他国にも認めない(中国を暗に牽制か)。
2) 第二次大戦において「戦勝国を倫理的善」、「枢軸国を倫理的悪」と規定した「戦後秩序=米国による世界覇権」体制は歴代の内閣が承認し継承してきたように、今後も継承してゆく。但し建前は継承するが戦後世代が未来永劫自分達が犯罪者であると謝罪を続けることはもうしない。
ということを述べました。つまり「戦争は倫理的に悪」という理念と「敗戦国は倫理的悪で戦勝国は正義の味方」という理念を別物として分けて扱った訳です。日本は戦争をし、しかも敗戦に終わったので、これらを分けずに「戦争をした日本=全てにおいて悪」という理念のみで戦後通してきました。本当は「戦争をしたこと自体、日本も米国も全て悪でした」と明確に言わなければ憲法の平和主義の精神を述べた事にはならないのですが、国内に向けては「戦争全てが悪」と言いながら対外的には「第二次大戦では連合国が正義で日本が倫理的に悪でした」と言い続け、批判する悪の対象を使い分けてきたのです。本来戦争の勝ち負けで正義が決まる事はありません。朝鮮戦争、第一次大戦、普仏戦争、米西戦争、国内の戊辰戦争でさえ明確にどちらかが倫理的に悪だなどという規定はできないのが歴史です。第二次大戦だけが自国の存立が脅かされた訳でもないのに、米国が欧州と日本の国民を無差別に絨毯爆撃や原爆で虐殺し、覇権を確立したことに対して、これは「自由と民主主義を守るために神に与えられた正義の戦いである」と規定する他、自分達のしたことを正当化できないために「戦後秩序」と銘打った定義付けがされて、しかもそれを否定しようとする勢力を戦後徹底的に弾圧してきたのです。英仏、ロシア中国もその定義が都合が良いので乗っかって来ただけです。今回の安倍談話では、米国による世界覇権を定義づけた「戦後秩序」そのものを否定することは避けて、その建前は今後も継承してゆくと明言することで米国政府にも認められるようにしたのです。
これに対して中韓の両国は華夷秩序(中国を頂点とする上下関係)から、日本が謝罪することで日本を国家として序列的な下位につけることを希望していたから当然不満が出た訳です。中韓は戦勝国ではありませんから、本来戦後秩序とは埒外の国々です(戦勝国は中華民国であり中共は戦後にできた国家、朝鮮に至っては日本の領土が戦勝国によって5分割された後に委任統治で作られた国に過ぎない)。しかし連合国が規定した「戦後秩序」によって「日本国が倫理的な悪」と規定されて政府が謝罪を続けてきたことを見て、「自分達こそ日本の謝罪を受ける真の資格がある国家である」、としてことあるごとに日本に謝罪を要求してきた経緯があります。日本は戦後、近隣諸国との良い関係を築く必要から相手の要求に従ってことあるごとに謝罪を繰り返して来たのがいままでの戦後史でした。だから日本国の政府に公式に謝罪をさせることで国家としての序列が上であることを国民に示して来た中韓の政府にとっては「戦後秩序は認めるけどもう謝罪はしません」と言われる事は自分達が「戦後秩序とは関係ない立場」であることから非常に不満な訳です。こういった明確な状況の解説が諸家のブログなどで展開されていないのは不思議に思うところです。
私は1)と2)を明確に区別して談話を発表した今回の内容は優れたものであると評価します。ただ私が危惧するところは、安倍総理は1)と2)のどちらに話の力点を置きたかったかが不明な所です。談話の中には欧米列強の力によるアジアの植民地支配を日本が戦役で逃れることでアジア諸国に勇気を与えたという部分もあり、取り方によっては「正義の戦争」を礼賛しているようにも見えます。本来、終戦記念日に戦争の惨禍を繰り返さないために出される談話は1)の内容が本筋であるべきです。第二次大戦における米国の立ち位置が「実際は無差別虐殺と非道の塊」であっても「倫理的な善」と規定されて誰も否定できない現状(戦後秩序)を歴代内閣と同様踏襲します、だから次の戦争では米国の側につけば自分達は正義、倫理的善と規定できますね、という本来の平和を望む話とは違う方向に話を持って行こうとしていたならばとんでもないことです。
諸外国や日本の一部の人達が「今回の談話は安倍総理自身が謝罪していないことが問題だ」と批判していることについては、私は「なんてどうでも良い批判をするのだろう」という感想しか持ちません。むしろ「日本は戦後秩序を踏襲して次は正義の戦争をしますよ」と言いかけているように感ずる点こそ私は批判するべきだと感じます。だから私は80点です。