北朝鮮の金正恩総書記が視察した砲弾の発射訓練=朝鮮中央通信・共同
【ソウル=甲原潤之介】
北朝鮮がロシアに送った弾薬が900万発を超えたという試算が韓国政府から出た。地下に隠した工場で製造し、自国の分も戦時に最大3カ月持ちこたえられる量を確保する。
弾薬の原料は自給する半面、ミサイルに用いる半導体は米欧や日本の製品を流用している形跡がある。
韓国国防省の情報部門、国防情報本部が、韓国与党「国民の力」の姜大植議員の質問に書面で答えた。兵の派遣と軍需物資の両面で、北朝鮮がロシアのウクライナ侵略を全面的に支える実態が明らかになりつつある。
韓国の情報機関は北朝鮮北東部の羅津港とロシア極東の船舶の往来状況を衛星などで監視する。国防情報本部によると、北朝鮮がロシアに搬出したコンテナは累計で2万個を超えた。すべてロシア規格の152ミリメートル砲弾だと仮定すると940万発と推計できるという。
韓国政府は6月時点で、北朝鮮の弾薬輸送量を500万発と推定していた。事実なら月100万発のペースで輸送していることになる。
欧州連合(EU)が23年に立てたウクライナへの支援目標は「年間」100万発だった。
これほどの規模の弾薬を輸送しても、北朝鮮は自身の弾薬備蓄まで十分確保できていると国防情報本部は予測する。
最大3カ月、戦争を続けられる物資を確保しているといい、ロシアへの輸送が「戦時備蓄量に大きな影響を及ぼしているとはいえない」と推定した。
軍需工場の数については「およそ200カ所」と推測した。主要な工場は戦時下の爆撃を避けるため地下に整備されている。ロシアへの輸出のため「最大限稼働している」と説明する。
弾薬の原料となる金属や合金、火薬などは自主調達ができるという。北朝鮮は域内に豊富な鉱物資源を持ち、鉄鉱石の埋蔵量は50億トンとの試算もある。
韓国銀行の推計によると23年の北朝鮮の国内総生産(GDP)は重化学工業が8.1%増えた。鉄鋼生産が増加したとみられる。
朝鮮中央通信は8月、各地の製鉄所で技術改良に取り組む記事を報じた。金策(キムチェク)製鉄連合企業所では転炉の更新や建物の補修などで「生産能力が倍に増えた」としている。夏の水害復旧もあり、鉄の需要が拡大していることがうかがえる。
一方、精密打撃に使うミサイルの生産には一般の弾薬より多様な材料が必要になる。北朝鮮が調達に苦労しているとみられるのが半導体だ。核・ミサイル開発に伴う制裁で禁輸措置がとられている。
国防情報本部はウクライナで使用された北朝鮮製ミサイルの残骸から、米欧や日本が製造した部品が確認されたと明らかにした。制裁網の外で容易に購入できる商用品から半導体などの部品を取り外し、武器に流用していると推測する。
北朝鮮は短距離弾道ミサイル「KN23」や「KN24」をロシアに提供したとみられている。命中率が低いといった証言があり、国防情報本部は半導体などで汎用品を使用せざるを得ないことが影響していると予想する。
「KN23」などのミサイルは北朝鮮が韓国国内への攻撃能力を確保する目的で開発した。韓国の国家情報院によると、北朝鮮は朝鮮労働党ミサイル担当の金正植(キム・ジョンシク)軍需工業部副部長を8月はじめにウクライナ戦線付近に送り込んでいたという。
戦地で使用したデータを今後の兵器開発に生かす可能性が指摘されている。
金正恩(キム・ジョンウン)総書記のもと、ミサイル発射や核開発などをすすめる北朝鮮。日本・アメリカ・韓国との対立など北朝鮮問題に関する最新のニュースをお届けします。
日経記事2024.10.27より引用