マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

『トラッシュ!この街が輝く日まで』

2015年01月01日 | 映画

2014年のワールドカップの開催地がブラジルであったことから、ブラジルを舞台にした作品『トラッシュ!この街が輝く日まで』には、かなり前から興味があった。

ワールドカップ、オリンピック開催ということで、リオの貧民街のファベーラ地区を一掃し、安全な街にしている警察のドキュメンタリーを見た。これは、一昨年亡くなってしまった、友人で、作家の戸井十月さんが、プロデュースと取材した番組で、リオで生きる子供たちが、オリンピックに向けて頑張っている姿も映し出され、とても新鮮な感動を覚えた。

そんな下地があったので、この作品を見た時、思いもかけないことが目の前で起こっているのにびっくりしたのだ。

ワールドカップは大盛況に終わり、ブラジルにかなりの経済効果をもたらしたはずである。

にも関わらず、スクリーンに登場する少年たちは、ゴミ集めの収益で暮らしているのだ。

これからオリンピックが開催されようとも、このゴミ集めで暮らす孤児たちはリオから消えることがないだろうと確信した。

ある日、一人の少年がゴミ山から、政治家や警察にとっては非常に貴重なものを拾うところから物語が始まる。

その貴重なものを警察に追われながらも、決して屈することなく、逃げ回る3人の少年たち。

オリンピックがあろうとなかろうと、貧しいものは死ぬまで貧しいのであるという、ブラジル国家への憤りをこの3人の少年たちは、「正義」をもって訴えている。

その逃亡の快挙に胸が熱くなったのだ。

1月9日から公開


『サンバ』

2014年12月07日 | 映画

『最強のふたり』に感動した人なら、今回の『サンバ』では、さらに2倍も3倍も感動するはずである。

年末に来て、私の今年のベストワンの作品が登場してくれた。

フランスの移民問題を、かくも優しく、かくもシリアスに、かくもユーモラスに、かくもさわやかに描ききった作品は他にはないだろう!

『最強のふたり』での黒人男優オマール・シーの演技は『サンバ』によって、さらにデリケートにさらにセンシブルにさらにユーモラスにバージョンアップしていた。

主人公サンバことオマール・シーの恋人役になるシャルロット・ゲンズブール。彼女は強度のうつ病を患っているが、サンバに出会うことで、心の痛みが徐々に緩和されていくこのデリケートな変化。

脇に回った俳優陣の12色のパステルカラーのようなカラフルな演技。

「移民問題」を、優しいオブラートで包みながら、そのオブラートの中身がきちんと見えてくるという見事な演出の余韻は、今も、そしていつまでも続くだろう。

12月26日から公開

【監督】エリック・トラダノ  オリヴィエ・ナカシュ

【出演】オマール・シー  シャルロット・ゲンズブール タハール・ラヒミ  イジア・イジュラン


瀧澤陽子「映画塾」のご報告

2014年12月01日 | 講演

 

 

11月29日の「瀧澤陽子の映画塾」には約100名弱の参加者があり、大変感激しております。

ご参加いただいた方に心から感謝申し上げます。

映画という魅力が繋げる「輪」であると、実感しました。私の講演はともかくとして、今回は参加された方に私の方から、逆質問しました。

「あなたにとって、人生で一番思い出深い映画は?」

こんな質問を投げかけました。

ある参加者の方は「フィールド・オブ・ドリームス」と答えました。その方の理由は若くしてお父上を亡くされたとのことです。この作品で、父親が天国から舞い戻ってきてくれたような気持ちになり、亡きお父上の懐かしい思い出が頭をよぎったそうです。

素晴らしい話だと、私は涙が出そうになりました。

他の方からは、「地上より永遠に」「スタンドバイミー」「風と共に去りぬ」「となりのトトロ」

「ベンハー」「駅馬車」「しあわせの黄色いハンカチ」「ゴジラ」「エディット・ピアフ 愛の賛歌」

「冒険者たち」「ひまわり」「自転車泥棒」「かもめ食堂」などなどと、新しいところでは、「イヴ・サンローラン」などと、数えきれない作品が参加者の方の口から飛び出しました。

その中でも、かなりエキセントリックな作品、ブライアン・デ・パルマの「殺しのドレス」のお答えが出た時、パルマファンの私はとっても嬉しかった。

こうやって、話が尽きなくなるのも映画の持つ魅力です。

私はいつも言うのです。

「映画は暗闇の中の約2時間の旅」であると。

行ったこともない国の人々、食べ物、文化、風景に短時間で出会える複合的な芸術なのです。

次回は来年の5月を目指して開講する予定です。次回の講師には、映画監督、作家などを計画しておりますので、ご参加いただけると幸いです。


エッセイスト・瀧澤陽子の「映画塾」開講のお知らせ

2014年11月07日 | 講演

千葉県船橋生まれの私が、「かつて船橋の街は映画に溢れていた」をコンセプトに、映画塾を開講します。船橋は「ふなっしー」だけでなく、かつては映画の街でもあったのです。お近くにお住まいの方はぜひともお待ちしております。

 

【日時】11月29日(土) 13時から(12時30分開場)

 

【場所】船橋市浜町公民館(講堂ホール) TEL 047-434-1405

   ●船橋ららぽーとの正面にあります。

   京成線「大神宮下」駅下車 徒歩8分  

   JR「南船橋」駅から徒歩10分(船橋ららぽーと行の無料バスあり)

【参加費】無料

【定員】200名 先着順

【問い合わせ】 実験的表現舎  TEL 047-433-6499

  

 


『百円の恋』

2014年10月22日 | 映画

旦那と同い年の私は、今年二人そろって還暦になった。同い年の夫婦ってのは、当たり前だが、同じように年を取るので、旦那が定年を迎えた瞬間、なんだか、自分までも定年になったようで、複雑な心境なのである。

もう人生が終わったかのような寂寞と空しさが、ここ数日、心から離れない。

これじゃいけない!。この空しさを脱却するには映画しかないと、手元にある試写状の中から、ふと目に留まったのが、邦画の「百円の恋」だった。

内容や前評判を全く把握せずに、映画を見るのも一つの醍醐味で、情報がないからこそ、まっさらな状態で作品に向き合うことができる。

目の前に現れた主人公役の安藤サクラの無気力で怠惰な日常が突然目に入る。

髪を振り乱し、ジャージ姿でタバコをふかすしながらテレビゲームばかりやっている安藤サクラは、弁当屋を経営している母や出戻りの姉に激怒され、ついに家を出るはめになる。

あ、この展開はめっちゃ面白いぞ!

今度は食うために深夜の百円コンビニでレジを打つ安藤サクラの姿が目に入る。目が細いので、店長に「目つきが悪い」となじられる。

確かに本当に目つきが悪い。そして恋が始まり、恋が終わる。

単に物語はそれだけなのだが、ここで、画期的なのは、だらしない安藤サクラが、ある日突然、ボクシングに目覚めるのだ。

体を鍛えるために、走り、シャドウボクシングに精進する。どんどん、ぶくぶくに太った安東サクラの体から体脂肪が抜け、見る見るうちにアスリートになっていく。

ボクシング好きの私は、安藤サクラの役作りのたくましさに惚れ惚れするのである。ここまで本気でボクシングに向き合った日本の女優は彼女が初めてではないだろうか?

安藤サクラの作品を見るのがこれが初めてである。

父は奥田瑛二、母は安藤和津。サラブレットの家系の娘である。

少しだけ、この血統に違和感があったが、「百円の恋」の安藤サクラの演技を見て、私はびっくり仰天していた。

「うまい!」

の一言なのである。

何より、還暦鬱になっていた私を安藤サクラは思いっきり元気にしていた。

安藤サクラちゃん、マジ、サンクス!

【監督】武 正晴

【出演】安藤サクラ  新井浩文  稲川実代子  早織  坂田聡  根岸李衣

 

11月15日から山口県内先行ロードショー

12月20日から テアトル新宿ほかロードショー


『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』

2014年09月22日 | 映画

往年のハリウッドビューティ、グレース・ケリーの役を現代の女優が演じるのなら誰がいいのか?

私の心には二人の女優がイメージされた。一人はニコール・キッドマン、そしてもう一人がシャーリーズ・セロンだった。この二大女優が一番、グレース・ケリーに近いと確信していた。

予想は的中した。今回の『グレース・オブ・モナコ』では、ニコール・キッドマンがグレース・ケリーを演じた。

いや、女優グレース・ケリーではなくて、正確に言えば、モナコ公国の公妃となったグレース・ケリーを演じている。

グレース・ケリーと言えば、映画では、『喝采』である。実にシリアスな役をこなし、アカデミー主演女優賞に輝いた。金髪美女好きのアルフレッド・ヒッチコック監督作品の常連でもあり、『裏窓』『ダイヤルMを廻せ』も素晴らしかった。

女優としてのグレース・ケリーの偉業は話すまでもないが、公妃となったグレース・ケリーの偉業が今回の作品で、実に丁寧に描かれていた。

モナコは世界で一番小さな国バチカン市国の次に小さな国である。

しかし、一時、フランス政府から(シャルル・ド・ゴール大統領)から過酷な課税を強いられていた事実の発見に驚きだった。

そして、この窮地を救ったのが公妃グレース・ケリーだった!

映像の中のグレース・ケリー。公妃のグレース・ケリー。

いずれにしても、私はグレース・ケリーが昔から大好きなのである。

10月18日から公開

【監督】オリヴィエ・ダアン

【出演】 ニコール・キッドマン  ティム・ロス


『マルティニークからの祈り』

2014年08月16日 | 映画

これは、韓国の主婦版「ミッドナイト・エクスプレス」だ。

言葉も通じないフランスで、「薬物」輸送の疑いをかけられた主婦が、2年間も投獄され、無実を証明するまでの物語である。

7月にモロッコを旅してきた。初めてのモロッコなので、安全パイの搭乗員同行のツアーにした。現地に詳しい添乗員がいれば、何かにつけて安心で楽だからだ。ただ、自分の思うように時間が作れないリスクはあるのだが、それでも、郷に入れば郷に従へを守ることができる。

海外の旅は机上の論理では、絶対に実現できない。現地には日本人や、この主婦の場合は韓国人であるが、自分の国にはない信じられない法律があることを覚悟して行けという教訓でもある。

「ミッドナイト・エクスプレス」の主人公が、軽い気持ちでトルコにドラックを持ち込み、厳罰に処されるように、自分の国の常識が海外では通用しないのである。

ましてや、この主婦はフランス語どころか、英語すら話せない。

無実を主張しても、まったく相手に理解されない。

言語の壁が重くのしかかる。

これは実話だそうだ。

そして、もしかしたら、誰にでも起こり得ることかもしれない。

海外旅行者に大きな警鐘を鳴らしてくれた作品でもある。

 

8月29日から公開

【監督】パン・ウンジン

【出演】チョン・ドヨン コ・ス カン・ジウ  ペ・ソンウ

講演 「世界の映画の旅」

2014年07月10日 | 講演

 

 

船橋南福祉センターで映画の講座を持っている私は、昨日「世界の映画の旅」というテーマで講演した。

今回は映画がメインではあるのだが、私が今まで訪れた国々のことを話すのも目的の一つだった。

 

「旅情」(イタリア・ベニス)、「ジョッキーを夢見る子供たち」(フランス・パリ)、「フォロー・ミー」(イギリス・ロンドン)、

「サウンド・オブ・ミュージック」(オーストリア・ザルツブルグ)、「プリティー・ウーマン」(アメリカ・ロスアンゼルス)、

「アラビアのロレンス」(アフリカ・エジプト)、「愛人/ラマン」(ベトナム・ホーチミン)、「慕情」(中国・香港)

と、8つの作品の背景になっている国々の話をした。

みんな優れた作品ばかりだ。

こういった講演は初めてだったので、いつもよりも緊張したが、話しているうちに、また海外に飛びたい衝動がムラムラとしてきた。

で、いいタイミングなことに、来週からモロッコへ旅する。もう少し、早く行っていれば、「カサブランカ」も紹介できたのだが…。


『太秦ライムライト』

2014年06月28日 | 映画

船橋南福祉センターの講座で、1963年公開の『13人の刺客』の解説をした。この作品は2010年にも三池崇史監督によってリメイクされている。

オリジナルの『13人の刺客』は、東映の時代劇全盛の作品で、監督・工藤栄一、主演・片岡千恵蔵、里見浩太朗、嵐寛寿郎、内田良平と、蒼々たる俳優陣ばかりである。

実は私は、この作品をリアルタイムで見ている。当時、私の家のすぐそばに、東映専門の映画館「新興館」があって、9歳の私は父に連れられて、チャンバラ映画をよく見ていた。

60年代の日本の映画はほとんど時代劇だったような気がする。時代劇が日本の映画を支えていたと言っても過言でない。

あれから、50年、今回の『太秦ライムライト』は、衰退していく時代劇にスポットを当てている。

主人公は「斬られるために生きる俳優」。福本清三が演じている。これはフィクションであるのだが、実際の福本清三も15歳で東映の時代劇専属となり、「斬られ役」専門の俳優である。

彼の凄さを知ったのは、トム・クルーズ主演のアメリカ映画「ラストサムライ」だった。殺陣の実力を買われての大抜擢だった。これで、福本さんの知名度は抜群に上がった。

しかし、今の日本には時代劇の必要性がなくなっている。それによって、主人公のような「斬られ役」の出番は全くなくなっているのが現実である。

出演する映画が減れば、収入が減る。よって、この主人公は東映の太秦の撮影所で、観光客相手に殺陣を見せて、なんとか生計を立てている。

妻に先立たれ、時代劇でしか自分の存在を披露できない初老の「斬られ役者」の虚空感を、福本三郎は寡黙に冷静に演じていた。

時代劇の活気が戻ってくることはないかもしれない。しかし、それを嘆いていてばかりでは始まらない。

本作の中に、新人監督が時のアイドルを使い、CGだけでイージーに時代劇を撮っているシーンが挿入されている。

この軽薄さは、日本の時代劇を支えてきた俳優陣の心の嘆きを表わしているようで、溜飲が下がった。

7月12日(土)から公開

【監督】落合 賢 

【出演】福本清三  山本千尋  本田博太郎 松方弘樹、萬田久子、栗塚 旭


『her/ 世界でひとつの彼女』

2014年05月22日 | 映画

もはや、人間の苦悩や孤独感を救うことができるのは人間でなく、AI(人工知能)になってしまったのか?

ホアキン・フェニックス演じる主人公セオドアは、長年連れ添った妻と別れ、孤独な傷心生活を送っていた。そんな主人公の心の慰めとなったのが、人工知能の女・サマンサ。コンピューターや携帯から連日届く彼女の声に、主人公はどんどん引き付けられ、恋が芽生えてしまう。

ごちゃごちゃ、屁理屈をこねなければ、この作品は人間の男と人工知能女性の立派なラブストーリーである。

しかし、本当にラブストーリーだけですますことができるのであろうか?

試写を見終わった後、私は複雑な気持ちになった。

帰宅するために、日比谷線に乗ると、主人公セオドアと同じようにスマホの操作をしている乗客ばかりであった。人のことは言えない。この私もしっかり、スマホでメールや着信のチェックをしている。

車内の乗客は私含め、ほとんどの人が今見たばかりの主人公「セオドア」だらけだった。

こんな光景は少なくとも、10年前にはなかった。

夕刻の車内では、サラリーマンは「日刊ゲンダイ」や「夕刊フジ」を読み、若い人はウォークマンで音楽を聴き、後の人は寝てるかボーっとしているかだった。

その光景が懐かしいとは思えないが、今や人間は新しい機械を産み出し、それに耽溺して、それを無くしては生きていけなくなってしまった。

人間の孤独感は、本来人間同士で癒したり、心を埋めてやるべきなのに、その役割を機械が果たしてしまうまで進歩してしまった。

これはある意味では実に怖い映画なのである。

こんな時代がやってくるのは目前であるからこそ、なおさら怖い。

そんな警鐘を鳴らしていたのがスタンリー・キューブリック監督の傑作『2001年宇宙の旅』であった。キューブリック監督は、未来はコンピューターが人間を支配すると今から50年前に予告した。未来の宇宙船と人間を支配したのが、コンピューター「ハル」であった。

『her 世界でひとつの彼女』を見た後、私は『2001年宇宙の旅』を思い出していた。

6月28日から公開

【監督】スパイク・ジョーンズ

【出演】フォアキンン・フェニックス  エイミー・アダムス  スカーレット・ヨハンソン(人工知能の声)

 


『それでも夜は明ける』『ブルージャスミン』

2014年03月07日 | 映画

アカデミー賞には懐疑的な私であるが、それでも世界最高峰の映画の祭典であることには間違いがないので、ノミニーされた作品はなるべく見るようにしている。

『それでも夜は明ける』の試写を見た時、私は絶対にこの作品がアカデミー作品賞を取ると思った。奴隷問題、差別問題という社会的なエッセンスが込められていて、スティーブ・マックイーン監督(あの大スターと同じ名前なのでびっくり)が自らがブラックパーソンであったからだ。

対抗となる「ネブラスカ」「ゼロ・グラビティ」「ダラスバイヤーズクラブ」よりもはるかに社会性があり、映画のクオリティそのものも実に優れていた。そして、この作品は、黒人初の監督の作品賞ということで、アカデミーに新鮮でリベラルな空気を吹き込んでいた。

やや、不満を言えば、『それでも夜は明ける』という邦題である。原題の『12yeras A slave 』のままの方が、この作品の真意を表していたような気がした。

3月7日から公開

 

もう一作が『ブルー・ジャスミン』である。ウディ・アレン監督の最新作で、主演はケイト・ブランシェット。ケイトはアカデミー主演女優賞にノミニーされていた。

で、またも私の予想は見事に的中した。ケイトはこの作品で絶対に主演賞を取ると思った。ノミニーされた他の女優の面々とは大幅に一線を画し、ものすごい迫力の演技で、その強烈な余韻を今でも残している。

裕福なセレブ生活を送っていたケイトことジャスミンは、ある日突然、夫も全財産も失い、文無しで、ド平民の妹の家に転がりこむのだ。

華やかな生活から一気にドブネズミのような生活環境を強いられるジャスミンは、どんどんと精神を病んでいく。こういった物語は多分誰もが好きなはずだ。人は人の不幸が大好きであるという、私の歪んだ見解に賛同してくれる人ならば。

ケイトは「大金持ちの見栄っ張りの女なら。落ちぶれた時には誰もがこうなるであろう」という変化を、視聴者の思い通りに演じていくのだ。

ぼそぼそと独り言で過去の栄光を語る哀れなケイトの姿に、人は何を思うか?

憐憫の情?

いい気味だわ?

落ちぶれた女って醜い?

でも、ここまで来るとかわいそうじゃない?

見た後に、こんな感想が飛び交うであろう。ただし、これは女性に限ってである。

ウディ・アレン監督の近年の作品では、私は最高傑作の一本だとも思った。

とにかくケイト・ブランシェットの演技を見ないと損をするはずである。

5月10日から公開

 


『愛の渦』

2014年02月20日 | 映画

 

 

「男2万円、女千円、カップル5千円 乱交パーティ」

こんなキャッチコピーの『愛の渦』試写状が届いた時、ちょっとだけドン引きしていた。今年で還暦になる干上がったおばさんには、はるか彼方の昔の出来事(あ、乱交パーティには出たことがないが)のような感じがして、最近セックスへの欲望が萎えている自分は、この作品をきちんと正視できるか不安だった。

しかし、男2万円、女千円、カップル5千円が、なんだかいつまでたっても頭から離れず、いや、こりゃー見ろ!ということだと思い、試写室に出かけた。

オープニングからラストまで、ほとんど乱交パーティシーンだけと言っても過言ではない。見ず知らずの赤の他人の男女が組み合わせを変えて、とっかえひっかえ絡み合う。

正常位、騎乗位、アナル、フェラ、もう何でもありなのである。

ややもすると、エログロナンセンスな展開になるかも知れないのに、各シークエンスのこのピュアな清涼感はいったいどこからきているのかと、感心していた。

そこには、ベルナルド・ベルトリッチ監督の「ラストタンゴインパリ」が見えたり、パゾリーニの「デカメロン」が見え隠れしたりで、崇高な文学作品に仕上がっていたのだ。

音楽も映像も実に洗練されている。何よりも、岸田國士戯曲賞を受賞した劇作家・三浦大輔初監督の脚本には鳥肌がたっていた。

人間の性欲のリアルさ、切なさ、哀愁、見事に描き出していた。

乱交パーティに出席するフリーターを演じた池松壮介亮君、女子大生を演じた門脇麦ちゃんの体当たりの演技は、性に対するアグレッシブな姿勢や本気度を強烈に表現してくれ、早くも今年見た邦画では最高の一本になってくれた。

3月1日から公開

【監督】三浦大輔

【出演】池松壮亮 門脇麦 滝藤賢一 新井浩文 柄本時生 窪塚洋介

 

 


『さよなら、アドルフ』

2013年12月31日 | 映画

 

 

年末に、安倍総理が靖国神社を参拝したことで、中国や韓国から手厳しい批判を受けている。

安倍さんが、どんなに靖国参拝を正当化したところで、戦犯を祭ってある以上、中国や韓国にとって、侵略され大虐殺をした張本人を崇めているとしか思えないのではないだろうか。

この一件で、安倍さんは外交が下手くそ、うまく演出ができない不器用ものだと、世界に発信してしまった。

さて、私は2014年1月11日から公開される『さよなら、アドルフ』と、この問題がどこかでリンクするのではないかと、思った。

第2次世界対戦直後のドイツが舞台。ナチスの高官だった子供たちが辿る運命をリアルに描いていた。ヒットラー政権によって、苦しめられたユダヤ人の運命は語るに尽くしえない。

しかし、加害者であったナチスの高官の子供たちも、敗戦すれば戦犯の子供として、虐待されて生き続けるしかなかった。

ナチス高官の子供たちが、逃亡の最中にユダヤ人男性と出会い、助けてもらう。ヒトラー政権下で、ユダヤ人を人間とも思っていなかった14歳になる長女が、ナチスが犯したユダヤ人への迫害と殺戮の罪の重さに目覚めた瞬間、この作品は、強烈な反戦映画に姿を変えていく。

今までにないアプローチである。

戦争には加害者も被害者もない。戦争そのものが愚かな加害者なのだと痛感する。

ということで、今回の安倍さんの靖国参拝は、現ドイツの首相、メルケルさんが、ヒトラーのお墓参りをしたみたいな感じなのではないかと思った。

諸外国は、安倍さんが戦争を美化しいるとしか思わないだろう。

2014年1月11日から公開

 監督  ケイト・ショートランド

【出演】 サルキア・ローゼンタール
      カイ・マリーナ
      ネレ・トゥレーブス

『母の身終い』

2013年11月08日 | 映画

来年、還暦になる。つまり60歳になるのだ。そのせいとは言えないが、最近、「死」をかなり意識してきた。

日本の女の平均寿命は88歳というが、私はそこまで欲張らなくてもせめて80歳でいいかなと思っている。いや、これは理想であって、もう少し早まるかもしれない。

とすると、あと、私の寿命は20年ということになる。

「MerryXmas &happy New year」を言えるのも、あと20回だと思うと、なんだか、急になんに対してもストイックになってきた。

今までムカついていた奴にもムカつかなくなり、人よりも一歩抜け出したいという野心も失せ、何事に対しても頭に来ることがなくなっている。

まるで性欲を封じられた去勢馬のような感じなのだ。

だからと言って、空しいとか寂しいとかいうセンチメンタリズムもなく、「ただ一人、毎日楽しく、面白く生きていれば、ま、いいっか」的な人になってしまった。無駄な喜怒哀楽のエネルギーを使うのがばかばかしくなってきたのだ。

ジムで筋トレ、有酸素運動やり、大好きなヒップホップダンス踊り、いい汗かいて、お風呂に入ってビールを飲む毎日がたまらなく楽しいのだ。その合間に原稿書いたり、講演したりで、本当に充実しているのだ。

今はこれでいい。これ以外の何も望まない。

しかしだ。『母の身終い』の主人公の老婆のように寿命前に、不治の病を患ってしまったら、それこそこんな充実した日々が一転してしまう。

日本は高齢化社会ではあるが、ある意味において安楽死、尊厳死に対しては消極的な国だと思う。

しかし、スイスには「幇助自殺協会」というシステムがあり、利己的な動機以外の自殺を望む人を幇助することが許されている。

この発見には驚いた。

脳腫瘍の末期を宣告されたエレーヌ・ヴァンサン演じる老婆は、スイスに渡り、この方法を選び死を迎える。死ぬ瞬間まで、医療つけになり苦しみ痛むのなら、その前のまだ元気なうちに逝ってしまいたいという人間としての美学と矜持を保ちながらである。

「さて、もし、私がそうなった時、どうするのだろうか?」

この作品を見た人なら、誰もが自問自答することだろう。

11月30日から公開

【監督】ステファヌ・ブリゼ

【出演】エレーヌ・ヴァンサン  ヴァンサン・ランドン


『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』

2013年10月25日 | 映画

一番最初に見た吸血鬼の映画はイギリスハマーフィルムの「吸血鬼ドラキュラ」だった。なんと、今から50年以上も前の5歳のころ、地元の名画館で見た。

5歳の女の子にとって、クリストファー・リー演じるドラキュラは刺激が強すぎた。子供は怖いことは大嫌いなのだが、怖いもの見たさという強い好奇心もある。スクリーンの中で、ドラキュラが美女の首筋からドクドクと血を吸うシーンでは、怖くておしっこを漏らしていた。

それから、たくさんの吸血鬼の映画を見た。ハマーフィルムの怪奇映画が私をホラー好きの女の子に変えてしまったのだろうか。

特に印象に残る作品を思い出している。

『処女の生血』(1974)は面白かった。ポール・モリセイ監督で吸血鬼役が個性的なウド・キア。おかしかったのは、この吸血鬼は処女の女の子の血でしか生きられないというところだ。しかし、この時代の女の子はみんな男を知っていて、処女が少なくて困ったという点である。女の貞操観念の価値が時代とともに薄れていることを、吸血鬼が嘆いているというのも、実にコミカルで面白かった。

この『処女の生血』 と、どこか同じ香りを放つのがジム・ジャームッシュ監督の最新作『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』である。

舞台が、荒廃した車の町デトロイトであるのも興味深い。今や、アメリカのデトロイトは崩壊し、住む人が少なくなった荒廃した町である。アメリカの自動車産業の中心で栄えたあのデトロイトの凋落ぶりにスポットを当てたジャームッシュ監督の発想に脱帽した。

そして、そこに住むのが吸血鬼のカップルというのも、ありそうな話である。荒廃した町の風景をジャームッシュ監督は抒情的に映し出している。

『処女の生血』では、処女の純粋な血が無くなっている点に焦点を置いたが、今回の『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』で、ジャンクフードで体を汚染された人間の血は、コレステロールや脂質に溢れ、吸血鬼たちにはまずくて飲めなくなってしまったというところが面白い。 

寂れたデトロイトの町を、汚染されていない健康な人間の血を求めて徘徊する吸血鬼カップルを見ていると、哀れにさえなってくる。

この作品が、ある種の文明批判だと、じんわりとわかってくるのである。

吸血鬼さえ、まずくて吸えなくなってしまった現代人の血。

困ったものである。

12月公開

【監督】ジム・ジャームッシュ

【出演】トム・ヒドルストン   ティルダ・スウィントン  ミア・ワシコウスカ