27日は対ドルの円相場が自民党総裁選と金融政策を巡る思惑で乱高下した
27日投開票の自民党総裁選で石破茂氏が勝利したことを受け、米欧の市場関係者から目先は円高・ドル安が進みやすくなるとの見方が出ている。同氏が日銀の追加利上げに容認姿勢を示すとみられているためだ。円の上昇は日本の輸出関連株に逆風となるが、市場は中長期的な株高につながる成長戦略を求めている。
27日のニューヨーク外国為替市場で円相場は一時1ドル=142円10銭程度まで上昇し、1週間ぶりの高値を付けた。同日の東京市場では自民党総裁選で日銀の追加利上げをけん制する高市早苗氏が優勢との見方から、円は146円台まで下げる場面があった。最終的に石破新総裁の誕生で円は急騰し、米市場でも前日より高い水準で推移した。
相対的に「タカ派」の声
ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナルのチャーリー・マケリゴット氏は「明らかに(金融緩和に前向きな)ハト派の高市氏の代わりに、ほどほどにタカ派の石破氏が選ばれた」と指摘する。
石破氏は目先の経済運営で「物価高対応」に重きを置く考えだ。8月のロイター通信とのインタビューでは、日銀の7月末の利上げを輸入物価の引き下げにつながるといった観点で評価した。
市場では「石破氏の意外な勝利は10月にも起こりうる日銀のさらなる(利上げなどの)政策正常化の期待をあおり、円高論者を勢いづかせそうだ」(クレディ・アグリコルのバレンティン・マリノフ氏)との声が上がる。
27日は米東部時間朝に発表された8月の米個人消費支出(PCE)物価指数が市場予想を下回ったことも、米金利低下とドル売りを誘った。
米連邦準備理事会(FRB)がインフレ再燃を気にせず雇用の下支えに向けた利下げを進めやすくなり、今夏までの歴史的な円安の大きな要因だった日米金利差は縮小に向かうとの見方がある。
もっとも、円相場は7月上旬の1ドル=162円近くから9月16日の139円台まで急速に上昇した後は140円台前半から半ばで一進一退の動きになっている。
FRBが今後も通常の倍となる0.5%の利下げを続けるか0.25%刻みの利下げに移るか、市場は来週末公表の9月の米雇用統計などから見極めようとしている。
日銀の追加利上げの行方も読み切れない。
石破氏が当面は景気優先の構えをみせるうえ、年内の衆院解散・総選挙も視野に入れており、日銀が動きにくくなるシナリオも想定されるためだ。
日本株、目先は逆風か
石破新総裁の決定後、大阪取引所の夜間取引では日経平均先物が2000円以上急落した。
円相場の急速な上昇で輸出関連株を中心に収益悪化への警戒感が広がった。27日の米市場でも日本株の米預託証券(ADR)に売り圧力が強まり、トヨタ自動車やホンダがそれぞれ3〜4%安になった。
投資家が関心を寄せるのは、為替変動の影響に振り回されない日本経済の成長戦略を石破氏が打ち出すかどうかだ。
米資産運用会社アドベント・キャピタル・マネジメントのケビン・ザウ氏は「日経平均は目先は軟調になったとしても、具体的な資本市場の活性化策が出てくれば上昇に転じるだろう」とみる。引き合いに出すのは岸田文雄政権の「変心」ぶりだ。
同政権も当初は金融所得課税の見直しといった施策への警戒が先行し、株価は下落基調をたどった。だが、新しい少額投資非課税制度(NISA)の整備など「資産運用立国」を掲げて市場の評価が高まった。
安倍晋三政権時代から継続してきた企業統治改革といった動きもかみ合い、日本株相場は最高値を更新した。
海外投資家からの注目度が高い状態でバトンを受け取った石破氏は早々にその手腕を試される。
(ニューヨーク=斉藤雄太、伴百江)
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分析・考察
石破新総裁決定後、日経平均先物は一時6%強下落した。
①決選投票で競った高市氏と比べ金融財政政策がタカ派であること、
②金融所得課税強化への懸念が背景にあったとみられる。
①は石破氏は日銀の独立性を尊重するとしており、いずれ現政権同様の「中立色」に落ち着くだろう。
②は資産運用立国の流れを止めないとトーンを落としており、その懸念も落ち着いていくだろう。 選挙戦終盤の9/25日、石破氏は岸田路線の継承を打ち出した。
市場は、岸田政策の中でも成長力引き上げに直結する労働市場改革、エネルギー政策、半導体政策などの分野でまだ距離がある石破氏の政策スタンスがいい方向に修正されていくかを見極めたいと考えている。
自民党は9月27日投開票の総裁選で石破茂氏を第28代総裁に選びました。1回目の投票で過半数を得られず、上位2人による決選投票で215票を得て高市早苗氏に勝利しました。10月1日召集の臨時国会で岸田文雄首相の後継として第102代首相に指名される見通しです。