イオンモール太田の外観(写真:イオンモール)
イオンモールが運営するショッピングモールのイオンモール太田(群馬県太田市)と富士通は、トイレ内の安全性の確保を目的とした実証実験を進めている。
トイレでは特にプライバシーへの配慮が必要なため、映像を使わずに匿名で利用者の行動を把握できるミリ波レーダーを採用した。
バリアフリートイレ内にミリ波レーダーを設置し、得られた点群データを人工知能(AI)が解析することで、転倒などの早期検知に役立てる。富士通は2025年3月までにこの見守り技術のサービス化を目指す。
イオンモール太田は24年4月のリニューアルによる増床に向けて、男女共用で利用できるバリアフリートイレの設置を計画しており、トイレ内における転倒などの検知が難しいことに課題感を持っていた。そこで、23年7月にイオンモール太田が富士通に相談したことをきっかけに実証実験が始まった。
トイレ内の安全性確保に加え、利用状況の把握も大きな課題だったという。バリアフリートイレの中には、ドアが自動で閉まるボタンが内側に設置されているものがある。
このボタンを押すと、使用中であることがトイレの外に示されることが多い。ところが「トイレの利用を終えた後に内側の閉まるボタンを押し、ドアが閉まる間にトイレを出る利用者がいる」とイオンモールの岡田慶太郎イオンモール太田オペレーションマネージャーは指摘する。
この場合、トイレが空いているにもかかわらず長時間占有されてしまう。このため、イオンモール太田はトイレが実際に使用中かどうかを把握できる技術を求めていた。
個人を特定できないミリ波レーダー
トイレ内では特にプライバシーが問題になるため、カメラを設置した見守りは難しい。便座に圧力センサーを取り付けることも検討したが、利用者が必ず便座に座るわけではないため、正確な利用状況を把握できない。
そこで、岡田オペレーションマネージャーは富士通が22年7月に発表したミリ波レーダー技術に着目した。「ミリ波レーダーは、利用者の行動を秘匿性が高いデータとして取得できる」と富士通のJapanリージョンソーシャルシステム事業本部共通テクノロジー事業部の近藤梨央氏は話す。
イオンモール太田から相談を受けた富士通は、24年1月から2月まで、バリアフリートイレで1回目の実証実験を実施した。
実証実験では、イオンモール太田のバリアフリートイレ内にミリ波レーダーと点群データを送信するための無線LANルーターを設置。ミリ波レーダーは、便座の正面にある壁に設置した。「便座の正面の壁に設置することで、利用者の点群を高精度で取得できる」と近藤氏は話す。
実証実験中のバリアフリートイレ。便座の正面の壁にミリ波レーダーを設置(写真:日経クロステック)
ミリ波レーダーを用いて、数ミリ秒ごとにトイレ内の設備や利用者の位置を点群データとして取得する。
このとき、数十秒前の点群データと組み合わせて、粒度が細かい点群データを構築する。約140人の約50種類の行動パターンを学習したAIが点群データを解析し、歩行や転倒といった利用者の行動を推定する。
点群データとAIの推定結果はクラウドに転送され、管理者が確認できる。利用者の転倒を検知した場合は、警備員の携帯電話にショートメールで通知するという。
トイレ利用者の見守り技術のイメージ(出所:日経クロステック)
1回目の実証実験の期間中、トイレ内で転倒した利用者はいなかったため、転倒の検知例はなかったが、おむつの交換台などの器具の利用率を定量的に把握できたという。
岡田オペレーションマネージャーは、「トイレ内の利用状況を知ることで、器具の配置や清掃の頻度などの検討に役立てられる」と語る。
2回目の実証実験は、24年4月のリニューアルで増床したエリアにある2つのバリアフリートイレで実施している。
25年1月まで実証実験を行い、本技術の有効性を評価した上で、富士通がサービス化を目指す。イオンモール太田は引き続き本技術の活用を検討していくという。
(日経クロステック/日経コンピュータ 奥浜駿)
[日経クロステック 2024年11月14日付の記事を再構成]
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日経記事2024.11.29より引用