マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

『マリリン・モンロー 瞳の中の秘密』

2013年09月27日 | 映画

 

 

福祉センターで映画の講座を持っている私は、「昭和のシネマを飾った女優」というテーマで、マリリン・モンローとオードリー・ヘップバーンについて講義した。

この伝説的な二大女優こそ、まさに、昭和のシネマを飾った女優にふさわしいからである。

「マリリン・モンローとオードリー・ヘップバーンのどちらがお好き?」と、生徒さんに質問すると、女性たちは声をそろえてオードリー・ヘップバーンと答える。一方、マリリン・モンローと答えるのはほとんどが男性であった。

ヘップバーンは女に愛され、モンローは男に愛される。ヘップバーンの純真無垢な美しさとかわいらしさに女性の憧れ、肉感的なセックスシンボルのモンローに男は興奮するのだ。

さて、女の私はどちらが好きかと言えば、実はマリリン・モンローなのだ。

もちろん、ヘップバーンの可憐さや美しさはこの世のものとは思えない。しかし、ヘップバーンには、なぜか、日常の香りがしてこないのだ。言葉を変えれば、人間臭さがないのだ。

一方のモンローは女優と言う前に、一人の女であるという生臭い人間臭さに満ち溢れている。女優モンローの存在は、そのまま、一人の女モンローと一致する。仕事と日常がゴッチャになって生きたモンローが、無性に愛しいのだ。

そういった観点から作られたのが『マリリン・モンロー 瞳の中の秘密』である。

死後50年を経て公開されたモンロー直筆のメモや日記をもとに、ユマ・サーマン、グレン・グローズ、マリサ・トメイなどのひと癖もふた癖もある女優たちが、モンローの日記を朗読する。

1962年、36歳の若さで突然亡くなったモンローの死には、時空を超えた現代でも、疑問や不審点に満ち溢れている。

ヘップバーンが社会貢献をして、美しい死で人生の幕を閉じたにも関わらず、相変わらずモンローはスキャンダルの女王として君臨している。

モンローの人生そのものが、まるで作り物の映画ではなかったのではないか、という余韻さえ残している。

華奢で繊細なモンローが悲痛に語る肉声を聞いた時、私はスクリーンの中に飛び込み、モンローを強く抱きしめてあげたくなった。

モンローが好きな女たちは男っぽいということなのか。

10月5日から公開

【監督】リズ・ガルバス

【出演】マリリン・モンロー  グレン・グローズ  ユマ・サーマン マリサ・トメイ

 

 


『許されざる者』

2013年09月04日 | 映画

『許されざる者』

熟年世代の誰もが、このタイトルで思い出すのが、クリント・イーストウッド監督主演の『許されざる者』(1992)『Unforgiven』だろう。

日本でそれをリメイクする?いったいどんな話になるのだろうか?イーストウッド監督はアメリカ西部劇の極意を描いた。日本では、どの時代を舞台にして、どんな人間を主役にするのだろうか?

あまりにも崇高な作品のリメイクは危険な企みである。例を上げるなら、「華麗なる賭け」「太陽がいっぱい」という名作をリメイクしたが、悲しいかなオリジナルを超えることができなかった。『華麗なる賭け』では、スティーブ・マックイーンに勝る俳優はいない。そして、『太陽がいっぱい』では、誰がアラン・ドロンを抜くことができようか!

そのくらい『許されざる者』では、クリント・イーストウッド、モーガン・フリーマン、ジーン・ハックマンの存在感が強い。

しかし。

さすがに、世界のケン・ワタナベ。見事にクリント・イーストウッドを演じてくれました。悪役保安官になったジーン・ハックマンを佐藤浩市が見事に演じてくれました。イーストウッドの竹馬の友モーガン・フリーマンを柄本明が見事に演じてくれました。

時代設定が明治維新の北海道というのも違和感がなく、維新の影に隠れたアイヌ問題にメスを入れ、女郎たちの運命の悲しさを鮮明に描き、私は、アメリカ版よりも優れているのではないかと思った。

『フラガール』『悪人』という名作を撮った李相日監督。39歳という若さで、イーストウッド監督の哲学を見事に踏襲し、李相日版オリジナルの斬新な『許されざる者』を作り上げてくれた。

9月13日から公開

【監督】李相日

【出演】渡辺 謙  佐藤浩市 柄本明 柳楽優弥 小池栄子

 


『ペーパーボーイ 真夏の引力』

2013年07月21日 | 映画

 

 

私は何事に対しても徹底的にやる人間が大好きだ。

仕事でも遊びでも趣味でも徹底的にやるということは、人生を徹底的に必要十分に妥協を許さず生きている証だと思っている。

今回の『ペーパーボーイ 真夏の引力』の出演者である、ザック・エフロン、ニコール・キッドマン、マシュー・マコノヒー、ジョン・キューザックがまさにそれである。

この4人の俳優陣が恥も外聞もなく、徹底的に役になりきった稀有な作品だと、感心していた。

1969年のフロリダが舞台。人生に挫折した主人公ザック・エフロンは父親が経営する地元の小さな新聞社で新聞配達をしている。

まずは、地元の小さな新聞社が舞台になっている点も目新しかった。

そこに、大手新聞社に勤める兄が帰省し、4年前の殺人事件を再調査するために留まる。

ここから、一気にストーリーはシュールで残虐で、ある意味では「エグイ!」展開になるのだ。

事件にかかわる謎の女、ニコール・キッドマンと殺人犯、ジョン・キューザックが登場すると、この作品は「エグイ!」からさらに躍進して、「エログロ+残虐」いわば、「エロス+虐殺」の世界に更新するのだ。

このあたりが、実に徹底的で、徹底的な人が大好きな私はため息がでたのだ。

時々、目を背けたくなるシーンは多々。でも、不思議と目を背けたくなくなる、この矛盾。

何より、ニコール・キッドマンが股間のパンストを破り、よがる姿を見た途端である。

この女優は徹底的マックスの女優なんだと、尊敬したのだ。

 

7月27日から公開

【監督】リー・ダニエルズ

【出演】ザック・エフロン ニコール・キッドマン、マシュー・マコノヒー ジョン・キューザック


『31年目の夫婦げんか』

2013年07月01日 | 映画

同世代の私にとっては、痛い話だ。

31年間も夫婦やっていれば、喧嘩は日常茶飯事。お互いを男や女なんて意識する日なんて皆無である。

綾小路きみまろさんの語録の中にこんなフレーズがある

「家に帰れば、有効期限の切れた亭主と、賞味期限の切れた女房がにらみ合う。」

まさにその通り。天才的な名言だ。

さてさて、そうは言っても、死ぬまで連れ添うのが夫婦。

いかに賞味期限キレとは言っても夫婦は夫婦。

メリル・ストリープ演じる妻はこのマンネリを脱却しようと、とんでもない夫婦セラピーを受けることを決意する。

頑固で亭主関白の夫役がトミー・リー・ジョーンズ。

とんでもない妻の計画に、しぶしぶついていくのだ。

キーワードは「倦怠期を迎えた夫婦のセックス」である。

若いころ、あれほどときめいた夫婦のセックスも、今じゃ、皆無。別々の寝室で本を読みながら寝入る毎日。

熟年夫婦にとって、失われた時間を取り戻す最大の効果薬はズバリ「セックス」

高齢化社会にむけて避けては通れない夫婦の真実を実にうまく描いている。この斬新で新鮮なタッチの作品の夫婦を演じるのが、メリル・ストリープとトミー・リー・ジョーンズ。

この二大演技派の文句なしのキャスティングに唸りっぱなし。

セラピストの指導の下で挑む未完のセックスシーンはあまりにも滑稽で、大爆笑してしまう。

しかし!!その笑いがいつしか同病相哀れむの憐憫の情に変わっていくのだから、お見事!

7月26日から公開

【監督】デヴィット・フランケル

【出演】メリル・ストリープ  トミー・リー・ジョーンズ


『華麗なるギャツビー』

2013年06月09日 | 映画

 

 

ロバート・レッドフォードからレオナルド・ディカプリオへのバトンタッチ。

すごくいい人選だ。

ミステリアスで哀愁のあるギャツビー役は、よーく考えてみれば、70年代なら、ロバート・レッドフォード。そして、2010年代ならレオナルド・ディカプリオしかいない。

確かにだ。

新「華麗なるギャツビー」は、レオ様にやってもらったことで、この作品はすでに、80%は成功している。

そこに最先端の3Dという映像効果。

まさか、ギャツビーが3Dで蘇るとは!!!

70年代の『華麗なるギャツビー』をリアルタイムで見た時、まさか、こんな時代がやってくるとは、想像だにしなかった。

ここ30年もの間、映画だけでなく、世界のあらゆる技術が進歩している。

そんな横溢する文明の中で、『華麗なるギャツビー』の進化こそ、私にとって、最大のカルチャーショックだった。

3Dで蘇ったF・スコット・フィッツジェラルドの世界は、バズ・ラーマン監督の華麗なる映像とディカプリオの名演技で、さらに豪華にさらにGREATになったことには間違いはない。

レッドフォードVSディカプリオ。

ロバート・レッドフォードファンの私だが、今回だけは、レオ様に軍配を上げたくなった。

6月14日から公開

【監督】バズ・ラーマン

【出演】レオナルド・ディカプリオ  トビー・マグワイア  キャリー・マリガン


『生きるヒントの映画』

2013年05月31日 | 講演

今回の定期講座のテーマが『生きるヒントの映画』。

約2時間の映画の中には、人々が生きていく上で、生きるヒントがたくさんこめられているということで講演した。

船橋南福祉センターの生徒さんが、シルバー世代の方が多いといういことから

①老いてこそ知る生きる素晴らしさ(シルバー世代が活躍する映画)というテーマで、

以前私が連載していた女性誌で扱った『マルタのやさしい刺繍』。

他に『カレンダーガール』『やわらかい手』『スペースカーボーイ』『グラントリノ』『人生に乾杯』を登場させ、年をとっても、人は夢を追いかけること、チャレンジ精神を忘れないこと、そうすれば、人生はより豊かになるという話しをした。

②病んだり落ち込んだり、人生につまづいた時に元気をもらえる映画というテーマで、

『最高の人生の見つけ方』『最強の二人』『シャル・ウイ・ダンス』『釣りバカ日誌シリーズ』

『ヘアスプレー』『ショーシャンクの空に』などについて話した。

ここのスタッフの方はみんないい方で、講演中の私の写真を撮ってくださった。映画を愛する人々が映画を通して一つになる貴重な瞬間。

仕事とはいえ、好きな映画の話ができて、喜んでもらえて、なんて、私は幸せもんでしょうか!と、思ったのです。


『エンド・オブ・ホワイトハウス』

2013年05月29日 | 映画

「CIA」「FBI」「テロリズム」と、アメリカ側から撮ったアクション・エンタティメント作品は、毎年、たくさん公開されるけど、あんまり見る気になれないのは年のせいかもしれない。

でっかい音でドンパチやるシーンにいささか食傷気味なのかもしれない。

現に、今年のアカデミー賞作品賞受賞した、ベン・アフレック監督主演の『アルゴ』なんか、どこが面白いの理解できなかった。

だから、こういった種類の映画を見る時は、半ば諦念、時間があって心がゆとりのある時しか見ないようにしている。

そんなシニカルな気持ちで見たのが『エンド・オブ・ホワイトハウス』だった。

だが、しかしである。見始めると、これはめっけもん、最高の掘り出し物だと思った。

大統領一家が移動中の車の中で事故が起きるオープニングシーンから、乗せる、乗せる、素晴らしく乗せてくれるたのだ。

ある意味では、初代の『ダイハード』に出会った瞬間に類似している。

北朝鮮のテロリストが「ホワイトハウス」をぶっ壊すまでの息を呑むような展開。

アメリカを訪問していた韓国の首相までも殺してしまう暴走とあらっ削りな展開。

アメリカ大統領が人質にされるという前代未聞の展開。

何よりも、ただ一人、ホワイトハウスに侵入し、果敢にもテロリストから大統領を救い出す、ジェラルド・バトラー演じる元大統領専任のシークレットサービスのタフネス。

なぜにこれだけの臨場感や高揚感を与えてくれるのか?

考えてみた。

一つは監督の力。もう一つはシナリオの力なのである。

『トレーニングディ』の監督アントワーン・フークアの力。シナリオのクレイトン・ローゼンバーガー&ケイトリン・ベネディクトの力なのである。

怖いもん知らずの還暦間近の変わりもんのオババの心をここまで鷲づかみにし、乗せてくれたこの二人に乾杯!

6月8日から公開

【監督】アントワーン・フークア

【出演】ジェラルド・バトラー  アーロン・エッカート モーガン・フリーマン


『イノセント・ガーデン』

2013年05月17日 | 映画

 

 

映画の教養講座のために、心に残る新旧作品をもう一度見たり、調べたりしているうちに、映画はやっぱり凄いもんだと、改めて感動している。

「温故知新」、まさに古い映画をたずねて新しい映画の素晴らしさも教わるわけだ。

そんな意味から、5月31日公開の『イノセント・ガーデン』は、37年前のブライアン・デ・パルマ監督の『キャリー』(1976)のホラーと一昨年、ナタリー・ポートマンにオスカーを与えた妄想、パラノイアのバレリーナ物語「ブラックスワン」を彷彿させた。

『イノセント・ガーデン』の監督は、韓国のパク・チュヌク。あの『オールドボーイ』の鬼才。そこにハリウッドのリドリー・スコット、故トニー・スコット(なんで自殺しちゃったんだろう?寂しい)が絡んでいるから、韓国とハリウッドテイストが絶妙に混ざり合い、かなりエキセントリックでかなり洗練されたサイコミステリーが誕生したのかもしれない。

丘の上の豪邸に住むふ少女役を若手のミア・ワシコウスカ、その母役が二コール・キッドマン。

この豪邸の中で日々起こる不気味な出来事。ホラーというジャンルでくくると、ホラーアレルギーの人は見たくないかもしれないが、この作品は、人間の犯罪心理の探求と、それを背負ってしまった少女の悲しい性を描いている。

何より、新星、ミア・ワシコウスカの卓越した演技は、御大ニコール・キッドマンを食う勢い。

ただただ、驚嘆!!!

 5月31日から公開

【監督】パク・チュヌク

【出演】ミア・ワシコウスカ  ニコール・キッドマン


『ひまわり』

2013年03月14日 | 映画

 

月に2回、地元の福祉センターで映画解説をして、早3年がたってしまった。

邦画、洋画と交互に解説している。最近作で、一番感動を与えてくれたのがビットリオ・デ・シーか監督の「ひまわり」(1970)だった。

リアルタイムで見たのが中学1年生の時。戦争に巻き込まれる夫婦の姿、その悲しみが、幼かった私には衝撃的だった。

戦争の愚かさを初めて教えてくれた作品でもあった。ソフィア・ローレンが、行方不明になった夫を捜し、ソ連のひまわり畑に佇むシーン。

その夫となるマルチェロ・マストロヤンニには現地の妻がいたという悲劇。

ヘンリー・マンシーニの不朽の名曲が悲しく流れ、まるで映画音楽に奇跡が起こったように、ストーリーに溶け込んくる。

サウンドトラックを聴いているだけで、映画のシーンが思い出され、涙が溢れる。

こんな素晴らしい作品に出会うのは一生に1度と言っても過言ではない。

執筆と違って、解説という仕事は自分のありったけの言葉を駆使して、観客に訴える。

まるで、ライブハウスのような乗りで、観客が私の肉声に反応するまさにその瞬間、活字では味わうことのできない快感が体を走る。

これもまた、映画の感動を伝える手段としては重要なエッセンスだと、実感している。

さて、来週は、どんな作品のリクエストがあるのか…。


『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』

2013年01月19日 | 映画

 

試写の案内を見たとき、「シンドバッドの冒険」みたいな少年の冒険物かなと思い、あんまり重要視してなかった。

しかし、原作がイギリス文学界の「ブッカー賞」受賞。そして、監督がアン・リーということで、なんとなく気になってしょうがなかった。

ダメもとでもいいから見てみようと時間を作った。

軽視していたもの、期待してなかった作品が、思わぬ方向に流れを変え、ドンドンと心の中に浸透し始めて、暗闇の中で異常なくらいのオーラを発し、心を鷲づかみにされる。

見てよかった!こんな小気味いい、すごくイイ感じになれる作品は数少ない。

この反対のことならば多々ある。期待に胸を躍らせて見ても、見始めた瞬間から、気分が撃沈して、どっと憂鬱になってしまう作品の方が多いからだ。

だからこそ、映画は見てみないとわからない。

机上の論理だけで判断すると、とんでもない損をしてしまう。

話は実にシンプルだ。

主人公のパイは嵐に襲われ、ただ一人生き残った。救命ボートで一人で難を逃れるはずだったが、そのボートには一頭の巨大なトラが乗っていた。トラと共闘、共存しながら、227日間も大海を漂流するのだ。

しかし、『ライフ・オブ・パイ』が、他の冒険物と違っている点は、その漂流記の中に、人間と動物が偶像化され、ややもすると、トラが人間の心と知力を試すために登場した神のように見えるのである。

アン・リー監督だからこそ撮ることができる最大のカメラワークで、見たことも無いような幻想的なシーンが目の前に広がる。

映像があたかも一冊の哲学書のように見えてくる感動。

ラストに至っては、芳醇な文学の香りが漂い、未だにその余韻に浸っている。

 

1月25日から公開

【監督】アン・リー

【出演】スラージ・シャルマ  ジェラール・ドパルデュー

 

 


『東京家族』

2013年01月05日 | 映画

小津安二郎の『東京物語』をリメイクするのなら、山田洋次監督以外に誰がいようか!

小津監督に出会ってから、いつもそう思っていた。

船橋福祉センターで映画解説をしている私は去年の秋、小津の『東京物語』を上映した。福祉センターに来る人は、映画マニアもいれば、まったく映画に知識のない人もいる。小津に精通している人もいれば、小津作品を初めて目にする人が混合していた。

私はとりわけ、小津に精通していない観客の感想を上映後に聞いてみた。

「老夫婦が東京で立派にやっている子供たちに会いに来る瞬間から、もう、映画の中に引き込まれてしまい、目を食い入るようにして見ました。素晴らしい作品です!そして、家族って何かを考えさせてくれる深い映画でした。小津安二郎監督っていつもこういう作品を作っていたんですね」

だった。

小津作品に初めて出会う人は、私を含め、みんなこんな素直な感動の言葉を述べる。

だからこそ、去年、英国映画協会で世界の映画監督が選ぶ最も優れた作品のナンバーワンになったのだろう。なんと、英国地元のスタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』を2着に抑えてのナンバーワンだった。

小津監督の作品がかくも偉大であるという証明の一部分になったのだ。

山田洋次監督が松竹の先輩、小津安二郎の『東京物語』を小津に捧げるという趣旨で『東京家族』を撮ると決めた瞬間、もう一昨年になってしったが、東日本大震災が起こった。

クランクイン間近だった山田監督は、日本の歴史に最大の悲劇を残した未曾有の大災害とそこから派生した人災ともなる原発事故を語らずして、映画は成り立たないということで、クランクインを一年延ばした。

私は、山田監督の姿勢を尊敬し、なおさら、リメイク版が楽しみになっていた。

でも、キャスティングが発表された時、ちょっとだけ不満だった。

あのおっとりしているが、ちょっとだけ頑固であった父親の笠置衆の役が橋爪功、ほっこりとしたマシュマロのようなふくよかな母親の東山千栄子の役が吉行和子。

ちょっと、ミスキャストかな…と、思った。

でも、しかしである。これは大逆転した。

小津が戦後の日本の家族を描ききったように、山田監督は『東京家族』で橋爪、吉行老夫婦の存在を通して、不安定で無気力になってしまった日本、そして震災後に味わった日本人の将来への不安や恐れを十分に付け加え、現代の日本の家族像を見事に抉り出してくれたのだ。

橋爪功、吉行和子も素晴らしいが、プータローを演じる妻夫木聡の演技は、小津作品に登場しなかった新種の調味料を存分に加え、そのデリケートな味に、私は茫然自失したのだった。

家族はウザい!しかし、かくも家族ほど素晴らしいものはない!

こんなシンプルなことなのに、私は心のどこかに置き忘れていたのかもしれない。

1月19日から公開

【監督】山田洋次

【出演】橋爪功  吉行和子 妻夫木聡 蒼井優 中嶋朋子 西村雅彦


『アルバート氏の人生』

2012年12月14日 | 映画

 

『彼女を見ればわかること』『美しい人』『パッセンジャーズ』と、ロドリゴ・ガルシア監督に惚れ込んでいる。。

男でありながら、なんで、こんなに女の深い心理がわかるのかと、本当に驚嘆してしまうのだ。

多分、世界中のどの監督にも表現することのできない、天才的な女性心理分析家と言っても過言でない。

ついに、ガルシア監督の最新作がやってきた。

『アルバート氏の人生』である。

19世紀のアイルランドを襲った飢饉と疫病。貧しさのどん底の中で、男としてしか生きる術のなかったアルバート氏を、ガルシア監督ファミリーのグレン・グローズが切なく演じている。

ここで興味深いことを発見したのだ。

極貧の社会の下で女が生きる延びるには、「春」を売ることが手っ取り早い。しかし、このアイルランドの大飢饉は、売春という稼業が成り立たないほど貧窮しているという発見なのだ。

女を買いたくても、男に買うお金がなければ、売春は成り立たない。

では、どうするか?女を売れないのなら、男として生きるだけなのだ。この二択が尋常でない当時のアイルランドの現実だったのかもしれない。

体力と知力という最大の武器を使って、アルバート氏はホテルのボーイとして働く。女とバレたら首になってしまうから、極力隠し通す。

いつしか、アルバート氏は自らを女であったことすら葬り去るように、無我夢中で働く。

小金を貯めて、やっと、貧しさから抜け出ようとする希望が持てた瞬間までも。

これは、女の自立の物語である。

世界中で生きる女の数だけ、その自立方法は千差万別である。

しかし、である。アルバート氏の自立ほどかくも悲しいものはない。

物語の中で、一瞬だけ、アルバート氏が同じような生き方をしてきた女友達とドレスを着て、海辺を歩くシーンがある。

女を取り戻した一瞬の、このぎこちない女たちのシーンに、女性であるならば、誰もが涙を流すに違いない。

 

2013年1月18日公開

【監督】ロドリゴ・ガルシア

【出演】グレン・グローズ  ジャネット・マクティア アーロン・ジョンソン

 


『人生の特等席』

2012年10月19日 | 映画

クリント・イーストウッドという名前が出ると、速攻、見たくなる。

この衝動はなんなのか?あの『グラン・トリノ』の感動が未だに覚めやらないからかしら。

81歳という高齢にも関わらず、作る映画、出る映画がパーフェクト。視聴者に決して損をさせない稀有な監督であり俳優である。

『人生の特等席』。いいタイトルだ。このタイトルで見たい気持ちは倍増してくる。何か、深い感動的なドラマがありそうだ。

そして、願わくば、『グラン・トリノ』を超える感動を与えてくれたら…。そんな大きな期待で試写を見た。

今回、クリント・イーストウッドは、あくまでも俳優として主演している。監督はクリント・イーストウッドが生涯ただひとりの弟子と認めたロバート・ロレンツ。『グラン・トリノ』や『インビクタス』の製作者でもある。

老いたメジャーリーグのスカウトマンをクリント・イーストウッドが演じ、長く疎遠だった娘との確執が、野球を通じて徐々に修復されていく物語だ。

私は、アメリカのメジャーリーグには疎いが、ニューヨークに行った時、メッツのホームであるシェイスタジアムで試合を見たことがある。

大勢のでっかい体のアメリカ人メッツファンに囲まれて、体の小さな私はつぶれそうになったけど、アメリカ人の野球熱は、かくも凄いもんだと、圧倒されていた。

将来性のある選手を発掘して、メジャーリーグの目玉にする、即戦力にすること。つまり、アメリカの野球の縁の下の力持ちがスカウトマンであったことを『人生の特等席』で教わった。

スカウトマンの力がチームの未来を決めているといってもいいかもしれない。

うーん、こう綴っていくと、私は映画そのものよりも、アメリカの野球のシステムに感動しているような気がする。

なんでかなと、考えた。

つまり、映画としては、キャッチーな魅力があるのだが、ストーリーがシンプル過ぎて、強烈なパンチは食らわなかった。

欲を言えば、登場人物の中に屈折したsomethingが欲しかった。

『グラン・トリノ』と比較してはいけない、あの感動をもう一度ではいけないと、つくづく思った。

『グラン・トリノ』とは別腹で見なければいけない。

とはいえ、最近見た洋画邦画があまりにも酷かったので、その中ではもちろん、もちろん、ピカイチの作品であることは変わりない。

11月23日(金)から公開

【監督】ロバート・ロレンツ

【出演】クリント・イーストウッド  エイミー・アダムス  ジャスティン・ティンバーレイク


『夢売るふたり』

2012年08月19日 | 映画

 

 

 

松たか子が素晴らしい。

松たか子を素晴らしいと思ったのは2度目。今回の『夢売るふたり』だけでなく、その前の『告白』だった。わが子を殺された教師が殺した生徒たちに復讐すると言ったストーリーなのだが、とにかく今の中学生に潜む魔性や残虐さをえぐりだし、そこに果敢に戦う教師の深い心理状態を不気味なまでに演じていた。

松たか子はこの作品から流れが確かに変わった。太宰治が「富士には月見草がよく似合う」と「富獄百景」の中で書いているが、松たかに子すれば、「梨園のサラブレッドには、復讐に燃えたり、陵辱された人間の気持ちや不信感であったりとかの、人間の心の深淵に迫った役がよく似合う」

今回の『夢売るふたり』は田舎から出てきた若夫婦が東京の下町の居酒屋で額に汗水たらし、一生懸命に働いているシーンから始まる。

妻がもちろん、松たか子で夫が阿部サダヲ。二人で営んでいるこの居酒屋はたいそうに繁盛していた。

しかし、不慮の事故から、火事が起こり、みるみるうちにこの居酒屋は全焼してしまう。

タイトルが『夢売るふたり』だが、若夫婦二人の夢が一瞬にして焼かれ、奪われたところから始まるのも皮肉なことである。

お金に行き詰った二人が計画したことは、夫を結婚詐欺師に仕立てること。妻の松たか子が夫の阿部サダヲに、寂しい独身女性をターゲットにしてお金をふんだくれと、プロ顔負けの結婚詐欺師に仕立てていく。

夫が他の女とセックスしている時でも、松たか子は冷笑している。

この松たか子の怖さったらない。

さて、なぜ、妻は夫を結婚詐欺師に仕立てたか?

それは妻という立場にたった女にしか分からない永久不変の苦悩ではないかと、私は思った。

完成披露試写会の時、西川美和監督が今回は徹底的に「妻」というものがどういうものであるかを描きたかったと言っていた。

西川美和監督の「妻」像は、あまりにも辛らつであまりにも悲しくてあまりにも寂しい。

しかし、これこそ嘘偽りのない真実の「妻像」だった。

この作品、多分、日本にだけで留まらないと思う。「おくりびと」のように、世界に伝染していくと確信している。

なぜなら、西川美和監督は世界のどの国にも共通するような永久不変の「妻像」を描いているからだ。

 

9月8日から公開


『ヘルタースケルター』

2012年06月28日 | 映画

沢尻エリカのお騒がせな私生活を一切無視して、この作品を見たほうがいい。

『ヘルタースケルター』の主人公りりこは、全身整形のトップスターである。「目ん玉と爪と髪とアソコ」以外は全部作り物である。凄い話だ。

こんなえぐい役をやれる女優は、沢尻エリカ以外の誰がいようか!

毒は毒をもって制すのか、今回の沢尻エリカの演技には、りりこという芸能界に君臨するトップスターの華麗さや醜悪さの裏にある実にはかなくもピュアで繊細な一面まで演じきっていた。

蜷川実花監督の色彩豊かなソフィストケートされた美しい映像。一点非の打ち所のない沢尻エリカの美しい顔と均整の取れたシンメトリーの裸体。

脇に回ったドン臭いマネージャー役を演じた寺島しのぶ、芸能プロダクションの調子のいい社長を演じる桃井かおりの圧迫感と存在感にも翻弄される。

目の前に広がるシークエンスそのものが、まるで、おとぎの国に行ったような、まるで、映像までを全身整形させてしまったような感じで、美酒に酔ったような心地いい余韻を残している。

『ヘルタースケルター』   沢尻エリカの代表作になるに違いない。

7月14日から公開

【監督】蜷川実花

【出演】沢尻エリカ  寺島しのぶ  桃井かおり  大森南朋  窪塚洋介