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キャッシュレス全盛 それでもATMがなくならないワケ    金融PLUS 金融グループ次長 中野貴司

2024-10-20 08:14:09 | 世界経済と金融


関東地方を地盤とするベルクの約90の店舗にはローソン銀行の新型ATMが設置されている(写真は東京都内の店舗)


電子マネーの普及で現金の入出金ニーズが急速に減るなかで、ATMが多様化に活路を見いだしている。

設置場所も銀行の支店から小売店舗や駅などへの置き換えが進む。最新型のATMを武器に新興の流通系銀行が攻勢をかけており、数を減らす大手や地方銀行との戦略の違いが際立っている。

 

 

 

セブン・ローソン銀は利用件数増


セブン銀行の推計によると、国内に設置されたATMはここ数年、毎年3千〜4千台ずつ減っている。直近の2024年3月末のATM台数は前年同月比1.7%減の17万6千台となった。

 

 

 

 

ATMの台数以上のペースで減っているのが、現金の引き出しや残高照会の利用件数だ。

他行のATMでの引き出しに限定した統計ではあるものの、全国銀行協会の集計では、23年の現金の引き出し件数は1億5864万件と、5年前の2018年の2億2935万件に比べ31%減少した。

 

10年前の2013年(2億7596万件)比では、43%の大幅減だ。残高照会も23年は7385万件と、10年前から49%減った。

ATM事業は今後も先細りが避けられないようにみえるが、別のデータをみると異なる風景が見えてくる。

 

全国に2万7千台以上のATMを配置するセブン銀行では24年4〜6月期の1台あたりの日々の利用件数が107.6件と前年同期に比べ3.2件増えた。

同じ流通系のローソン銀行でも24年4〜6月期のATM総利用件数は前年同期比で6.7%増えている。

 

 

 

ホテルのチェックインも可能に


2つの銀行に共通するのが新たなニーズの取り込みだ。特に利用件数を押し上げるけん引役となっているのが、電子マネーの入金需要だ。ローソンでは総利用件数に占めるQRコード決済や電子マネーのチャージ利用の割合が足元で18.4%に達する。

チャージはスマホなどでもできるものの、銀行口座やクレジットカードを電子マネーにひも付けることに不安を覚える消費者は少なくない。残高が少なくなる度にATMでチャージすることで、野放図な電子マネー利用に歯止めをかけようとする消費者もいる。日本独特ともいえるこうしたATMの利用が、現金の入出金ニーズの減少を補っている。

 

新たなニーズは電子マネーにとどまらない。セブン銀行のATMでは12月にも、スマートホテルソリューションズ社の運営するホテルのチェックインができるようになる。

宿泊客はホテルに向かう途中などにATMで予約時に発行されたQRコードをかざせば手続きが終わり、ホテル到着時のチェックイン作業は不要になる。

 

 

 

今はマイナンバーカードを健康保険証として利用するための申し込み手続きもATMで可能だ。海外送金を手がける事業者との提携も広がっており、日本で働く外国人も本国への送金にATMを頻繁に利用する。

ただし、全てのATMでこうした新たなサービスが利用できるわけではない。ATMの多機能化には新たな投資が不可欠で、入出金や残高照会に用途が限られる旧来型のATMと新型ATMの機能の格差は広がっている。

 

関東地方を地盤とするスーパーマーケットのベルクは4月以降、ローソン銀行のATMを店舗に導入し始め、設置店舗数は14日時点で88まで増えた。

ベルクがローソン銀行のATMを選んだのは「キャッシュレス決済の多様化を見据えた」ためだといい、多様な電子マネーをチャージできる最新性を評価したことがわかる。

 

 

「リアルな端末は必要」


新規投資に積極的なセブン銀行などのATM数が増える一方、都市銀行や地方銀行のATMはこの5年間でそれぞれ約3割、約2割減っている。

流通系銀行のATMはコンビニエンスストアやスーパーが中心で、イオン銀行はグループのドラッグストアにも設置先を広げている。ATMの担い手の主役交代が、設置場所の変化も加速させている構図だ。

 

 

多機能化やATM設置場所の「脱・銀行店舗」の流れは今後も加速する見通しだ。

流通系のようにATMを競争力の源泉と位置づける銀行と、自らは積極的に設置せず提携によってATM網を維持しようとする銀行の二極化が進む。三菱UFJ銀行と三井住友銀行が2019年に店舗外のATMの相互利用を始めたように、ライバル同士が手を組む事例もさらに増える可能性がある。

 

セブン銀行の深沢孝治常務執行役員は「ATMという存在は将来もなくならない」と強調した上で、「ATM事業に取り組めば取り組むほど、リアルなサービス端末は必要だとの思いを強くする」と話す。

ローソン銀行の松山恵介取締役も「我々は時代が変わってもリアルな拠点が大事だと思っており、その価値を追求していく」と同調する。

 

セブン銀行は日本で蓄積したノウハウを基に、米国やインドネシア、フィリピンでもATM事業を拡大している。

独特の進化を遂げる日本のATMが今後もイノベーションを生み続けることができるなら、キャッシュレス全盛の時代でも存在価値は低下しないはずだ。 

 

 

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※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

 

 

 

 

 

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楠正憲
デジタル庁統括官 デジタル社会共通機能担当
 
分析・考察

コンビニATMは街中で手軽にお金を下ろすだけでなく、電子マネーのチャージや諸手続、マイナポイントの登録など行政サービスの窓口としても使われるなど、社会のインフラとして広く定着しています。

長くゼロ金利が続く中で店舗やATMの統廃合を進めたい銀行と、来店機会を確保したいコンビニとの利害が一致し、銀行だけでなく市役所や郵便局の窓口が減少する一方で、不正防止のために厳格な本人確認が求められる手続きが増える流れに乗って成長しました。

これまでATMの多機能化は治安の良い日本固有のトレンドでしたが、キャッシュレスが定着しつつある中で、記事にあるようなアジア諸国でも受け入れられるのかが注目されます。

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野崎浩成
東洋大学 国際学部教授
 
別の視点

ATM利用状況に関しては、入出金やチャージ等の内容から消費動向や 景気の実態を知る上でも、有用なデータが獲得できます。

経済状況が悪くなると出金額全体は減るものの件数は増え、回復するとこの反対となる傾向があるようです。

恐らくチャージに関しても、同様の特徴があるかもしれません。

家計の先行きが不透明なほど慎重になり取引が小口化し、好転するほど気持ちにゆとりが出るのは自然な消費者行動だと思います。 ひとえに、実質賃金が増加し、取引の大口化が進むことを望むばかりです。

 (更新)
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日本・海外の金融政策の「先読み」や金融ビジネスの裏話を、経験豊富なエディター陣が解説します。普段の金融報道に「プラス」を与えるコラムです。

 

 

 

 

日経記事2024.10.20より引用

 

 

 

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