山田洋次監督は現代の映画界の宝である。
宝物である以上、ずっと永遠に宝物でいて欲しいが、山田監督も人間、御年84歳である。
「男はつらいよ」シリーズが山田監督の子供ならば、今回の『母と暮せば』は、孫のような作品なのではないかと思った。
今、戦争へと誘うような不穏な動きがある日本の国家に対して、若い人間の生命を問題にした作品を作りあげ、若者の行く末に警鐘を鳴らしているからだ。
もちろん、原作は井上ひさしの「父と暮せば」。2004年、黒木和雄監督、宮沢りえ、原田芳雄主演で映画化されている。こちらは原爆投下の広島が舞台。
今回の『母と暮せば』は原爆投下の長崎が舞台。ともに、日本の戦争の歴史の中で、原爆投下の恐ろしさと悲劇を渾身の力で描いている。
長崎の原爆で最愛の息子を失った母親。息子役は「嵐」の二宮和也、母親役は吉永小百合。
幽霊となってこの世に出てきた息子と母親の何気ない会話。
「浩二はよう笑うのね」
「悲しいことはいくらでもあるけん、なるべく笑うようにしとるとさ」
この会話に『母と暮せば』の重要なファクターが込められていると思った。
とてつもないほど苦しくて、とてつもないほど悲しい話なのに、ところどころに喜劇の色が見え隠れする。どん底でも「笑う」ことは人を救う。これこそ山田洋次監督の真骨頂であるからだ。
そして、吉永小百合、二宮和也、黒木華、子役の本田望結ちゃんが、今までのどの作品にもないような深い感性で丁寧に演じている。
戦後70年。平和な日本が永遠に続いて欲しいと強く訴えているようなそれぞれの熱い演技に、私は鳥肌が立っていた。
戦争の愚かさを訴えながら、平和を守り続ける強い力が結集した素晴らしい作品だった。