ハーバード大の地球惑星科学助教ナジャ・ドラボン氏らは南アフリカのマコンジュワ山脈
で研究を行った/Nadja Drabon/Harvard University
(CNN)
今から30億年以上前、エベレスト山四つ分の大きさと推定される巨大な隕石(いんせき)が地球に衝突した。
研究によると、その衝撃は、意外にも地球上の初期の生命体にとって有益だった可能性があるという。
通常、巨大な隕石が地球に衝突すると、その衝撃は壊滅的被害をもたらす。6600万年前、現在のメキシコのユカタン半島沖に幅約10キロの小惑星が衝突したことにより、恐竜が絶滅した。
しかし、32億6000万年前、恐竜を絶滅に追い込んだ小惑星チクシュルーブの50~200倍の質量と推定されるS2と呼ばれる隕石が地球に衝突した時、地球はまだ若く、現在とは全く異なる場所だった、と語るのは、ハーバード大学の地球惑星科学助教ナジャ・ドラボン氏だ。
ドラボン氏は、S2隕石の衝突とその後の影響について詳述した研究論文の主執筆者でもあり、同論文は先ごろ学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。
「(S2隕石の衝突時は)まだ複雑な生命は形成されておらず、細菌や古細菌といった単細胞生物だけが存在していた」とドラボン氏は述べ、さらに次のように続けた。
「おそらく、当時の海にも生命は存在していただろうが、栄養分が不足していたこともあり、その数は現在ほど多くはなかっただろう。
始生代の海を『生物学的砂漠』と表現する人もいる。始生代の地球は、ごくわずかな島が浮かんでいるだけの水の惑星だった。鉄分を豊富に含む緑色の海が広がり、奇妙な光景だったことだろう」
S2隕石の衝突は地球全体を混乱に陥れたが、その衝撃でさまざまな成分が放出され、それらが細菌の増殖に寄与した可能性がある、とドラボン氏は指摘する。
巨大隕石「S2」衝突後の出来事を示した図/James Zaccaria
研究者らはこの岩の層を調査することでS2の衝突が地球規模の津波を引き起こしたと判断した/Nadja Drabon/Harvard University
隕石衝突の甚大な影響
S2隕石の地球衝突時の直径は37~58キロメートルで、その影響は迅速かつ甚大だったとドラボン氏は語る。
津波が地球全体を襲い、衝突によって生じた熱は強烈で、海の表層が沸騰し、蒸発するほどだった。
ドラボン氏によると、海水が沸騰・蒸発すると、衝突直後の岩石に見られるような塩分が形成されたという。
衝突によって大気中に放出された塵(ちり)により、衝突から数時間以内に地球の反対側でも空が暗くなった。
大気の温度は上昇し、厚い塵の雲が日光を遮り、微生物は日光をエネルギーに転換できなくなった。
陸上や浅水域に生息する生物は、衝突の直後から悪影響を受け、その影響は数年から数十年にわたって続いたと考えられる。
最終的に降雨によって、海の表層が回復し、塵も海に沈んだ。
しかし、深海の状況は海上とは異なっていた。津波で鉄などの成分が巻き上げられ、海面に浮上した。
また浸食により、沿岸のごみが洗い流され、隕石に含まれていたリンが放出された。実験室での分析から、隕石の衝突直後に鉄やリンを栄養源とする単細胞生物が急増したことが分かっている。
ドラボン氏によると、生命体は急速に回復し、その後繁栄したという。
ドラボン氏は「隕石の衝突前も、海には多少の生物は生息していたが、それほど多くはなかった。
これは、浅海で栄養素や鉄のような電子供与体が不足していたためだ」と述べ、さらに次のように続けた。
「しかし、隕石の衝突でリンなどの重要な栄養素が世界規模で放出された。ある学生はこの衝突を『肥料爆弾』と表現した。全体的に見ると、これは地球上の初期生命体の進化にとって非常に良いニュースだ。
なぜなら、生命の進化の初期段階では隕石の衝突が現在よりもはるかに頻繁に起こっていたからだ」
衝突の影響はさまざま
S2と小惑星チクシュルーブの衝突は、異なる結果をもたらしたが、これは隕石の大きさや、衝突時の地球の環境の違いによるものだ、とドラボン氏は説明する。
チクシュルーブ衝突体は、地球の炭酸塩プラットフォームに衝突し、大気中に硫黄を放出した。この硫黄がエアロゾルを形成し、地表の気温を急激かつ極端に低下させた。
そして、どちらの衝突でも、多くの生命体が死滅したが、S2の衝突の後、浅瀬に生息する太陽光依存型の頑強な微生物は、海が再び満たされ、塵が沈んだ後、急速に回復しただろうとドラボン氏は推測する。
ドラボン氏は、「S2衝突時の生命ははるかにシンプルだった」とし、「朝、歯を磨くと、口の中の細菌を99.9%除去できるかもしれないが、夕方までに元に戻っている」と付け加えた。
CNN記事2025.2.7より引用