マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

シアトリカル(唐十郎と劇団唐組の記録)

2007年11月03日 | 映画
 70年代。新宿・花園神社の赤テントに何度出入りしただろう。

 唐十郎の「状況劇場」は私の青春時代の偶像だった。私は「状況劇場」で感性を育ててもらったと言っても過言ではない。あまたある作品の中で「ベンガルの虎」は演劇史上の最高傑作だと思っている。

 この劇団からは多くの俳優が育った。元妻の李麗仙、後に舞踊家で一世を風靡している麿赤児、根津甚八、小林薫、佐野史郎など。

 あれから、約40年。67歳になった唐十郎の芝居に対する熱は枯渇することなく、さらに加速して、当時よりもパワフルになっていた。

 ややもすると、アンダーグランド劇団は時の流れに姿を変え、メジャー路線に走ることもある。

 しかし、唐十郎はあの60年代から70年代にかけてのアグレッシブな芝居作りのスタイルを全く変えていなかった。手作りの赤テントで、芝居狂の観客のためにだけ脚本を書き、熱い演出をする。格差社会、経済至上主義が蔓延する日本の社会とは全く対極的な所で、唐独自の感性と情熱が爆裂する。ただ一つ変わったと言えば、劇団名が「状況劇場」から「唐組」になったことだけだ。
 
 「唐組」の現在の劇団員は14名。平均年齢は30歳。本作は唐十郎とこの劇団員たちが、新作を発表するまでをドキュメンタリー仕立てにしている。あえて「仕立て」という言葉を使ったのは、100%ドキュメンタリーのようでいて、映像の中にいる唐さんや俳優たちが、ちょっとだけ演技をしているのではないかという、コミカルなシーンが挿入されているからである。

 実に新鮮なタッチである。吸盤に吸い込まれたように画面から目が離せず、その魅力に獲り付かれてしまう。

 監督の大島新氏は元フジテレビのディレクターで「ザ・ノンフィクション」「NONFIX」「情熱大陸」など、画期的なドキュメンタリーを撮った方だ。そして、今病に倒れていらっしゃる日本のヌーベルヴァーグの巨匠・大島渚監督のご次男でもある。

 さすがに「蛙の子は蛙」。あの偏執狂で目をギラつかせ、異常に威勢のいい唐十郎の核心に迫った。古から役者はと言われ、お金がなくて赤貧洗うが如し状態だ。だが、芝居にかける情熱だけは誰にも負けない。そんな劇団員の日常までを密着取材し、カメラに収めた。

 この切り口に、大島新監督ご自身もまた唐十郎と同じ、「ものづくりへの偏執狂」であったことが明確になるのである。

監督 大島新
出演 唐十郎、鳥山昌克、久保井研、辻孝彦、
製作・配給 いまじん 蒼玄社
2007年12月 シアター・イメージフォーラムにてロードーショー
公式サイト http://www.theatrical-kara.jp/