自立した生活を送っている日本の高齢者を対象とした研究(*1)で、たんぱく質の摂取量が多い(総エネルギー摂取量に占めるたんぱく質由来のエネルギー量の割合が多い)人ほど、死亡リスクが低いことが明らかになりました。

 

日本人の高齢者にたんぱく質はどれくらい必要か?

 筋肉量の低下やフレイル(心身の活力が低下した虚弱状態)を予防するために、たんぱく質の積極的な摂取が推奨されています。

しかし、特に高齢者においては、何をどのくらい食べればよいのか、摂取量が少ないことが総合的な健康状態にどのような影響を及ぼすのか、といった点が十分に示されていません。

 

 海外で行われた、たんぱく質の摂取量と死亡リスクの関係について検討した研究は一貫した結果を示せていませんが、背景には食習慣の違いがあると考えられます。

日本人にとって有益な情報を得るためには、日本人を対象とする研究が必要です。

 

そこで、慶應義塾大学医学部の倉田英明氏らは、日本の高齢者を対象に、たんぱく質の摂取と死亡の関係を検討することにしました。

対象としたのは、身体に障害がなく、自立した日常生活を送っている85~89歳の高齢者1026人を登録・追跡している「川崎元気高齢者研究」の参加者です。

 

参加者の中から、食事に関する質問票を用いた調査を完了しており、認知機能検査で認知症が疑われなかった833人(平均年齢86.5歳、女性が50.6%)を選びました。

BMI(体格指数、体重〔kg〕を身長〔m〕の 2乗で割った値)の平均は23.1で、骨格筋量指数(四肢の筋肉量の合計〔kg〕を身長〔m〕の 2乗で割った値)は7.33、男性は8.25、女性は6.45でした。

 

 

食事におけるたんぱく質の割合が多い高齢者ほど死亡リスクが低いことが明らかになりました。(写真:aamulya/stock.adobe.com) 

食事におけるたんぱく質の割合が多い高齢者ほど死亡リスクが低いことが明らかになりました。

 

たんぱく質摂取が最多の群では死亡リスクが56%減

 対象者の総エネルギー摂取量に占めるたんぱく質由来のエネルギー量の割合は、平均17.0%でした。

この値の低い人から順番に対象者を並べて四等分したところ、最低四分位群は14.7%未満、第2四分位群は14.7%以上16.7%未満、第3四分位群は16.7%以上19.1%未満、最高四分位群は19.1%以上となりました。

 

 各群の特性を調べたところ、たんぱく質の摂取量が多いグループには女性が多く、残っている自分の歯の数も多いことが分かりました。

 

どのグループも総エネルギー摂取量はおおよそ2000キロカロリーでした。

たんぱく質由来のエネルギーが増加するにつれて減少していたのは炭水化物由来のエネルギーで、たんぱく質摂取の増加とともに増えていたのは脂質由来のエネルギーでした。

 

植物性たんぱく質の摂取量は4群間で同様で、たんぱく質摂取の増加は、肉や魚などの動物性たんぱく質に由来していました。

肉の摂取量を最低四分位群と最高四分位群で比較したところ、最高四分位群の摂取量が2倍超となりました。同様に、魚介類の摂取量は最高四分位群で3.5倍弱でした。

 

平均1218日の追跡期間中に89人が死亡しました。内訳は、最低四分位群の29人と、第2四分位群の31人、第3四分位群の17人、最高四分位群の12人でした。

年齢、性別、骨格筋量指数、病歴(心血管疾患、がん)、学歴、血清アルブミン値(血液中のたんぱく質の一種)を考慮して分析したところ、最低四分位群に比べ最高四分位群では死亡リスクが56%低く、たんぱく質の摂取量が多いほど死亡リスクが低くなる傾向が認められました。

 

自立した日常生活を送っている85歳以上の高齢者において、たんぱく質の摂取が多いことは、骨格筋量とは無関係に死亡リスクの低下と関係することが明らかになりました。

*1 Kurata H, et al. BMC Geriatr. 2023 Aug 9;23(1):479.

 

 

 

大西淳子(おおにし じゅんこ)
医学ジャーナリスト
大西淳子(おおにし じゅんこ)

筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。
 
公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
 
 
 
日経記事2024.03.12より引用