マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

『パブリック・エネミーズ』

2009年11月05日 | 映画
 
 最近、講演会のためにフランス映画ばかり見ていたので、久しぶりにガチガチの硬派なアメリカ映画が見たくなっていた。そんな時、前評判の高い『パブリック・エネミーズ』の試写を見ることができたので、とても新鮮な感じがした。

 このオリジナルともなる、実在の稀代の銀行強盗・ジョン・デリンジャーを描いた映画『デリンジャー』を見たのは、1973年度公開だから、確か大学1年の時だった。一番、私が映画を見ていた時代だ。付き合っていたカレシが映画研究会に属すほどのシネマディクトだったので、本当によく映画を見ていた。1日に3本は当たり前で、池袋の文芸座などで、オールナイト作品を夜を徹して見た日もあった。

 なんか、懐かしいなぁ、あの時代…。映画館も禁煙じゃなかったし、映写機の光線に反射した煙草の煙が館内に漂っていた。若さゆえに芸術家ぶって、不健康で怠惰な時間を弄び、そしてその時間を持て余してもいた。


 もちろん当時はシネコンなんてなかったし、入れ替え制もないから、一日中暗闇の映画館で過ごした日もあった。今じゃ考えられない…。

 監督は新鋭のジョン・ミリアス。『デリンジャー』は彼のデビュー作であった。主役はウォーレン・オーツだった。決してハンサムではなく、むしろ強面のオッサン顔のファニーフェイスなのだが、私はなぜかウォーレン・オーツが大好きだった。彼の出演作品ではニューバイオレンスの鬼才サム・ペキンパー監督の『ガルシアの首』が一番印象深い。実はこの『デリンジャー』の詳細については記憶が曖昧になってしまったのだが、虚空の銀行強盗のデリンジャーの哀愁がとても叙情的に描かれていて、かなり感動した憶えがある。ジョン・ミリアスという新鋭監督の斬新さや詩的なタッチに唸った憶えもある。

 そんな昔の『デリンジャー』を懐かしんで、『パブリック・エネミーズ』を見た。

 ジョン・デリンジャー演じるのはジョニー・デップ。彼を追うFBIの捜査官にクリスチャン・ベイル。そして、デリンジャーの愛人になるのが『エディット・ピアフ 愛の讃歌』でアカデミー主演女優賞に輝いたマリオン・コティヤール。ピアフ役のマリオンの怪演、見事!監督はマイケル・マン。彼の『ラストオブ・モヒガン』や『ヒート』が大好きだ。

 つまり好きな俳優陣と監督の結集でもあった。

 「面白い作品でしたか?」と聞かれると、即座に「とても面白かった」とは言えない。しかし、「いい作品でしたか?」と聞かれたら、私は開口一番「非常にいい作品でした!」と答えるだろう。

 舞台は1930年代の大恐慌時代のアメリカ。この暗澹たる時代を、縦横無尽にのびのびと銀行強盗を重ね、警察から社会の敵ナンバーワン(パブリック・エネミーズ)と烙印を押されたジョン・デリンジャー。彼は、銀行強盗はするが、決してカタギの人は殺さないので、庶民のヒーローにまで登りつめて行った。

 心のやりどころのない真っ暗な時代を浮き上がらせるように、カメラワークはセピアやダークグレイに包まれている。この演出にはハッとする。


 銀行強盗、逮捕、投獄、脱獄、そしてまた銀行強盗を繰り返すジョニー・デップ演じるデリンジャーの虚空感は、ウォーレン・オーツ演じるデリンジャーよりもシャープで非情でテキパキしていたが、恋人・マリオン・コティヤールとのはかない純愛のエピソードの挿入が、それを優しく綺麗にロマンチックに溶かしてくれる。

 ジョニー・デップが一瞬涙を流す。見逃してはならない。ジョニー・デップの涙ってこんななんだ…。

 そのシーンはあまりにも悲しくて切ない。

 12月12日からTOHO系で公開

監督・マイケル・マン
出演・ジョニー・デップ
   クリスチャン・ベイル
   マリオン・コティヤール
   ビリー・クラダップ