法人税率の引き上げを掲げるハリス氏の公約でも、実現すれば財政悪化になる見通しだ=AP
【ワシントン=高見浩輔】
超党派の「責任ある連邦予算委員会」は7日、次期大統領選の両候補の公約が財政に与える影響について試算を公表した。
共和党候補のトランプ前大統領は2026〜35年度で7.5兆ドル(1100兆円程度)の赤字要因となる。法人増税を掲げる民主党候補のハリス副大統領でも赤字拡大は避けられない見通しだ。
減税策を掲げるトランプ氏の政策は軍事費の拡大から不法移民の国外退去まで、手法や規模があいまいな主張が大きい。
同委員会は赤字の増加幅について1.45兆ドルから15.15兆ドルまで予想に差があると説明している。
ハリス氏の場合は計3.5兆ドル(510兆円程度)の財政赤字要因になると見通した。
法人税や富裕層への課税強化などバイデン政権が実現できなかった公約をほぼそのまま踏襲しているため、赤字幅はトランプ氏の公約より小さく見積もられた。
来年1月に発足する新政権にとって財政面で最大の課題となるのが、2025年に期限を迎えるトランプ減税だ。
前政権が17年に導入した個人所得減税などで、トランプ氏は恒久化を訴える。実現すれば10年で5.3兆ドルを超える財政悪化要因となる。
トランプ氏はさまざまな減税策を掲げるが、たとえば法人税率の21%から15%への引き下げは対象が国内生産をする一部製造業に限られる。
財政赤字をわずかに0.2兆ドル押し上げる程度の影響しかない。大きな部分はトランプ減税の恒久化が占める。
トランプ氏は民主の候補がハリス氏となり接戦になると、残業代や社会保障給付などを非課税とする案を相次ぎ打ち出した。
こうした減収分を取り戻す財源として、関税の引き上げを掲げている。
10%の一律関税の導入と中国製品に60%の税率を課す案では2.7兆ドルの黒字要因となる。一律関税が20%なら収入は4.3兆ドル増える。
ただ引き上げた関税は米国民が輸入品に支払う金額に上乗せされるため、高インフレなどの副作用が指摘される。
ハリス氏を含めた民主党はトランプ減税の導入時に反対票を投じたが、いまは実質的に一部延長を支持している。
収入40万ドル(約6000万円)未満の世帯には税負担を増やさないと明言しているためだ。
実際に「税負担を増やさない」という公約をどう実現するかは明らかにしておらず、ハリス政権が誕生した場合の扱いは不透明だ。
同委員会は3兆ドル分の減税が延長されるとみる。調査機関タックス・ファンデーションは2兆ドルと見立てており幅がある。
ハリス氏は法人税の28%への引き上げやキャピタルゲイン課税の強化などバイデン氏の公約を引き継ぐ。
財政悪化の幅がトランプ氏より小さいのは、こうした財政改善分を計4兆ドル近く見込むためだ。
もっともホワイトハウスと上下院のいずれかで支配政党が異なる「ねじれ議会」になれば、党派で主張が真っ向から食い違う法人税などの税率変更は極めて困難になる。
米リアル・クリア・ポリティクスの集計によると、上院は現時点で共和が100議席のうち53議席で多数派を占める勢いだ。
下院はどちらが優勢ともいえない地区が多く、両党とも過半となる218議席を見込める予想になっていない。
トランプ大統領でも「ねじれ」に陥る可能性は小さくないが、ハリス氏の場合は特に大きい。ただでさえ法人税の引き上げには民主内でも中道派を中心に慎重な声がある。
米ゴールドマン・サックスは、もしも民主が議会で圧勝しても増税案がすべて可決することはないと予想している。
同委員会の試算では24年度に国内総生産(GDP)比で99%の政府債務残高は、ハリス政権の場合で35年度に133%、トランプ政権なら142%に膨らむ。
高齢化による社会保障費の膨張と雪だるま式に増える利払い費で予算の自由度も制約が強まる。
米国の財政悪化がどこまで許容されるのか明確な線引きはないが、市場の信認を揺さぶる動きは起きている。
大手格付け機関で唯一、米国の最上位格付けを付けているムーディーズ・レーティングスは9月、格下げの可能性を警告した。
米国全体で与野党が拮抗するなか、議会は毎年の予算案ですら期日通りに成立させられない事態が続いている。
政府の債務上限を引き上げる交渉も難航し、23年5月には米国債が史上初めてデフォルト(債務不履行)に陥る寸前まで追い込まれた。
当時は財政責任法を成立させて債務上限の効力を停止したが、その期限は25年1月に迫る。新政権は発足と同時に財政を巡る問題に直面することになる。
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日経記事2024.10.08より引用