【ドバイ=福冨隼太郎】
イスラエルは23日、レバノン各地に大規模な空爆を実施した。イスラム教シーア派民兵組織ヒズボラが持つミサイルなどの攻撃能力を取り除く狙いがある。
求心力維持を狙うネタニヤフ首相の強硬姿勢は、国際社会が懸念する全面衝突を誘発しかねない危険な「賭け」となる。
「我々を傷つけようとする者を、我々はさらに傷つける。
脅威を待つのではなくそれを予期する」。ネタニヤフ氏は23日のビデオ声明でこう強調し、ヒズボラへの空爆強化を正当化した。
中東メディアによると同国のガラント国防相は「レバノン全土でヒズボラの拠点に対する攻撃を拡大している」と語った。
イスラエル軍幹部は「攻撃の次の段階を準備している」と述べた。
イスラエル軍が23日に実施した空爆は、レバノンにあるヒズボラの拠点約1300カ所を標的とした。米欧の主要メディアは490人以上が死亡し、1600人以上が負傷したと報じた。
死傷者には女性や子どもなどが含まれているという。ロイター通信によると、レバノン政府高官は「(1975〜90年まで続いた)内戦の終結以来、1日としては最も多くの死者が出た」と語った。
イスラエルが狙うのは、ヒズボラによるイスラエルへの攻撃能力の排除だ。2023年10月にパレスチナ自治区ガザでイスラエルとイスラム組織ハマスの衝突が始まり、ヒズボラもハマスに呼応してイスラエルをロケット弾などで攻撃してきた。
レバノン国境に近いイスラエル北部の一部の住民は、イスラエルとヒズボラの交戦の影響で避難を余儀なくされている。イスラエル政府は今月半ば、こうした住民の安全な帰還をガザでの戦闘の目標の一つと定めた。
イスラエル軍報道官は23日の空爆に先立ち、映像を使ってヒズボラが巡航ミサイルを建物内に隠し持っていたなどと指摘。イスラエルに向けて発射する直前に破壊したと主張し、ヒズボラの危険性を強調した。
ヒズボラも反撃を強めている。イスラエルメディアによると23日には、レバノンとの国境から離れたヨルダン川西岸地区の入植地でも攻撃を知らせるサイレンが鳴った。ヒズボラが長距離ロケット弾を発射したとみられる。
イスラエル軍は現地時間23日夕方までに、レバノンからロケット弾165発がイスラエル領内に飛来したと明らかにした。
22日にはイスラエル軍によるヒズボラへの攻撃が強まっていることを受けて、ヒズボラ幹部が「際限のない新たな段階の戦闘に入った」と警告していた。イスラエルとヒズボラ双方の攻撃の応酬は、エスカレートの一途をたどっている。
ここにきてイスラエルがヒズボラへの攻撃を強めている背景には、ガザでの人質奪還が進まず国内でネタニヤフ氏への批判が強まっていることがあるとされる。北部でヒズボラの脅威を排除する姿勢を示すことで自身の求心力を高める狙いがある。
しかし、ヒズボラの戦力をたたくためのこうした強硬姿勢は、全面衝突に陥るリスクを高める。弾道ミサイルなどを保有し、ハマスとは比較にならない兵力を持つヒズボラがイスラエルと本格的に衝突すれば、双方が受ける損害は大きい。
22日にはイラクの親イラン武装勢力もイスラエルが占領するゴラン高原を無人機で攻撃したと発表した。ヒズボラと連帯する周辺勢力の介入拡大を招くおそれもある。
今のところヒズボラ側からのイスラエルへの攻撃による被害は限定的だ。ただ、ネタニヤフ政権内にはレバノンの首都ベイルートへの空爆強化やレバノンへの地上侵攻を求める強硬論もあるとされる。
ヒズボラが反発を強めてより大規模な攻撃を仕掛け、イスラエルにより大きな被害を与える可能性もある。双方の衝突がコントロール不能となればヒズボラの後ろ盾であるイランも巻き込み、中東情勢が不安定さを増す危険性が高まる。
分析・考察
イスラエルのヒズボラへの戦闘拡大には、この機に北からの深刻な脅威となっているヒズボラを一気に弱体化させようとする意図があり、「攻撃の次の段階」には地上軍の展開も予想される。
2006年のいわゆる第二次対レバノン戦争では、イスラエルはレバノンに約1ヶ月地上軍を展開した。
特に南レバノンに展開するヒズボラの掃討作戦となるが、攻撃はレバノン全域のヒズボラの拠点を叩くものとなることが予想される。
ガザ、西岸、そしてレバノンの三面にわたる軍事行動への懸念が出されているが、ネタニヤフ首相は強硬姿勢を崩さない模様。当面危機は拡大する。中東危機の米国大統領選挙への影響も懸念される。
(更新)
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パレスチナのイスラム組織ハマスが2023年10月7日、ロケット弾や戦闘員の侵入によってイスラエルへの大規模な攻撃を仕掛け、イスラエルが報復を開始しました。最新ニュースと解説記事をまとめました。
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日経記事2024.09.24より引用