2020年4月に入りましたが、欧米における新型コロナウイルス感染の爆発的な広がりは留まる気配がありません。欧米の患者が指数関数的に増加し、医療崩壊とも言える状況が現れているのに比して、日本や韓国はそのような状況にならず持ちこたえています。しかし欧米の状況が報道されるに連れて日本も早晩欧米の様な感染者の爆発的アウトブレイクが起こると危機感をあおる報道やネット記事が多くなりました。私は、油断するべきではないと思いますが、冷静に今までの日本の状況やここ数日の感染動向を見て日本は爆発的なアウトブレイクはないだろうと考えています。以下に前にも紹介した日々更新されるWikipedia感染の状況を基にしたデータを主に示しながら説明します。
新型コロナ感染に対するHealth careの目標
多くの媒体で示されていますが、外出制限や集団感染を予防する目的は、図の様に1)患者の爆発的な増加を抑え、2)感染のピークを遅らせ、3)ピークをflatに近づける事にあります。以前新型コロナの収束はSARS型か豚インフル型か、で議論しましたが、現状ではSARS型の封じ込めと豚インフル型の集団免疫の中間的な状態(封じ込めればそれに超した事はない)を目指していると言えます。ワクチンや重症化した際の確実な治療法がない現在、その目標になる事は仕方が無い事だと思います。
現状日本はHealth careの目標を達成しつつある
図に各国で最初の感染者が出現してからの感染者数の増加を縦軸を対数目盛りで示します。元の図は爆発的に増加している国を示していて日本は入っていないのでrakitarouが厚労省の資料等見て追記しました。図で解る様に、日本は感染勃発(1月14日)から3ヶ月近く経っても直線的な増加ですが、爆発的な増加を示す国は初めから、あるいはある時点から指数関数的に急激に増加しているのが特徴です。現在自粛ムードの行き届いた日本で感染が確認されている人は感染源不明の場合よりもクラスター関係や帰国者接触者関係が多く、素性が明らかな感染者の方が多い状態です。この状態から爆発的な感染者増加が今後あるとは思えません。
PCR検査数は関係ない
未だにPCR検査が他国に比べて少ないから爆発的感染が起こっているのを隠蔽していると吹聴している人がいるのですが、ごまかす事ができない死亡者についての推移で比較すると、日本は感染初期からずっと2%前後で推移していることが解ります。これは検査を多く行って軽症、不顕性感染を引っ掛けている韓国が日本よりも相対的に死亡率が少ないものの、感染初期からほぼ同等の死亡率で推移していることから見ても、感染陽性者における死亡者の率は日本も韓国もあまり変化していない事が解ります。それは中国(世界)も同じ傾向です。だからPCR検査数でHealth careの目標達成が阻まれているということはありません。しかも無性状のクルーズ船の乗客を多数検査した自衛隊病院の報告ではPCR陰性でも胸部CTで特徴的な間質性肺炎の所見が見られた例が多数あったと報告されていて、PCR検査の感度(多分検体採取手技の際の偽陰性)の問題が明らかになっています。まあ実際に検体採取をしている現場にいればこれらの事は理解できます。現場を知らない、自分では手を動かさない人程PCR検査を強調しています。
感染者数に対する死亡者の数は中位
感染者数に対する死亡者の数各国別プロット 人口100万人あたりの死亡者数(検査数、感染者数に関わらない真の犠牲者数比較と言える)
感染者数に対する死亡者数の各国比率を比較した図を示します。日本のプロットが解りにくいので書き込みましたが、ほぼ世界の平均的な値であることが解ります。死亡者数が多い国はやはり感染者の爆発的増加がある国であると言えそうです。それは人口100万人あたりの死亡者数で各国を色分けした図においても日本が優等生なのは1億2千万の人口を有する日本の感染者数が抑えられている事が原因と言えます。
感染力、毒性はウイルスの型によるか
早期に中国や韓国、日本で流行したのは紫色の型
前回も記した様に、初期に流行したS型の方が欧米で猛威を振るうL型よりもマイルドという報告があります。最近の報告では図の様に地域によってウイルスが変異してゆく亜型が示されて、日本や韓国、中国は欧米とは異なるタイプが多いようだとされています。しかしどの程度亜型によって毒性や感染力が異なるかはまだ明らかではありません。
中国の感染収束は本物?
中国、韓国がある時期から感染者がほぼ横ばいのグラフになっている。
3月に入ってから中国は習近平の指導力と中国人民の努力によって新型コロナ感染症は収束に向かい、国難を克服したと主張する戦略に変わったと言われています。流石に全てが事実に基づいているとは信じ難い所ではありますが、今も爆発的に感染が増加して死亡者がうなぎ上り、という事ではないようにも感じます(これは調べようもないので感じでしかありませんが)。感染者数が100人を超えた日をday0とした各国の感染者数増加曲線を示した図を見ると、中国(信用すると)、韓国がある時期から飽和して横ばいになりつつあるのが解ります。日本は韓国の倍の人口があるので倍加時間10日程度でまだ増加中ですが、中国韓国と同じウイルス亜型で同じ感染力であるとするなら、希望的観測になりますが感染者1-2万名位まで今の増加速度で進み、飽和して横ばいになる可能性があります。爆発的アウトブレイクなしで「感染克服」「Health care目標達成」と言えます。
今後の見通しとしての集団免疫獲得
国民の半数程度が感染して抗体を持つ様になればそれ以上感染が爆発的に広がる事はありません。つまり集団免疫獲得による収束となります。それを調べるには時間的定点における感染の有無を調べるPCR検査ではなく、過去に遡った感染の有無を見る抗体検査が有用になります。既に新型コロナウイルスに対するIgG、IgM抗体の簡易測定キットが発売されており、市町村単位で定点において「全例調査」を行えばその地域でどれくらい皆が抗体を獲得しているかチェックできる状態になっています(勿論国民全員を検査する必要などない)。
今BCGの摂取を受けている国では感染者が少ないのではないか、という提起がされています。ウイルス感染と結核菌という細菌感染に関わる細胞性免疫が直接結びつくエビデンスは現状ないのですが、BCGは一見関係が薄いと思われる癌の治療には良く使われ、膀胱癌の治療で膀胱内にBCGを注入するのは世界的標準治療として私も日々患者さんに行っている治療です。BCG結核菌の抗腫瘍効果は好中球を介したTRAILという因子が関係しているだろうと言われ、私も大学院時代に研究してました。今後ウイルス感染との関係も解明されて何らかの治療や予防と結びつく可能性はあります。ツベルクリン反応を膀胱癌の患者さんによく行うのですが、高齢者には陰性が多く、ツ反の有無がコロナの易感染性や重篤化に関係すれば面白と思います。
治療薬の問題
図にコロナウイルス感染と実験的な治療薬の作用機序を記した模式図を示します。残念ながらこれが確実というものはまだありません。日本で効果が期待される富士フィルムの「アビガン」ですが、一昨日やっと正式に治験開始というのは余りに遅すぎます。この件については医師として政府、厚労省を強く批判します。肺組織が破壊されるサイトカインストームになってからではこれらの薬は効果なく、肺内で増殖過程にある「中等症」の段階で使用しなければ助ける事はできません。確かに効果が十分確認されたとは言えませんが、他に使える治療薬が存在しない現在、臨床的に感染確認が必要と判断されPCR検査で陽性が確認された段階で全国どこの病院でも使用できる体制を整えなければそれこそ「政府の怠慢」「患者見殺し」になります。患者増加速度が緩慢であるとは言え、10日で患者が倍増しつつある事は事実であり、既に一般病院にも中等症の有症状コロナ患者が入院しつつあります。施設を限った「治験」ではなく、治療施設を限らない「全例調査」による使用を直ぐにでも開始するべきです。