まず、感動すべきは、8年間もかけてこの作品が制作されてから市場に出回るまでのプロセスである。
メガホンを撮った松井久子監督は、前作『ユキエ』『折り梅』と、自らが日本全国を行脚し、講演し、自主上映し、まさに手作りの努力が実り、口コミという手段で、のべ200万人の観客動員という快挙を果たした。
そんな健気な松井久子監督の生き様と、作品のクオリティの高さに感動したファンたちが、「松井久子監督に第3作目をどうしても撮らせたあげたい!」と立ち上がったのが、「マイレオニー」という集団である。
日本全国に点在する多くの松井ファン、それぞれが全くの赤の他人。共通項は、松井久子監督と作品の魅力だけ。
低迷する映画を支えていくのは、もはや、本家本元の映画関係者ではなく、一般庶民であった事実に胸を打たれた。古きは、市民運動の「べ平連」(ベトナムに平和を市民連合の略)がダブった。60年代から起こった「ベトナム戦争」の反戦運動は、全国の一般市民が立ち上がったことで、反戦への大きなうねりとなり、戦争に歯止めをかけた。
松井久子監督の『レオニー』も、まさに、そういった市民の力が結集し、働き、実現したと言っても過言でない。
「マイレオニー」には、一般の主婦から労働者、市民まで、と様々な人々がいる。以前、私が対談した故・筑紫哲也さんの元秘書でいらした白石順子さんも賛同している。私と白石さんのトークイベントには、「マイレオニー」の事務局の方もいらしてくださり、「映画ライターでもある瀧澤陽子さんにはいち早く見ていただきたい!」と熱心に勧められ、出来立てホヤホヤの『レオニー』の試写を見せていただいた。
世界的な彫刻家・イサム・ノグチ。ニューヨークで、彼の名前を知らないアメリカ人はいない。そのイサム・ノグチの母親レオニーが日本に単身乗り込み、日本という社会で生きた壮絶な人生を描いたこの映画に、いつの間にか私は釘付けになっていた。
全編が日本映画でありながら、英語が中心であったことも画期的だが、国籍を超えた人間の深いつながり、それも熱~いつながりが描かれていることも実に興味深い。
『レオニー』…、 庶民が動かした全く新しいタイプの作品の登場である。
11月20日から公開
【監督】松井久子
【出演】エミリー・モーティマー
中村獅童
原田美枝子
竹下景子
吉行和子
中村雅俊