rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

映画「記者たち 衝撃と畏怖の真実」感想

2021-11-17 18:23:06 | 映画

映画 「記者たち 衝撃と畏怖の真実」(原題:Shock and awe)2017年米国 

「スタンド・バイ・ミー」の名匠ロブ・ライナーが、イラク戦争の大義名分となった大量破壊兵器の存在に疑問を持ち、真実を追い続けた記者たちの奮闘を描いた実録ドラマ。2002年、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、サダム・フセイン政権を倒壊させるため「大量破壊兵器の保持」を理由にイラク侵攻に踏み切ることを宣言。ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストといった大手新聞をはじめ、アメリカ中の記者たちが大統領の発言どおりに報道を続ける中、地方新聞社を傘下にもつナイト・リッダー社ワシントン支局の記者ジョナサン・ランデーとウォーレン・ストロベルは、大統領の発言に疑念を抱き、真実を報道するべく情報源をたどっていくが……。物語の中心となる記者役に「スリー・ビルボード」のウッディ・ハレルソン、「X-MEN」シリーズのジェームズ・マースデン。そのほかジェシカ・ビール、ミラ・ジョボビッチ、トミー・リー・ジョーンズが共演。予告編(映画紹介記事から)

日本版のポスターと原版のポスター  娯楽映画としてはあまり盛り上がりに欠けるが、職業ジャーナリスト達には厳しい内容

 

あまり期待しないで見たのですが、途中から「おっ!」と思わせる内容が豊富にあり、引き込まれるように見てしまいました。映画の出来としてはMen in blackやCMで有名なトミー・リー・ジョーンズが出ている割に盛り上がりやエンターテインメント性はなく今一つですが、むしろ製作者側が訴えたかったのは随所に出てくる「ジャーナリズムの在り方」や「情報の正しい扱い方」についてだろうと考えると、現在の脱炭素や新型コロナ、ワクチンなどの報道についても全て当てはまる所があり合点がゆく内容でした。

 

911とサダム・フセインは無関係、戦争の口実となった大量破壊兵器はなかった

 

開戦当時、「ビンラディンとフセインはつながっており、イラクが核を含む大量破壊兵器を製造して米国との戦争を画策している」という米国ネオコン政府側がでっち上げた「デマ」を真実として、ニューヨーク・タイムズを含む全ての大手メディアが報道していました。米国民衆も911のショックで復讐心・愛国心が燃え上がっており、「イラクへの復讐」という開戦の口実を支持していました。そんな中で実話として「ナイト・リッダー社」は誤った戦争に導こうとする政府に憤りを持つ「真の愛国者」である政府職員からのリークに基づいて、イラク戦争はでっち上げの口実で「戦争をやりたい人達」によって開戦させられるのだ、という真実を報道し続けて国内で孤立し、身内からも批判されてしまいます。特に、米国がイラクと戦争しても、戦後処理で手間取りかえって多くの犠牲を米国兵士とイラク国民両方に及ぼすだろう、だから開戦は阻止しないといけない、という米国情報部の予測はその通りとなり、2003年3月20日に開戦したイラク戦争は、同年5月にジョージ・W・ブッシュにより「大規模戦闘終結宣言」が出ましたが、問題の大量破壊兵器は見つかりませんでした。しかも戦後イラク国内の治安悪化が問題となり、戦闘は続行され、2010年8月31日にバラク・オバマにより改めて「戦闘終結宣言」と『イラクの自由作戦』の終了が宣言され、2011年12月14日に米軍が撤収するまで戦争は続き、多くの犠牲者がでました。

 

先に決断を下し、それに合った情報を集める

 

映画の中で義憤に駆られてナイトリッダーの記者にリークする米国情報部の人間の言葉です。都合が良い悪いに関わらず多くの情報を集めた上で「合理性に基づいて決断」するのが「情報を扱う基本」であるが、今は政治家が先に決断し、それに合った情報を集めさせられている、しかも怪しい情報ばかりだ、と憤ります。「政治家の過ちは現場の兵士が贖う」とトミー・リー・ジョーンズ演ずる老ジャーナリストが喝破した様に、イラク戦争で5万を超える米国兵士、100万人のイラク市民が犠牲になったとエンドロールで示されます。

「情報」を「科学」や「医学」に置き換えると、現在の気候変動、新型コロナ問題やワクチン騒動も全て「先に政治的決断ありき」で後からそれに合った「科学情報」「医学情報」が集められているという全く同じ構造をしているように思います。トランプ大統領が就任してから2年に渡って追求され続けて結局正式に否定された「ロシア疑惑」もまさに元MI6部員がでっち上げた情報を基に作り上げられたフェイクニュースでした。

 

「社是(オーナーの意向)にあった報道」しかしないメディア

 

映画の中で監督演ずるナイトリッダーの編集長が部下たちに訓示します「我々は政府の広報誌ではない。他人の子を戦場に送る者ではなく、自分の子を送り出す親たちが読者なのだ。真実を報道しろ!」映画の製作者たちがジャーナリスト達に訴えたかったのは、これだと思います。権力者への忖度や自分の地位を守るために「真偽が疑わしい」と思われる報道を平気で行う現在のジャーナリズムの風潮を痛烈に批判しています。NSA/CIAが米国民を監視しているというエドワード・スノーデンの内部告発をスクープ報道したグレン・グリーンウオルドは、2020年自ら設立に関わったThe Intercept社をバイデンを批判した自分の記事をリベラル寄りの編集部から検閲・拒絶された挙句に社を追われる羽目になりました。NY Timesやワシントンポストは日本の多くのメディアはそこに書かれているだけで「信頼できる記事」としてそのまま日本でも報道してしまいますが、実際には反骨精神を持った記者の多くは既に社を追われており、「社是にあった報道」しかしないメディアに成り下がっているのではないでしょうか。この映画は現役ジャーナリスト達への厳しい叱咤と共に、我々情報の受け手の側も、大手で権威あるメディアだからというだけで妄信するのではなく、何が真実なのかを見極めるリテラシーを持つよう注意喚起している様に思いました。

コメント (2)
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