拙ブログでも度々触れた様に、ウクライナ紛争というのは英米中心のNATOとロシアの代理戦争(proxy war)踏み込んで言うと世界巨大資本を中心としたグローバリズム対中露を中心としたBRICSを背景にした多極主義の代理戦争でもあります。ロシア対ウクライナの一国同士の戦争であれば、兵力・資源・資金力が途絶えた時点で終わりです。第二次大戦の日本がよい例です。自国民の若者以外何も持たないウクライナが1年以上ロシアと戦争を続けていられるのは、武器や金の流れを見れば、真の戦争当事者が誰であるかは一目瞭然で「民主主義のためにウクライナに支援を」などというたわごとで金を出しているお目出たい人は日本では知りませんが、世界では少数派です。
ウクライナ紛争では頻繁に欧州委員会委員長のフォン・デア・ライエン氏など、EUの代表者達が公の場に登場して種々の方針を述べます。それは外部にいる日本人にはNATOとEUが混然一体として機能している様に見えてしまいますが、本来NATOとEUは設立の目的や目指す所が異なる組織であり、その意思が一体であることはないのです。以下平凡社新書(1017)村上直久著2022年刊「NATO 冷戦からウクライナ戦争まで」を参考に論を進めます。
1)NATOとEU
(1)同床異夢の組織 北大西洋条約機構(NATO)は1949年にソ連の軍事的脅威から西側諸国を守る集団防衛組織として発足しました。1955年NATOに対抗してワルシャワ条約機構が設立され、いわゆる冷戦構造が確立されましたが、1989年ベルリンの壁崩壊で東欧諸国の民主化革命が進み、1991年ソ連消滅前に同機構も消滅してNATOは一発の銃弾も撃たずに冷戦終結に至りました。NATOはNo Action Talk Onlyなどと揶揄されましたが、その存在意義が終了したにも関わらず存在し続け、しかも民主化した東欧諸国を追加しつつ拡大してゆきます。2000年代にはソ連を継いだロシアがNATOのパートナー国として演習に参加したりする蜜月時代もあったのですが、ウクライナやグルジアのカラー革命を機に対立関係になり、現在に至ります。一方でNATOは戦勝国の英米が欧州を軍事的に支配するという目的を持ち、NATOに共同する反共秘密組織(主に国内向け CIAやMI5MI6フランスのジャンダルム、ドイツ憲法擁護庁)が各国にはあると言われ、欧州政府の政策を英米が支配する構図が影の目的としてあったと言えます。独自の核を持つ仏をはじめ、もともと米英よりも格が高いと考える欧州国民にとっては決して快いものではなく、まずは経済でドル一極体制に対抗する目的でECのちにEUが設立されました。
(2)加盟国の違い EUとNATO両方に加盟しているのは20カ国で、EUのみがフィンランド、スウェーデン(2国は2022年8月にNATO加盟承認すみ)、オーストリア、アイルランド、マルタ、キプロス。逆にNATOのみが米英、カナダ、トルコ、ノルウェー、アイスランドとなっています。トルコは経済的な理由から自国のEU加盟を条件にフィンランドなどのNATO加盟を認めたと言われます。
(3)世界経済フォーラムの関与 EUが欧米のグローバリズム経済の対極となることを嫌う世界経済フォーラム(WEF)陣営は、毎年世界から200名余りの若者をYoung Global Leaders(YGL)に選定して種々の支援を行って国家要職に就かせ、グローバリズムの指示に各国政府が進んで従う体制を作ってきました。当然EU首脳の多くもYGL出身であり、日本も小池百合子、高市早苗、林芳正、小泉進次郎、橋下徹などおなじみの面々がグローバリストの傘下に日本国民を差し出す役割を果たしています。しかし骨のある若者は訴訟を起こしてでもそのような誘いは拒絶するものです。グローバリズムを拒絶する米民主党のトルシー・ギャバード女子も勝手にYGLに選ぶなと怒りを表明しています。
社会を支配するため、各界で力を持つようにWEFは資源と時間をかけて人材を育成している。左上がトュルシー・ギャバード女子 勝手に選ぶなと怒る骨のある若者もいる(日本にはいないと思う)
(4)EU独自の軍事機構の模索 余り知られていませんが、EUが英米からの独立を目的とする以上、安全保障においてもNATOとは異なる機構の設立を目指した時期があります。92年のマーストリヒト条約に基づいて、共通外交安全保障政策(CFSP)が設立され、フランスのシラク大統領と英国のブレア首相が中心となってEU独自の3万人からなる緊急対応部隊設立を目指しました。特に独立志向が強かったのがフランスでしたが、2004年を機にEU独自の治安機構は主に警察治安任務を担い、軍事に関してはNATOを中心に据える方向に定められました。NATOは95年99年にセルビア空爆、2003年融資連合としてアフガニスタン出兵、2011年にリビア空爆など冷戦終了後から熱い戦争に参加して行きます。
2)ウクライナ戦争はEUを無力化する目的も
(1)軍事経済資源を差し出せ 1年以上続くウクライナ戦争にNATO各国は軍事物資、経済支援を限りなく続けて、空軍力を除く陸上の火砲、ミサイル、弾薬などは底を尽きつつある(ウクライナ反転攻勢は弾切れで頓挫、ロシア軍大攻勢で戦争終結へ (msn.com))と言われます。ドイツ経済を支えていたロシアからのノルドストリームパイプラインが米英の手で破壊されたのはシーモア・ハーシュ氏の暴露記事通りです。グローバル経済が行き詰まりつつある中、WEFが画策するグレートリセットを達成するには健全な欧州経済は邪魔です。健全な欧州社会も邪魔なので大量の移民で破壊する必要があります。フランスは移民による暴動で一時内戦状態であった事は記憶に新しい所です。
フランスは一時内戦状態に
(2)戦時経済体制のロシアと資本主義のままの英米 西側諸国は砲弾などを増産体制に変えたと言われますが、戦時体制に移行して24時間全力で無尽蔵に火砲を製造しているロシアにはかないません。米軍もあと2-3か月でミサイルや砲弾が尽きることを認めています。ビリニュスのNATO首脳会議でNATO諸国はウクライナのNATO加盟を「戦争終結後」と規定し、実質加盟を拒否、NATOの参戦も否定しました。イラク戦争で米軍の戦車部隊を率いた退役軍人のダグラス・マクレガー大佐は「NATOには図上演習だけが得意な将軍は山ほどいるが、部隊を率いて実戦で戦える人はいない。しかも多国の軍を統率して作戦を遂行することなど不可能だ。」と断言しています。
NATOは備蓄戦力を使い果たした。 世界銀行の調査では2022年のロシアの経済力は世界5位に上昇して日本に迫っている。
(3)日本のNATO事務局設置延期へ 2023年5月NATOストルテンベルク事務総長はNATOの連絡事務所を東京に開設することを日本政府と協議していると明らかにしました。しかし中国との対立を嫌うフランスの反対によって延期となりました。これ以上他国からの支配体制が増えて日本の自主独立が否定されるのは勘弁願いたいところですが、フランスに助けられた格好です。欧露が手を組んで英米グローバル体制から独立しないよう、NATOによる隣国同士の戦争(divide and rule)が仕掛けられてきました。日中韓が一体となることを防ぐ事も「分割して支配する」戦略には重要な要素です。2012年、日中の経済関係は戦後最大となり、ドルを介在させずに両国の通貨で直接取引をする準備を始めた事への米国の対応が売国奴石原都知事を使った「尖閣国有化宣言」(米国で宣言表明)だったのです。当然反発した中国と日本の関係は以降最悪となりました。石原は「息子伸晃を総理にしてやる」とそそのかされたのでしょうが、石原の死後、伸晃は総理どころか国会議員も落選し、政界から消えています。国家の利益より自分の利益を優先する人間の末路です。
分割して統治せよの良い見本 日中の蜜月をいかに米国が嫌ったかがよくわかる例
NATO東京事務所は仏の反対で開設延期に
3)ウクライナ敗北と必然的な多極化
世界最強の軍と化したロシア軍 ウクライナへの特殊軍事作戦SMOが始まった昨年2月時点では、最新装備とドローンなどのAIを供与されたウクライナ軍は、それらを駆使することで、ロシア機甲部隊に対して大きな被害を与える事ができました。しかし勝てないが負けないと評した様に、ウクライナ軍は統制のとれた戦術でロシア軍と戦闘した訳ではなかったため、ロシアがSMOから本格的な戦争にギアを変えた途端に被害ばかり多くて一切勝てなくなります。今年6月からの反転攻勢と称する攻撃もロシアの第一防御線まで引き入れてから殲滅する戦術を、引き入れられた事を前進と大きく報じてまるで勝った様に西側メディアが報ずるため、ずっと同じ攻め方で数十万人のウクライナ兵が無駄死、戦傷する結果になっています。現在ロシア軍は小型ドローンと衛星情報を駆使し、無人神風爆弾機、巡行ミサイル、誘導爆弾、西側の10倍の砲弾を用いて世界最強の戦闘集団になっています。戦略核を用いて双方を全滅させる戦法以外、NATOも米軍も勝ち目はありません。
第一防衛線まで引き込んでから殲滅する戦法がずっと有効なのはなぜか?
広島のG7サミットでゼレンスキーが停戦を懇願すれば、ミンスク合意の再来も可能であったかもしれませんが、JBPressの記事でも触れられている様に、今となっては図のような縮小ウクライナが残り、そこも西側資本の草刈り場となる運命になる事が予想されます。ウクライナの人たちが本当に気の毒です。
ミンスク合意的な解決もやり方によっては可能であったかも。 ウクライナにとって最悪の終結(メドベージェフ氏はロシア・ポーランドによるウクライナ分割をデュダ大統領に提案している)