マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

『恋するベーカリー』

2010年02月07日 | 映画
 

 「恋するベーカリー」なんていう甘いタイトルなのだが、実はこの作品ではあまり大きな意味を持ってなかったようだ。

 夫を若い女に取られた熟年の妻役のメリル・ストリープが経営するパン屋さんのシーンは、そこそこ楽しくて美味しそうなのだが、「めざましテレビ」などのスイーツ情報に長けたスイーツ愛好家の女性たちが見ても、さほどの新しい発見は無いかもしれない。

 こういったタイトルにすることによって、より多くの女性ファンを集客しようとする意図が見え見えなのだが、このタイトルで、より多くの女性たちが映画館に足を向けてくれるなら、この作品は別の意味での価値と意義があるので、うれしい。

 原題は「It‘s Complicated」である。

 拙い英語の知識から直訳すると、「複雑だわね」かな。この原題の方が、この作品を深く意図し、的を射ている。

 若い女と再婚した元夫をアレック・ボールドウィンが演じている。若い妻の料理は高たんぱく高脂質の食べ物ばかり。いつの間にか、アレックは二段腹のメタボの巨漢になってしまった。

 このメタボが伏線になり、ある日、アレックは元妻のメリルとセックス関係を持って、復縁してしまう。

 古巣の元女房は、若い女に比べたら、肉体や容姿は劣っているものの、同じように年を重ねているからこそ健康管理に対してはパーフェクトだ。

 メタボになった元夫を自宅に呼んで、塩分や脂質を抑えた食事をご馳走する。実はこのあっさり系の食事が、この二人の今後に大きく関わってくるのだ。

 20代の今妻に熟年の元妻が勝利するこの痛快な瞬間に、劇場で見ているアラフォー、アラフィー、アラカン世代の人妻たちはきっと、溜飲を下げてこう言うだろう。

 「古妻を裏切って、20代の若い女と結婚するとこうなるんだよ!おとつぁんよ!3大成人病で死にたくなけりゃ、古女房を大切にしなよ!」と。

 何度も言うけど、「恋するベーカリー」なんてという、甘いタイトルだが、実は熟年離婚された妻の孤独感や、若い女の下に走ったオッサン年齢の夫たちへの未来への残酷な警鐘を、実にコミカルに描いている。

 さてと。これは、更年期障害に散々悩んだ私だけが気がついたシーンで、若い女性たちは、ややもすると見落とすかもしれない。

 劇中、メリル・ストリープはホットフラッシュ(突然、かーっと体が熱くなる更年期障害の特徴的な症状)に悩まされているらしい。手をウチワ代わりにして、顔に滲む汗をバタバタとはたいているシーンが何度も出てきた。

 ナンシー・マイヤーという女性監督だからこそ描ける貴重でリアルな演出だ。
 汗かきメリルのこのシーンも絶対に見逃してほしくない。

 わたくし自身はすでに更年期障害は克服したものの、同病相哀れむ…。

 もう一丁。

 女は「10年間もセックスしていないと処女に戻る」という真髄をついたセリフ。
 
 うーん。これは同世代の私にとっては、かなり身につまされ、泣けてきた。

 
2月19日から公開

【監督・製作・脚本】 ナンシー・マイヤーズ
【出演】
 メリル・ストリープ
 アレック・ボールドウィン
 スティーヴ・マーティン