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「民衆の代弁者」排除は解にあらず 政治学者・水島治郎氏 ポピュリズム考(4)

2024-10-20 07:42:36 | 日本政治・外交


政治学者で千葉大教授の水島治郎氏は「多数派支配の絶対視」
が現代ポピュリズムの大きな特徴だと説く

 

ポピュリズムが世界に広がっている。
既成の政治やエリート層に不満を持つ人々に訴え、代弁者として振る舞うポピュリストは社会の分断や民主主義の後退を招く。
 
一方、大衆の意思をくみ上げることで民主主義を補完する役割も持つ。ポピュリズムとどう向き合うか、政治家と識者に聞く4回連載の最終回。
 
 

 

 

民主主義への脅威とみなされがちなポピュリズムだが、政治学者の水島治郎氏はむしろ「多数派支配を原理とする民主主義の一部だ」と説く。

排外主義など右派ポピュリストが唱える極論は大いに批判すべきだ。ただ、彼らが民衆の不満を代弁する役割を果たしている現状は無視できず、言論の場に取り込む努力が必要だと主張する。

 

――抑圧的な政治スタイルを取ることの多いポピュリズムは、そもそも民主主義とは異質なイデオロギーなのか。

「現代ポピュリズムには確かに権威主義的傾向があるものの、それが本質とは言えない。

 

田中角栄的なバラマキ政治のイメージで語られることもあったが、それも正確さに欠ける。一番の特徴は『多数者支配の絶対視』だ。

我々は社会の多数派である民衆・人民の意思を体現している、ゆえに我々の主張は絶対的に正しいと唱えるのがポピュリスト。少数派への抑圧も、その観点で正当化されてしまう」

「注意すべきなのは、多数者支配がデモクラシー(民主主義)の基本でもある点だ。ポピュリズムはファシズムではない。武力ではなく選挙での勝利を通じた民衆の支持に権力の基盤と正統性を置いている。そうした意味で、ポピュリズムはデモクラシーの一部だと言える」

 

「ただし、ポピュリズムがデモクラシーの枠内にとどまれるかはデモクラシーの成熟の度合いによる。自由で公正な選挙と、多様な意見を容認する言論の場としての『アリーナ』。

アジアや南米の多くの国とは違い、この2つが維持されている西欧ではポピュリズムが直ちにデモクラシーを脅かすことはないだろう」

 

「7月のフランス国民議会選では最後になって中道、左派勢力が結集し、極右をルーツとする国民連合(RN)中心の政権樹立を阻止した。

オランダでも過激な反移民、反イスラムの思想を持つウィルダース氏率いる自由党が中心となって連立政権を発足させたが、連立する中道勢力が自由党の急進的な主張を抑制する役割を果たしている。

 

同じ欧州でも民主化の歴史が浅いハンガリーでオルバン政権が権威主義的ポピュリズム志向を強めているのとは対照的だ」

 


ポピュリズムは「反エリート主義」の横顔も持つという

 

 

――たとえポピュリズムがデモクラシーの枠内に収まるとしても、少数派の人権を抑圧するような主張を容認しておいてよいのだろうか。

社会の分断を黙認することにつながりかねない。

 

「ポピュリズムはデモクラシーのもう一つの要素であるリベラリズム(自由主義)と相性が悪い。20世紀に確立されたリベラルデモクラシー(自由民主主義)は国家権力の抑制と分立、少数派や人権への配慮を唱える。

ポピュリズムからするとリベラルデモクラシーはエリートの牙城だ。エリートが民衆の意向を無視して上から主張を押しつけると反発する」

 

「ベルギーのポピュリスト政治家がこう主張していた。『エリートは地球の終わりを語るが、人々は今月の終わりを気にしている』。

欧州連合(EU)の指導層は持続可能性を唱えて様々な環境規制を進めるが、割を食うのは庶民という意味だ。月末の公共料金が払えない。家賃は高く、まして持ち家は無理。反移民に生活苦と気候対策への反発が加わり、6月のEU議会選では右派ポピュリズム政党が躍進した」

 

「ポピュリストの過激な主張の仕方、自分たちが唯一正しいのだという態度は大いに批判すべきだ。ただ、彼らが語ること全てを否定したらデモクラシーとしても不健全になる。政治は『可能性の技術』。

理想や正義だけを追求すると社会はかえって分裂してしまう。現実問題から起こる様々な要求をいかにインクルード(包摂)していくかに知恵を絞るべきだ」

 

 

――日本でもポピュリズムが力を持つ可能性はあるか。

「大都市部の不満がカギを握る。戦後自民党政権は国土の均衡ある発展を唱え、大都市のお金を地方に流すシステムをつくってきた。

それに反発する都市住民の間で『自分たちの利益を積極的に代表する政治家や政党がほしい』という願いが強まり、都民ファーストの会、大阪維新の会、(名古屋の)減税日本が躍進する原動力になった」

 

「こうした地域政党はいずれも反既得権、人民(住民)中心主義を標榜する。反移民、反難民を唱える欧米の右派ポピュリズムほどではないが、既成政治に反発する『弱い』ポピュリズムが三大都市圏に生まれている」

 

 

みずしま・じろう 千葉大学教授。専門はオランダを中心とする欧州政治史、欧州比較政治。1999年東京大学大学院修了、博士(法学)。著書「ポピュリズムとは何か」(2016年、中公新書)で石橋湛山賞受賞。57歳
 
 
 

極端な行動に警戒を

「デモクラシーはポピュリズム的な部分とリベラリズム的な部分が拮抗するアリーナだ」と水島氏は強調する。

言論の場では全員が同じ意見をもつ必要はなく、他者を尊重する限りにおいては対立も容認される。こうした民主主義の原則をいま一度確認すべき時にきている。

 

「そんな融和的な態度では手遅れになる」との批判はリベラリズムの側から当然あるだろう。

だが、ポピュリストが民主主義的プロセスの枠内にとどまる限り、彼らの一方的な排除は社会をいっそう不安定にするかもしれない。最も大切なのは極端な行動に走る人々を生まないことだ。

(郷原信之)

 
 
 
 
日経記事2024.10.20より引用
 
 

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