税制優遇を受けながら老後資金を作る個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)。会社員の一部や公務員の掛け金の上限額が上がる。
従来月1.2万円だったが、12月から2万円になる。対象者は千数百万人だ。掛け金を増やせば受給額も大きくしやすいため、忘れず自ら手続きしたい。
「金融機関勤務の友人から掛け金が上がる話を聞き、近く手続きする」と話すのは食品会社勤務の男性(42)。
「長女の中学受験などで余裕はないが、老後資金をためるのも不可欠」と考える。
自分の運用次第で受給額が変わる確定拠出年金(DC)は、原則として、会社がお金を出す企業型と、自分で出す個人型がある。個人型の愛称がイデコだ。
加入は65歳未満までだが、来年の法改正で70歳未満まで延長されそうだ。運用対象は投資信託や預貯金、保険など。受給は60歳以降で9月末の加入者は344万人だ。
税制優遇は3段階で手厚い。毎年の掛け金は所得から控除され「掛け金×その人の税率(所得税と住民税の合計)」分の節税効果がある。例えば掛け金年24万円、税率20%なら4万8000円。
運用期間中は非課税で増やせる。受給時は全額(掛け金と運用益)が課税対象だが、退職所得控除などの非課税枠があり、うまく使えば税金を軽減またはゼロにできる。
掛け金の上限は勤務先などで変わる。企業型DCだけなら月2万円だが、将来の受給額が決まっている確定給付企業年金(DB)のある会社や公務員は、11月までは月1万2000円と少ない。
不公平との指摘から、2020年の制度改正で、今年12月からの月2万円への増額が決まっていた。
掛け金増の効果は大きい。税率20%の人が月1万2000円の掛け金で20年加入し、年4%で運用できれば、元本と運用益、掛け金の節税効果の合計は約500万円だ
。しかし月2万円なら合計額は約830万円と約7割増だ。
ただし対象者の全員が2万円になるわけではない。条件は「2万円」、または「企業年金全体の枠である5万5000円から会社の掛け金(DBとDCの合計)を引いた額」の小さい方だからだ。
例えばDB掛け金3万円、企業型DC掛け金1万5000円で計4万5000円なら、イデコの上限は1万円となる。つまり会社掛け金が合計3万5000円超なら、イデコは2万円未満になる。
ただこうした例は少数で対象者の大半は上限が2万円になる。会社掛け金は、DBは会社から加入者に11月までに通知され、企業型DCは加入サイトでわかる。
金額の引き上げは自動的にはなされず、イデコの契約をした金融機関で自分で手続きする必要がある。掛け金の引き落としは翌月だが、12月分から増額したい場合、12月初旬までなど早めの手続きを求める金融機関が多い。
イデコ以外に選択肢がある場合はどちらを選ぶべきか。具体的には本来は会社が出す企業型DCの掛け金に自ら上積みする「マッチング拠出」と、一定金額を企業型DCの掛け金にするか、前払い退職金や給与などとしてもらうか選ぶ「選択制企業型DC」がある。
まず口座手数料。マッチングや選択制では通常、口座手数料は会社負担だ。イデコは自己負担だが、年2000円強で済む金融機関が増えている。商品はマッチングや選択制では会社の品ぞろえの中からしか選べない。イデコは超低コストの投資信託など、投資したい商品がある金融機関を選べる。
どちらが多く掛け金をかけられるかも大きなポイントだ。まず企業型DCがある会社の約3分の1程度が導入済みのマッチング拠出。加入者はマッチングかイデコかを選択できる。マッチングの税制優遇はイデコと同じで、掛け金額が大きいほど節税になる。
マッチングの拠出額は企業型DCの会社掛け金以下と決まっている。企業型DCの会社掛け金が2万円未満ならマッチングも2万円未満。イデコを選べば2万円が上限なのでイデコが有利だ。
会社掛け金が2万円超なら、マッチングの方がイデコより増える。会社掛け金が3万5000円以上になれば、マッチングでもイデコでも掛け金は5万5000円との差である2万円以下となり同額だ。
次に選択制DCは「上積み型」と「給与減額型」がある。上積み型は退職給付制度向けに会社が用意した資金を原資に一定額を前払い退職金などとするか、DCの会社掛け金にするか選ぶ。給与減額型は給与を一定額減らし会社掛け金にするか、給与のまま受け取るか選ぶ。
非常に増えているのが給与減額型だ。掛け金を選び給与が下がれば、税金に加え社会保険料も減りやすい。イデコやマッチングが税金だけ減るのと異なる。
選択制の上限額は他の企業年金の有無などで多様。通常は会社が制度の範囲内で独自に上限額を決めているため会社に確認したい。
ただ導入済みの選択制はDBとの合計が5万5000円を超えていても今後も一定条件で継続できる特例もあり、イデコより選択制の掛け金が大きくなることが大半。都内の会社員(55)は「イデコで買いたい商品があったが、枠の大きさから選択制にした」と話す。
一方で給与減額型の選択制では、掛け金を選んで給与と社会保険料が連動して減ると、将来の厚生年金や健康・雇用保険の給付減など不利益もある。
特に収入が相対的に低い中小企業の従業員は、社会保険の給付が減る影響は小さくない。勤務先から説明を受けたうえで判断すべきだ。
職場の証明不要、加入者増も
イデコはこれまでDBだけを導入する会社と公務員は、掛け金を毎月ではなく年単位で支払うことも可能だった。しかし12月以降は毎月の支払いだけになる。
「年単位での支払い契約にしている人は毎月支払いに変えないと、12月分から引き落としが停止されてしまう」(確定拠出年金アナリストの大江加代氏)。対象者は数万人とみられ、早めに金融機関で手続きしておきたい。
12月からは加入時の手続きが大きく簡素化される。これまではイデコの実施主体である国民年金基金連合会に対し掛け金上限額を証明する「事業主証明」を、勤務先に発行してもらうことが必要だった。
これが加入手続きをオンラインだけで済ませる障害になっていたうえ、勤務先の事務作業も煩雑にしていた。資産運用に理解のない一部の企業などで、「イデコなどやらず仕事に専念しろ」などと言われる「イデコハラスメント(イデハラ)」の発生が指摘されたこともあった。
12月からはシステムの改革でDC、DBの掛け金を国基連が自動的に把握できるようになり、証明書が廃止になる。大江氏は「イデコの加入がオンラインだけで完結できるようになり、加入者の増加にもつながりそう」と指摘している。
(編集委員 田村正之)