「どうしても出席してもらいたい」
2024年12月、ホンダ社長の三部敏宏は日産自動車との経営統合に向けた協議入りの会見で、三菱自動車社長の加藤隆雄が出席することにこだわった。
統合協議入りの会見日程を変更
当初は記者会見を20日に開く予定だったが、加藤はその日に主力拠点のインドネシアで記念式典があったため出席は難しかった。それを聞いた三部は記者会見の日程を23日に先送りした。
三部は日産以上に三菱自を欲しがっていた。なぜか。
【連載 ホンダ・日産破談への道程】
三菱自は独自のプラグインハイブリッド車(PHV)技術があり、東南アジア市場で人気の悪路に強い車種を持つ。ホンダにはない強みがある三菱自が魅力的に映った。
だが、三菱自には安易に手出しはできなかった。三菱自の筆頭株主は日産で27%の株式を持つ。日産の理解が得られない限り提携できない。三部は23年から加藤に事あるごとに秋波を送っていた。
加藤は三部のメッセージを受け取りながらも、一定の距離を保った。電動化やソフトウエアには巨額投資が必要となる。「個社単独での生き残りはできない」ことは知っていたが、危機感があった。安易に大手と一緒になれば、「ひとたまりもなくのみ込まれる」。
そんな三菱自の警戒感を察していたホンダは、日産との提携協議を通じてうまく三菱自との距離を縮めようとした。
三部と内田で協業申し入れ
三部は24年7月末、日産社長の内田誠と一緒に協業への参画を申し入れた。加藤は経営統合ではなく協業ならメリットがあると考え、前向きに捉えた。
8月1日、ホンダと日産の協業発表の会見。加藤の姿はなかったが、ホンダは三菱自が協業に参画をするという文言を加えることができた。ホンダと三菱自の距離は近づいた。
だが、9月以降はホンダと日産の協業の交渉が進展せず、加藤も静観していた。事態は12月に動いた。
三部と内田は経営統合に向けた協議入りで一致し、加藤に枠組みに参画してほしいと申し入れた。三部は日産だけでなく三菱自とも経営統合し、トヨタ自動車に対抗する勢力をつくろうと一気に動いた。
「関与」の文字で逃げに一手
ホンダ・日産の統合に参画すれば、のみ込まれる――。加藤は合流するかどうか検討するとしつつも、逃げの一手を打てるように発表文にある文言をしのびこませた。
両社の経営統合協議に三菱自は参画・関与を検討すると、あえて「関与」の文字をいれた。関与は協業にとどまるとの意味をもたすことができる。加藤は両社の統合協議の行方を冷静に見極めたいと考えた。
「経営統合ありきではない」
年が明けると、加藤は各所でこう説明して回った。加藤の真意は伝わらず、あたかもホンダや日産と並んで三菱自も持ち株会社の完全子会社に収まる印象だけが世間でひとり歩きした。
三菱グループは完全子会社化に反対
火消しを迫られた背景には、三菱グループの無言の圧もあった。ホンダ・日産の統合構想を知ったグループ御三家のある首脳は三菱自動車は「三菱グループの一員」と加藤に釘を刺した。
産業の裾野が広い自動車企業はグループ内に残すべきであり、三菱自が持ち株会社の完全子会社となるのは到底ありえないとの考えだった。
三菱自は源流をたどれば、御三家の中でも長男格である三菱重工業の自動車部門だ。1970年に三菱重から分社化して誕生した。
現在の取締役13人のうち4人は三菱グループの商事、重工、銀行からの出身者が務める。日産出身は3人にとどまり、数で上回る。
「スリーダイヤ」のロゴも重要だった。ロゴの使用は三菱グループの「三菱社名商標委員会」で厳しく定められている。
三菱自が主力とする東南アジア市場ではロゴの知名度が高い。持ち株会社の完全子会社になれば、ロゴが使えなくなる。そうなれば、顧客を失う。
持ち株会社から2割強の出資受け入れ案検討
加藤は取締役会で様々な参画形式を検討し、持ち株会社から2割強の出資を受ける形式に考えが傾いた。日産から出資を受けている状況と変わらず、協業を進められる。
だが、統合の破談により、加藤の考えは表に出ることはなかった。「統合がうまくいけば何らかの合流で恩恵を得たかった」
ただ、ホンダはあきらめていないとみられる。三部は13日の記者会見で「三菱自を交えた3社での協業は進める」とあえて三菱自の社名を口にした。
三菱自に触れなかった日産の内田とは対照的だ。スリーダイヤを巡り、新たな再編の幕が開ける。
(敬称略)
ホンダと日産自動車が2024年12月23日、経営統合へ向けた協議入りを発表。持ち株会社を2026年8月に設立し、傘下に両社が入る予定でした。
日産が基本合意書(MOU)を撤回する方針に変わり、日産が筆頭株主の三菱自動車の合流も取りやめに。ホンダと日産は25年2月13日、統合協議を打ち切ることを決めました。最新ニュースと解説をお伝えします。
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日経記事2025.2.15より引用
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